『アクシデント』
サクシードが再びシャワーを浴びている間、フローラを交えた五人は意見を述べ合った。
「フローラちゃん、見てた?」
「……拝見してましたわ。サクシードの実力は、レンナさんが思っていた以上でしたわね」
「そうなのよ……教える前に、知ってるって言われてるみたいで、なんか……」
「拍子抜け、ですか?」
「うん」
「サクシードにしてみれば―—短い間のレンナさんとのやり取りで、気持ちの準備ができていたのじゃないかしら? それは、レンナさんを信頼しているからこそ、可能なことなんですよ」
顔を赤くして黙り込むレンナを、ファイアートが勘ぐる。
「何ですか、その反応は! なんかあったでしょ?」
「な、何もないわよ」
「ロデュスも言ってたけどね、君はサクシードに対して無防備すぎるんじゃないの? もちっと謎が多い方が、いろいろ引っ張れるよ。戦略的に」
「そんなこと……」
「ないって言いきれる? 万世の秘法を開示したら、謎の大半は解けたとおんなじじゃんか。呼吸まで読まれちゃって、あとはベッドの上しかお楽しみがない、なんてことにならないようにね」
「何言ってんのー?!」
爆発して、レンナはファイアートを追いかけまわした。
サクシードが戻ってきたのは、その時だった。
ファイアートの肚にクッションを当てて、上から拳をのめりこませた瞬間のこと。
びっくりしていたサクシードだったが。
「元気だな?」
クスッと笑って、ソファーに腰かけた。
どうでもいいが、動じることの少ない男である。
レンナが一瞬で大人しくなったのを、ファイアートはもどかしく思ったが、次には二人に悪戯を思いついた。
脇からサクシードの側に行って、耳打ちする。
「レンナを落とすにゃ、必殺技があるよ」
「何の話だ?」
「処女が爽やかさを売るなら、男は肉体美でしょ!!」
言うなり、サクシードのTシャツをめくりあげた。
「ギャーッ!!」
サクシードの鍛え上げた上半身があらわになる。
レンナは右隣で身体をそむけて、両手で顔を覆った。
「こらそこ! なんで「キャー」じゃなくて「ギャー」なの? しっかり拝んどきなさいよ、いずれお世話になるんだから」
「……悪趣味だなぁ、もう」
ロデュスが盛大に溜め息をついた。
サクシードはTシャツをさっと直して、ファイアートに言った。
「悪ふざけが過ぎるぞ。もう一度因果界に往って、決闘を申し込もうか?」
「冗談でしょ、冗談。マジになんなって!」
ニヤニヤするファイアートに、ラファルガーが言った。
「あの世の果てまでぶっ飛ばしてもらえ」
「おー、ラファルガー! 便乗するかね、珍しい」
憎ったらしくファイアートが言うと、ラファルガーは一言。
「俺も加勢するぞ、サクシード」
レンナをなだめていたフローラが仲裁した。
「やめてくださいな、騒々しい。何がもつれてレンナさんに恥をかかせるんですの? ファイアートは悪い癖が治ってないようですわね」
「……そう言えば、フローラ。なんで君、男の裸に無反応なの?」
「特別な好意がなければ彫刻と同じです。サクシード、あなたに罪はありませんけれど、レンナさんに謝って。このシンパティーアは、レンナさんの裁量で運営されています。秩序を乱すのは十分反省すべきことなんですよ」
「それもそうだな。——レンナ、ごめん。悪かった。こんなことは二度と起こさないから、許してくれ」
「……」
「レンナ……」
レンナは真っ赤になって、涙目になりながら言った。
「いいの、サクシードは全然悪くないわ」
「あーあー、泣かせちゃって。これだから筋肉で食ってるやつは……」
ファイアートが言えたのはそこまでだった。
サクシードは恐ろしく速い動作で、立っているファイアートの右腕を捻り上げた。
「イデデデ! ギブ、ギブ!!」
「俺の限界が知りたいなら、別の方法にするんだな」
ドン、とソファーに突き倒して、ファイアートはドスンと尻もちをついた。
「……ったくぅ、ほんのお茶目ゴコロなのに、ムキになるんだからね。おお痛てぇ」
フローラが指をスウッと下から上になぞった。
すると、ファイアートは急にフローラの指を目で追って、コテンと爆睡してしまった。
「お夕飯まで休んでてくださいな」
フローラを怒らせると、こうなるのである。
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