『阿吽の呼吸』

 その様子を遠巻きに見ていた三人は、呆気に取られていた。

「これは……ひょっとして、お互いを知りすぎて本気モードになれない、ってやつでは」

 目を点にして、ファイアートが言った。

「最接近した後だしな」

「え? ああ……そう言えば、僕ら三人には普通ですけど。サクシードさんに対しては、無防備と言っていいくらいですよね」

 ラファルガーの指摘に、ロデュスが二度頷いた。

「いつものレンナなら、羽交い絞めなんてされたら、焔弾えんだんくらわした上に、煉獄舞させてるしな」

「あのレンナさんが手心ですか……これもサクシードさんの人徳ですかねぇ」

「——しかし、入門したばかりのサクシードに、いきなりグランドトライン大三角使うか? どんだけ過大評価なわけ」

「万武・六色がどういうものか知ってもらうには、必要なショーだったと思うがな」

「そうですね……レンナさんの狙いは正確ですから」

 そうこうしているうちに、サクシードたちが合流する。

 ファイアートが口火を切る。

「ちょっとお二人さん、どうなってんの?」

「何が?」

 レンナが素っ気なく問う。

「戦ってる、って言うより、お互いの阿吽の呼吸を確かめるみたいでしたけど」

「よくわかったな」

「へ?」

 サクシードが言った。

「呼吸、つまり出方を窺うためには、タイミングを計るのが先決だ。今回はレンナがわかりやすく教えてくれたけどな。それを狂わされていたら、俺でもお手上げだった」

「ふーん……ラファルガーが言ってたけど、ショーの意味合いが強かったのかい、レンナ?」

「もちろんよ。サクシードには実力を思い知らせる戦法は通じないわ。よく攻撃を読むし、掴む。まるで火が風で勢いを増すように敏い。……だから、ヒットアンドアウェイを使うしかなかったの」

「あらま、それで最初っから敗北宣言してたのね」

「私にはほとんど実戦経験がないもの。鍛え抜かれた勘には敵わないわ。これなら教えることは型だけで済む。それに―因果界に来られたタイミングも、私の槍の一撃じゃないでしょ?」

「……気づいてたか」

「えっ、マジ?!」

「さっきのブラックアウトで掴んだ勘で、意識の位相を変えることを覚えたみたいだった」

「げっ」

 おののくファイアート。サクシードが苦笑する。

「言っておくが、レンナが光の槍を手で回転させたのも、それを確かめるつもりだったからだぞ」

「サクシードさん、心が読めるんですか?!」

「いや……それも勘だ」

「……」

「二人とも大したもんだ」

 ラファルガーが褒めると、サクシードたちは顔を見合わせて笑った。

「はいはい、なんかしてやられた感でいっぱいですけど。戻って今度こそのんびりしようぜ。そのつもりでオフにしたのに、すっかり取り紛れちゃって」

「悪かったな」

 五人は因果界を後にした。

 やはりサクシードは手助けされずに、無事に真央界の下宿に戻れたのだった。


 

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