『イーリアス』

 医務室に行くと、ジャンティは起き上がって、サクシードが用意した食事をがっついていた。

「お、サクシードわりぃな。面倒見るつもりが世話になっちまって。面目ない」

 サクシードを見るなり謝るジャンティ。

「いえ、お互い様ですから……もういいんですか」

「おう、バッチリよ。それにしても、イーリアスのやつを見なかったか?」

「……誰ですか?」

「そうか、言ってもわかんないよな。俺の友だちだよ、同じ訓練生の。なんだよ、友だち甲斐のないやつ」

 ジャンティが文句を言っていると、カーテンの向こうから声がした。

「誰が、友だち甲斐がないって?」

 サクシードが声がした方を見ると、ウェーブがかった長髪を後ろに束ねた、青白い肌の優しそうな顔をした男が近くまで来ていた。

「なんだ、来たのか。サンキュー」

 コロッと態度を変えたジャンティに舌打ちする。

「チッ、来なきゃよかったぜ。伸びてるかと思えば、元気そうじゃないか」

「まぁな、サクシードが全部やってくれたからさ」

 ジャンティが何気なく紹介すると、イーリアスは二度頷いた。

「見てた。彼が食事の世話をしてくれるんなら、あとで見舞いに行けばいいかと思って、食事を済ませてきた。……それくらいで疑うなよな」

「わりぃ、わりぃ。サクシード、紹介するよ。イーリアスだ」

 サクシードは向き直って、手を差し出した。

「初めまして、サクシード・ヴァイタルです」

 イーリアスは、その手をがっちり握った。

「イーリアス・ルースキンだ。ジャンティの友だちをやってる。これからもよろしく」

「よろしくお願いします」

 その握手を満足そうに見ていたジャンティは、二人に言った。

「ああ、これでスッキリした。一緒に訓練に励もうぜ。でもまぁ、実力の違いはいかんともしがたいけどな」

「さっきの一万メートル走はすごかった。見学に来た時の四方投げといい。まるでPOAの一員になるべく生まれてきたみたいだな」

 ジャンティとイーリアスに言われて、サクシードが照れる。

「そんなことはありません」

「いやぁ、これからもいろいろ教えてくれよ。俺もレベルアップさせてもらうからさ」

 ジャンティが期待を込めて言うと、イーリアスも言った。

「俺もご指導願いたい」

「俺でよければ……」

 サクシードが遠慮がちに言うと、二人は顔を見合わせて笑った。

「さて、午後から逮捕術だな」

 ジャンティが話題を変えると、イーリアスが訂正した。

「ああ、それなんだが、午後一は救急法に変わったそうだ。な、サクシード」

「はい」

「へぇ、そうだったのか。なんだ気合入れてたのに」

「ちょうどよかったじゃないか。今度は脳震盪で倒れるつもりか」

 イーリアスがたしなめると、ジャンティは不敵に笑った。

「ふっふっふ、そうはいくか。今日の俺は一味違うぜ」

「……やれやれ」

 呆れるイーリアスと、ジャンティの回復を喜ぶサクシード。

 三人は医務室を後にして、訓練ドームを出て、研修センターに向かった。

    

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