『豪華な夕食』

 夕食はガーリックステーキに山盛りサラダ、水菜のシャキシャキスープ、ベリータルト。

 サクシードのためのスタミナ料理である。

 レンナとフローラが準備に勤しむ間、ファイアートを除く三人は穏やかに談笑していた。

 一人用のソファーでは、ファイアートが正体をなくして寝ている。

 フローラの「お夕飯出来ましたわよ」という一言で、ファイアートがガバッと跳ね起きた。

「よっしゃ、メシメシ―—!」

 一目散にダイニングに駆け込んだ。

 呆気にとられたサクシードだったが、ラファルガーはこう言った。

「……いつもああなんだ。あいつなりに場を刷新しているつもりらしいぞ」

「そうなのか?」

 サクシードが顔をしかめると、ロデュスが口を片手で覆って笑った。

「一応、恥ずかしいとは思ってるみたいですよ。フローラに諫められるのが一番、応えるらしいですから」

「へぇ……傍若無人に振舞ってるようでも、リミッターはあるんだな」

「まぁそれも、ギリギリですけどね」

「なるほど」

 納得しつつダイニングに入ると、そこには目を奪われるほどの豪華料理がお目見えしていた。

 鉄板で湯気を上げるステーキ、色とりどりの新鮮サラダ、水菜のスープは金色のコンソメ仕立て、そしてベリータルトの艶。

 白い皿に盛られたライスの美味しそうなこと!

 食器、そしてナイフとフォークに至るまで、ピカピカに磨かれて配置され、ナプキンも本式のディナーと同じく畳まれていた。

「さぁ、みんな座って」

 レンナが言って、赤いエプロンを首から外す。

 サクシードはその動作を見守ってから、席に座った。

「どうぞ、大家さん」

 ファイアートがレンナに手を差し向けて言った。

「それでは、サクシードのPOAでのたゆみない発展を願って」

「乾杯——!」

 今日の食前酒はシードルだった。

 口の中で弾ける炭酸は、喉越しも爽やかだ。

 みんな、今日はいろいろあったな、と考えていた。

 サラダを思い思いに取り分け、前菜代わりに食べる。

 一口サイズに千切られたレタスとキュウリが、パリパリと音を立てる。

「おおーっ、この肉汁! 最高」

 ファイアートがステーキを分厚く切って口の中に運ぶ。

 男性陣は200グラム、女性陣は100グラムだった。

 サクシードは普通に切って、ライスとともに味を堪能した。

 ラファルガーは表情には出さないが、肉の食べ方はワイルドだった。

 ロデュスは付け添えのインゲンやニンジン、ポテトから食べていた。

 フローラは小さく口を開けて、上品に食べていた。

 レンナはサラダ、肉、ライスと、順繰りに味わった。

「レンナたちの料理の腕前は達人級だな。スープからステーキまで、全部手が込んでる。俺だったらこうはいかない」

 サクシードの賛辞に、レンナとフローラはニコッと笑った。

「そう言ってもらえると、作り甲斐があるわ」

 レンナが返すと、ロデュスがそれを裏付けた。

「実際、二人は本当にすごいんですよ。例えばこのサラダ、ドレッシング以外の水気がないでしょう?」

「ああ」

「これは別に、丹念にキッチンペーパーで、水気を拭きとってるんじゃないんですよ。食べる時間を遡って、ざるで水気を切って。傷まないように絶妙なコントロールでざるを振って、余計な水分を落として。その上でキッチンペーパーで拭く、ということをやるんです」

「へぇ、そんなに手間が」

「サラダスピナーっていう、サラダの水切り専門の道具もあるんですけどね。それを使わないで、この仕上がりですから。手間を惜しまないで料理に手をかけると、こんなに違うんだって思いましたよ」

 サクシードも感心しきりだった。 


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