5 10歳の武神、無双する


 私はさらに加速。

 そして加速、加速、加速――。


 その速度は人間の限界域をはるかに超え、音の速さをも超え、雷のごとき速度で竜牙兵たちの真ん中に躍り出る。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 気合いとともに、私は連打を放った。


 息が続く限り、拳を繰り出し、手刀を振るい、蹴りを放つ。

 射程圏内にいる敵を、手当たり次第に砕いて、砕いて、砕いて、砕いて――。


「……ふうっ」


 一分後、その場には竜牙兵たちの残骸が転がっていた。

 もはや、動いている者は一体もいない。


「たった一分で竜牙兵の集団を……ぜ、全滅……!?」


 ルナリアが呆然と私を見ていた。


「し、信じられん……たった一人で……しかも、こんな子どもが……!」

「ふうっ……思ったよりも疲労が大きいな。やはり子どもの体か」


 私は眉根を寄せた。

 こんな雑魚どもを一掃しただけで息が上がってしまった。


「お前は……」

「ただの旅人だ」


 呆然としているルナリアに私は言った。


「気の向くままに歩いていたら、戦いに出くわしたので助太刀したまで。君の――民を守ろうとする心意気に打たれたのさ」

「……旅人、か」

「よかったら、しばらく逗留させてもらう。この国はさっきのような連中に攻めこまれているのか?」

「そうだ」


 うなずくルナリア。


「炎竜王ブレイズ。それがこの国を脅かす竜の名だ」


 ルナリアがため息交じりに言った。


「分かった。では、私がちょっと行って、その炎竜王とやらを倒してこよう」

「軽っ!?」


 ルナリアが思わずといった様子で声を上げた。


「ん、何か問題でも?」

「ブレイズの強さを知らないのか? 名前の通り竜王級だぞ? 国の一つや二つ、簡単に滅ぼせる奴だ」

「それくらいのレベルなら問題なかろう」


 私は平然と言った。


「いやいやいやいや」


 ルナリアは慌てたように両手を振った。


「お前の強さは見せてもらったが、ブレイズははっきり言って次元が違うんだ。たった一人の人間がどうこうできる存在じゃない」

「問題ないさ。竜王級なら過去にも倒したことがある」


 私はニヤリと笑った。


「過去って……ここ二十年ほど竜王級が人間世界に侵攻したことはないんだが。竜王と人間の戦争があったのは、お前が生まれるよりずっと前だぞ」

「まあ、細かいことは気にするな。通りがかった船だ。私はこの国のために戦うよ」


 どうせ、他に目標もない。


 新たな人生を始めるにあたって、当座の目標が欲しいからな。

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