『アニス・フェオーク』 

「あ、はい。初めまして」

 噂をしていた当人を突然、目にしたので、面食らうレンナ。

「あなたがレンナ・モラルさん?」

「はい、そうです」

「素敵! こんなかわいらしい方が世話人なんて。あ、失礼しました。お手紙読みました、ご丁寧にありがとう。それで、どんな方か気になって、お電話してみたの。迷惑じゃなかったかしら?」

「いいえ、私こそ、こんなに早くお話できてうれしいです」

「そう、よかった。いくつか質問があるんですけど、答えてくださる?」

「はい、喜んで」

「ありがとう。早速ですけど、レンナさんはおいくつ?」

「十七歳です」

「あら、サクシードと同い年! ますます素敵だわ。彼氏はいらっしゃるの?」

「いえ……いません」

「そうなの……サクシードをどう思います?」

「えっ」

 いきなり鋭く突っ込まれて、レンナが答えに窮する。

「あ、ごめんなさい、先走っちゃって。でも、重要なことなの。答えていただけないかしら……」

 真剣な眼差しでレンナに語りかけるアニス。

 レンナは少し考えてから言った。

「あの……かっこいいと思います……」

「脈アリね、嬉しいわ。実を言うと、サクシードは臨時警備士になってから、結構危ない橋を渡ってて、ずっと心配だったの。今度はPOAに入るって言うでしょ。もう無理やり側に引き戻すしかないって、夫と相談していたところだったの。自立したらあの子の自由だけど、命の危険には代えられないわ。そうでしょ」

「そうだったんですか……」

 レンナはアニスの話に納得した。

 その心配は家族として当然のことだ。

 たった一人のお姉さんを悲しませてはならない。

 アニスは心配してもしきれない、という様子で溜め息をついた。

「もう……弟ながら、私の心配ばっかりで、自分は無茶するのよ。言っても聞きやしないし、本当に困りものなんだけど……あなたみたいな人がいるなら話は別だわ。弟が無茶するのは、守るべき愛する人が傍にいないからよ。あなたがサクシードの恋人になってくれたら嬉しいんだけど」

「……」

 レンナは絶句した。

 そんなこと、言われてなれるものではない。

 サクシードはどう思うだろうか。

 POAに専念するのだから、恋人を作っている場合じゃないだろう。

 しかも、万世の秘法まで絡んで相当ややこしくなっている。それがわかっていて、複雑な事情にこれ以上巻き込めない。

 思い詰めているレンナを見て、アニスも反省した。

「行き過ぎたわね、ごめんなさい。あなたの気持ちも考えずに、無遠慮だったわ。だからね、あなたにサクシードの家族になっていただきたいの。手紙に「心を込めてお力添えします」とあったけど、それはこちらからお願いすることだわ。是非、弟のかけがえのない人になってください」 

 頭を下げられて、レンナは慌てた。

「あのっ、頭を上げてください。私でよければ、サクシードさんと、家族のようにさせていただきますから」

「本当に? ありがとう! 約束してくださいね。じゃあ、私とも家族ね。末永く宜しくお願いします」

 アニスと画面越しに笑い合う。 

 

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