『研修』

 POA訓練ドーム――。

 ジャンティに続いて入ると、入口右側のロッカールームに向かった。

「俺たちはすぐに訓練に入るんだけどさ、サクシードはまず研修を二時間やってからなんだよ。着替えなくていいと思うから、ロッカーで待機しててくれ。教官が来たら、どうするか聞けばいい」

「はい」

 ロッカールームに来ると、ジャンティはドアを開け、大きな声を張り上げた。

「おはようございます!」

 すると中から「おーっ」とか「ウーッス」とか、声が聞こえてきた。

 ジャンティが部屋に入り、続いてサクシードが入る。

 部屋は両端にロッカーと、中央に長短の長椅子が長方形を作っていた。

 その椅子に、Tシャツとスパッツに着替え終わった訓練生たちが六人ほどたむろしていた。

「先輩方、紹介します。新入りのサクシード・ヴァイタルです」

 サクシードは深々と頭を下げた。

「おはようございます!」

「おーっ、新入りか。何か月ぶりだ?」

「二か月くらいですよ」

「そんなもんか。訓練ばっかやってるから、時間間隔が麻痺してな」

「はっはっは」

 一番貫禄がある訓練生が場を和ませる。

「新入り、今まで何やってた」

 その彼がサクシードに問う。

「臨時警備士として、各地を転々としてました」

「ほう、目的は?」

「テロリストの動向を探るためです」

「なるほど、こいつは筋金入りだぜ。若けぇのに大したもんだ。で、成果は?」

「二度ほど接触して、取り逃がしました」

「そうか……まぁ、単独じゃうまくいかねぇよ。テロには綿密な捜査と、有無を言わせぬ武力が必要だからな。しかし、その心意気を買われたんだろうぜ。俺たちも似たり寄ったりだ。お互い訓練を極めようぜ」

「はい」

 こうしてサクシードは、スムーズに訓練生たちに受け入れられた。

 新入りの武勇譚は一番貫禄のある、ざんばら髪に左頬に傷のある訓練生、ガルーダ・バルモアによって適切に伝わり、サクシードは一目置かれることになった。


 午前八時半——。

 教官に連れられて、研修を受けることになる場所に案内されるサクシード。

 道中、訓練生のガルーダに聞かれたことと同じことを教官に聞かれ、大いに気に入られた。

 研修センター。

 訓練ドームから道を隔てた向かい側の、三階建ての建物に入る。

 階段を上がり、二階の真ん中あたりの部屋に通される。教官はそこで退出し、一人で待つことになる。

 窓から訓練ドームが見える。

 待つこと十分。そこに現れたのは、以前、POA本部までサクシードを案内した、執行部部長ドギュストだった。

「やぁ、おはよう。また会ったね」

「おはようございます」

 立って頭を下げるサクシード。

「いいよ、座って。今日は君の訓練前の研修を仰せつかった。よくあることなんだが、POAは人材不足と調整でドタバタしてるもんだから。ところで、昨日決まったことなんだが、君は訓練生の第四期に急遽編入されるそうだ。経験から考慮されたそうだよ。だから、君の実戦デビューは大幅に早まって、今年の豊穣の十月になる」

(豊穣の十月——!)

 サクシードは思わぬ知らせに、ドクンと胸が高鳴った。

 だが彼は、レンナにその情報が伝えられていたことを知らない。

 ドギュストはすべての成り行きを知りながら、何食わぬ顔で話を続ける。

「というわけで、この事前研修は、実戦までの流れとPOAに配属されるにあたっての心構えについて学習する。二時間、よろしく頼むよ」

「よろしくお願いします」

 俄然、気合の入ったものとなる。


   

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