『出発時間』

 七時十五分になった。

 サクシードが出発する時間に、レンナとフローラ、ロデュスの三人が、見送りに庭先に出る。

「じゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい、サクシードさん!」

「気をつけて行ってらしてくださいね」

「行ってらっしゃい。お姉さんへのメール、送信しておくわね」

「ああ、頼む」

 手を上げて、離れの向こうの道路へ抜けていくサクシード。姿が見えなくなった。

「行っちゃいましたね……」

 ロデュスはどこか寂しげだ。

「そうですわね……慌ただしかったですけれど、反面、楽しくもありましたわね」

「うん……さてっと、今日からいつも通りかぁ! 気晴らしに散歩でも行こうかな」

 思いっきり伸びをしてからロデュスは言った。

 すると後ろから声がした。

「まずは日常に戻らないとな」

「ラファルガーさん、もう出勤ですか?」

 ラファルガーがバックパックを肩から下げて歩いてきた。

「……たまには早く行って、掃除でもしようと思ってな」

「偉いわ、ラファルガー。どこぞの散らかし魔王とは大違い!」

「ハハハ」

 みんなでひとしきり笑って、ラファルガーを送り出した。

 ロデュスもそのまま散歩に行くと言うので、レンナとフローラが残された。

「よーし、フローラ。お掃除頑張ろうね!」

「はい」

 二人は掃除の分担を決めて、それぞれ取り掛かった。


 サクシードは歩くのが速い。

 実はバッソール駅まで普通の人なら十分かかるところを、八分内で着くほどだ。

 駅に着いてホームで十五分ほど待つ。

 その間、辺りを見渡してみる。

 下りのホームの向こうは木立になっていて、なだらかに傾斜している。

 踏切が三十メートルほど向こうにあって、一本道が東に延びていた。

 その一本道の百メートルくらい先には、大きな道路があり、これが南北を貫く主街道である。

 右(南)側は開けて、広大な田畑と点在する家々。斜め後方はベッドタウンが林立している。

 左(北)側は葉を落とした木々が奥まで続いていて、集落は見えない。

 サッと視界を横切ったものがいる。鳥だ。ぴいぴい啼きながら遠ざかる。春本番はもう近いと知らせているようだ。長閑な光景にすっかりリラックスさせられた。

 再びPOAに配属されることに頭を切り替える。

 アナウンスが電車の到着を告げる。電車が来た。下ろしていたボクサーバッグを担ぎ直した。

 朝の通勤ラッシュで、車内は乗客でいっぱいだ。

 列の先頭で待っていたサクシードは、降りる数人の乗客を待って乗り込んだ。あとから乗り込む乗客のために、車内の中央まで進む。

 途中、女性客から漂ってくる香水の匂いに辟易して、結局、隣の出口まで来てつり革を掴んだ。

 間もなく電車は滑るように発車した。

 



 

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