『男の世界』

 ダイニングに全員が揃った頃には、時計は六時を回っていた。

「いよいよだね、サクシード。スキッとした顔しちゃって、意気込み満点だね」

 ファイアートが調子よく捲し立てる。

「POAの訓練って、どんなことやるんだろうね」

「犯罪捜査や防犯・警備の訓練。拳銃・逮捕術・救急法、法学・刑法・国際法なんかを勉強することになる」

 サクシードがズラッと訓練の内容を挙げて、全員の目を丸くさせる。

「それって警察官と同じ内容の訓練ね。テロリスト相手に特別なことってしないの?」

 レンナが聞くと、サクシードは頷きながら答えた。

「そうだな、扱う武器の種類は違うし、扱うための特殊訓練があるな」

「すっごいなぁ、そんなことが十七歳で訓練できちゃうんだねぇ」

 ひたすら感心するファイアート。

「サクシードは警察官になろうと思ったことはないのか?」

 ラファルガーが尋ねた。

「活動が狭められてしまうからな。それよりは臨時警備士の方が動きは取れる……警察官は昇進制度があって、そっちには興味がなかったんだ」

「ストイック……! まさに憧れの男の世界だよ」

「フィート……憧れたことあるの?」

 レンナが啞然として聞いた。

「そりゃあるよ。男はいつだって、強くて立派な世界に憧れるものさ」

 目を閉じて歌うように手を伸ばすファイアート。

「でも、門前払いだったのね」

 ピシッとファイアートが固まる。

「レンナさ~ん、今のは酷いですよ。憧れたって、手が届かなくったっていいじゃないですか。僕だって力さえあれば、カピトリヌスの礎になりたいと思ってましたよ」

 ロデュスが傷ついてしまい、レンナが慌てて謝る。

「ごめんね、そんなつもりはなかったのよ」

「ロデュスには武力ではない力があるわ。芸術という無限の力が。その表現力は武力に勝ると思うのだけど、どうかしら?」

 フローラがきっぱりと意見を述べたので、ロデュスも慰められた。

「ありがとう、フローラ」

 このやり取りを聞いていたサクシードは思った。

 人にはそれぞれ本分がある。その本分に根差していけば、どこかで合流するものだ、と。

「まぁ、何にしてもだ。サクシード、頑張ってくれよ。POAはやっぱり選ばれた男が集うところだからね。是非、訓練をこなして、習得してくれ。それで食べていけるのは男の正道だよ」

 ファイアートが自分の分もと、期待をかける。

「ベストは尽くすつもりだ」

 虚飾をそぎ落としてサクシードは答えた。

 何やら武器の部品を食べているような気分で食事は終わり、各自出かける用意をしたり、用事を片付けた。

 


   


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る