4 10歳の武神、助太刀する

 国を守る役目にある者が、敵を前にして我先に逃げ出すとは。


 この後、民が襲われることを気にも留めていないのだろう。


 ならば、最初から兵になど志願しなければいい。

 私はそう思った。


「……いや、覚悟を持った者が一人だけいるな」


 あの女騎士だ。


 勇敢にも剣を抜き、竜牙兵と撃ち合っている。


「たとえ、あたし一人になったとしても――ガドレーザはあたしが守る!」


 気迫と共に斬撃を繰り出す。


 なかなかの使い手らしい。

 一体、二体となんとか倒していく。

 ただし、


「やはり多勢に無勢か」


 いくら彼女が一流の使い手でも、敵の数が多すぎた。


「きゃあっ……」


 とうとう剣を弾き飛ばされ、地面に倒れこむ彼女。

 それを竜牙兵たちが取り囲んだ。


「ここまでか……」


 彼女は唇を噛みしめていた。


「殺すなら殺せ……あたしが死んでも、後に続く者たちがきっといる……」


 この期に及んでも無様に命乞いをしない。


 ただ、悔しそうだった。

 民を守れないことが。

 志半ばであることが。


 悔しくてたまらない――そんな表情だ。


「案ずるな、娘」


 私は彼女の前に出た。


「な、なんだ、お前は……子ども?」


 彼女がポカンとする。

 すぐに表情を引き締め、


「子どもが戦場で何をしているか! 逃げろ! ここはあたしが引き受けるから――」

「問題ない」


 私はニヤリと笑った。


「君は十分に戦った。選手交代だ」

「選手交代だと……お前は――」


 彼女が私を見つめる。


「我が名はガーラ。かつて『武神』と呼ばれた男」


 言って、私は進みだす。

 竜牙兵の集団に向かって。


「ガーラ……?」


 背後からつぶやきが聞こえた。


「確か何十年か前にそんな名前の格闘家が魔王を倒したとか、なんとか――だが、今はもう100歳近い老人のはずだぞ」


 何十年?

 あの『魔王大戦』は、もうそんなに昔だったか。


 私にとっては、つい数週間か数か月前くらいの感覚なのだが――。


「なるほど、その武神にちなんで付けられた名前ということか」


 彼女がうなずく気配があった。


「申し遅れた。あたしはルナリア。このガドレーザ王国の第一王女だ」

「よろしく頼む」

「……って自己紹介してるときじゃない! あたしが戦うから、お前は下がっていろ」


 ルナリアが、こっちに来ようとするのが分かる。


「問題ない」


 振り返らず、私は走り出した。


 竜牙兵の集団に向かって、一気に加速する。


「なっ……!? う、動きが見えな――」


 背後でルナリアが驚愕の声を上げた。


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