『ジャンティー・フリュ』
思わぬことはあったが、電車は数分の遅れで、キュプリス中央駅に到着した。
サクシードは、初めてPOA本部に行った時、執行部長のドギュストから教えられた、高速エレベーターの場所に向かう。
エレベーターはキュプリス宮殿が建つ丘の、東の麓にある。
その場所までは図書館、博物館などの公共施設が建ち並ぶ、広い通りを歩く。
出勤時間だから歩く人の数も多く、緊張感はない。
例の早足で人を追い抜き、通りを曲がると、近くで警備員が二人立っていた。
(あそこか……!)
サクシードは一直線に歩いて行って、五メートルほど前で敬礼した。
警備員はどちらも三十代くらいの中堅で、揃って敬礼した。
「今日からPOAで訓練を受ける、サクシード・ヴァイタルと申します」
自ら名乗ると、警備員は二人で目配せし合った。
「IDカードを提示してください」
革ジャンの内ポケットから、手のひらサイズのIDカードを取り出して渡す。
一人がスキャナーをスラッシュさせて、身元確認する。
すると、後ろから人の気配がして、振り向くと、見知ったばかりの人物がやってきた。
「よう!」
同じ訓練生のジャンティ・フリュだった。
見学の際、サクシードと組手を組まされて、見事に技を決められたが、そのしこりを全く残さない若者だ。
「おはようございます」
サクシードが頭を下げると「おはよう!」と返した。
「しょっぱなから会うなんざ、ずいぶん縁があるんだな。いよいよ今日からか、よろしく頼むぜ」
「こちらこそ」
爽やかに挨拶を交わしていると、警備員が「照合しました、お通りください」と、サクシードに許可を出した。
「行こうぜ! 案内は任せとけ」
「はい」
二人は警備員に敬礼を返すと、高速エレベーターに乗り込んだ。
高速、というだけあって、十秒もしないうちに、地下のPOA本部に到着した。
もう一枚、分厚い鉄扉をIDカードの認証で通り抜けると、天井が五十メートル以上もある巨大な洞窟内に造られた基地がある。
平均四階建ての建物が建ち並ぶ場所を通り過ぎ、ひときわ大きな訓練ドームを目指す。
途中、緑色でも各自色目が違う制服の軍人たちとすれ違う。
もちろん、サクシードたちのように、普通の服で出歩く通勤者もいる。
「あの真鴨みたいな濃い緑の制服は、軍上部のお偉いさん。黄みが強いモスグリーンは少佐・中佐・大佐。薄荷色が通信官、色鉛筆の緑色が兵卒だ。中には紺とか臙脂色の制服の軍人がいるけど、あれは外部の軍関係者さ」
頷きながら、ジャンティからの情報に耳を傾ける。
「お偉いさんにはすれ違ったら挨拶を忘れるな。そうだ、ちなみに階級が上の将校の制服は杉か樅みたいな色してるから気をつけろよ。敬礼しとけば間違いない。POA本部ではあるが、結局、軍関係者が多く出向して来てるから、必然俺たちも縛られるわけさ。サクシードは軍隊経験はあるのか?」
「カエリウスにいた時は警備兵でした」
「いた時はって……どこかいろいろ行ってたわけ?」
「……世界各地を転々としてました」
「おおっ、すげぇ。只者じゃないと思ってたよ。じゃあ縦社会のABCはマスターしてるな。それが最初のネックだからさ」
「大丈夫です」
「そうか、頼もしいやつだな!」
いきなり背中をバシッと叩かれた。
サクシードはジャンティの大らかさを好もしく思った。
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