『取り囲む事情』  

 レンナは言った。

「彼らは戦争の扇動者であり、諸悪の根源とされます。主に内戦が絶えないカピトリヌスや、テロの頻発しているエスクリヌスに潜伏しているのです。そして、『因果界』では、二大勢力が領土争いを展開しています」

「ちょっと待ってくれ、環境修復技術者がどうやって戦うんだ?」

「……『万世の秘法』には、表と裏が存在します。表は環境修復技術者。裏は戦闘技術『万武・六色ばんぶ・ろくしき』が体系づけられているのです」

「この中ではレンナだけが表も裏も修法行したんだよ。裏の本部がウィミナリスにあって、そこで鍛錬を積むわけ」

「さらに、裏の位階者を束ね、『呪界法信奉者』への対策を講じているのが、『パイオニアオブエイジ』。対テロ組織です」

「……そうだったのか」

 やっとサクシードも腑に落ちた。

 これは自らが目指す場所へ行くための導きなのだ、と。

「ここまでが『万世の秘法』入門レクチャーです。あなたはどうしたいですか?」 

「さっきから気になってるんだが、なんで丁寧語なんだ?」

 サクシードがそう言った途端、レンナがふわりと笑んだ。

「ごめんね、このレクチャーをする時は、意識をトランス状態に移行しなくちゃいけないの。でも集中できて、より頭の中に入るでしょ?」

「なんだ……」

 しかし、レンナについて、ものすごいことを聞いたのに、頭の中を通り過ぎてしまった。

「それでさっきの続きなんだけど、サクシードはどうしたい?」

 改めてレンナに聞かれて、サクシードは答えた。

「万武・六色というのを、もう少し詳しく知りたい。ウィミナリスに本部があるのはわかったが、どういう資質が必要なんだ?」

 ファイアートが代わりに答えた。

「資質って……やっぱやる気でしょ。超常能力自体を一から身につける人もいれば、逆に能力が開花してて、制御するために鍛錬する人もいるよね」

「そうか……」

「っていうか、レンナに一から十まで教わればいいんだよ。修法者にはそれができるんだから」

「レンナに―—?」

 レンナは冷め切った紅茶を一口飲んだ。その柔らかな仕草からは、『万武・六色』の皆伝者らしき威厳は見つけられない。

「伝授してくれるか?」

「いいわよ」

 あっさりそう言った。手を組んで両腕を伸ばした。

「そのために、私の下宿に預けられていたんだと思うしね」

「だよなぁ……遅かれ早かれ、こうなってたよ、絶対」

 ファイアートがぽきぽき首を鳴らした。

「僕もちょっとだけ齧ってるんだけどさ、レンナには勝てる気がしなくてねぇ。実は居候してるうちに、さらに腕を上げたんじゃないか、ってな。もう、けんもほろろなわけよ」

「へぇ……一度、手合わせ願いたいな」

「そう言うと思ったよ! いっぺん叩きのめしてもらいな。体で覚えた方が手取り早いし」

 事もなげにファイアートがサクシードの敗北を予言した。

「もっとも、君の矜持まで砕けないといいんだけどね」

「言っておくけどサクシード……体術とか、戦いの勘とか、そういう面では私、敵わないんだからね」

「わかってる」

 どんなにレンナが強かろうと、短い間に見知った、彼女の本質的な優しさは変わらないことを、サクシードは知っていた。

  

  

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