『訓練スタート』

 ドギュストによる訓練前研修も終わって、サクシードは訓練ドームに戻った。

 まずロッカールームに寄って、支給されたTシャツとスパッツに着替え、スニーカーを履く。

 着替え終わると、廊下でコーヒーを飲みながら待っていた、ドギュストとともに、訓練場へ向かう。

「気負わなくていいから。初めは鈍った体に喝を入れるつもりで、運動すればいいと思うよ。緊張しっぱなしだと、かえって体調を崩すからね」

 相変わらず気勢を削ぐ話をしながら、ドギュストが先を歩く。

 サクシードは全身に満ちてくるオーラを剛毅に変えてゆく。もう留まることはできなかった。

 訓練場の煌々と点けられた照明が彼を待っている。

 その下へ出て行った――。


 一周二百メートルのトラックを有する、小さな競技場ほどの広さの訓練場。

 そこでサクシードと同じ姿の訓練生が、百メートルダッシュで汗を流していた。

 訓練場を斜めに走るコースをダッシュし、回転が途切れないように走って戻る。その繰り返しだ。

 ドギュストが監督している教官のところへ行って話をつける。

 小柄で褐色の肌の、小ぎれいな顔をした、若い教官だ。

 二時間前に、サクシードを研修センターに案内した教官である。

「どうも、ナムジン教官」

「お世話様です、ドギュスト部長」

 一礼を交わす二人。

「新人の訓練生を連れてきました。あとはよろしくお願いします」

「はい、わかりました」

「じゃあサクシード君、頑張ってくれたまえ」

「ありがとうございました」

 頭を下げるサクシード。ドギュストはのんびりと去っていった。

 ナムジン教官が、サクシードに声をかける。

「研修はどうだった? POAがどんなところか、掴めたか」

「はい、概要はわかりました」

「そうか。じゃあ次は訓練の本番だ。大いに実力を発揮してくれ。その前に、まずみんなに紹介しよう」

 胸のホイッスルを口にくわえるナムジン教官。

 ピーッ。

 澄んだ音が響き渡る。

「集合!」

 訓練生たちがすぐさま駆け寄り、教官の前に十人ずつ横に三列に整列した。

「休め」

 ザッと全員が揃って肩幅に足を広げる。

 ナムジン教官は体格に似合わない大声で言った。

「今日から訓練科に配属になる新人を紹介する。サクシード・ヴァイタルだ。本人から自己紹介してもらおう」

 小さく頷いて合図され、サクシードは一歩前に出た。

「サクシード・ヴァイタル、十七歳です。今日付でPOA陸軍・警備課配属を目指して入隊します。速やかに任務に就くべく、精進して参ります。ご指導のほどよろしくお願いします」

 訓練生がうぉぉんとどよめいた。

 経験を滲ませる立派な挨拶。下馬評通り、只者ではない。  

 まばらだった拍手が、次第に割れんばかりになった。

「いいぞ! 頑張れ、新入り」

「ヒューヒュー、期待してっぞ」

「途中で逃げんなよ」

「そりゃおめぇだろうが」

 囃し立てる訓練生たちは底抜けに明るい。

 サクシードは強ばっていた表情を緩めて笑った。

「よし、そこまで! 休憩は終わりだ。さぁ、みんなお待ちかね。新人が来たら恒例の――」

と、そこで言葉を切るナムジン教官。

「一万メートル持久走だ」

「うげ、やっぱりやんのかよ」

「これだもんなぁ」

「グダグダ言ってないで、さっさと位置につけ!」

 ざわめきながらも、わらわらと全員トラックの外に出る。

「よっ!」

 サクシードの肩を後ろから叩く者がいる。

 ジャンティだ。笑いながらサクシードを褒める。

「すげぇいい挨拶だったぜ。考えてきたのか?」

「職場を変わることが多かったので、決めてあるんです」

「なるほどな。さぁ、一万メートルだ。トラック五十周。キツいぜ」

「はい!」 

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