『意外な秘密』
「と言っても、城を飛び出した不良王子なんだけどね。メーテスは商人の台頭があって、王家が衰退しただろ? 今や名ばかりで支持者も少なくて落ちぶれてるんだけど。両親が王家のプライドにしがみついて、離れないわけ。一人息子はそれに愛想尽かして城を出奔した、っていう経緯があるのさ。とんだ醜聞だろ?」
皮肉たっぷりにファイアートは並べ立てた。
「……よく自立できたな」
サクシードはややこしい経緯に驚いて言った。
「まぁね……でも、世の中に無関心でなければ、嫌でも鼻につく高慢ちきさだったよ。お情けで商人の税金で養ってもらってんのに、贅沢が好きで、放埓で。昔っからの重臣が、未だに自分たちを崇めるべきだって信じてるんだからね。みんな呆れてんだよ。僕はそれを見聞きしながら育ったのさ」
「……」
「そんで、レンナの実家のモラル家に転がり込んで、厄介になってたんだよ。びっくりしたね、一族の女の子にこんな才色兼備がいるなんて」
「何言ってんだか」
レンナは取り合わなかった。
「レンナもだけど、おじさんもおばさんも立派な人たちでね。二人の薫陶を受けて、僕は大いに世間勉強させてもらった。サクシードがPOAに所属する気持ちはわかる気がするんだ。と言うのも、おじさんたちは移民の待遇改善に尽くす傍ら、POAの事務局とも協調関係にあったんだよ。特に医療班の活躍が印象深かった。ってなわけで猛勉強して、医療大学に進学したのさ」
「初めて聞いたわよ、そんな話」
レンナが驚いていると、ファイアートが鼻を鳴らした。
「フン、どうせ僕が真面目に志望動機を語ったって、君は信じやしなかったさ。僕に肘鉄を食らわせてばかりだった、当時の君にはね」
「レンナの両親には筋を通したんだな。立派じゃないか?」
サクシードがレンナに言った。
「サクシードはそう言うけど……自分で言うくらいだから、この人の素行の悪さは只事じゃなかったのよ! がなり立てる、物は壊す、私の両親に説教されると面白くないから暴れまわる……もう大っ嫌いだったもの」
「へぇ……」
「レンナが絵にかいたような優等生だったからね。手酷いいたずらもしたかな。その度に……」
「フィート!」
「おおっ、こわっ! これでもレンナは武芸の心得があってね。年上の僕が毎度コテンパンにやっつけられてたわけ。なんか手加減しなくていいって、両親に言い含められてたみたいだよ」
サクシードの信じられない、という視線を受けて、レンナは両手を激しく横に振った。
「たっ、大したことないのよ。ほら、留学先のウィミナリスって、武芸の国でもあるでしょ? せっかくだから合気道みたいな護身術をちょっと……サクシードには勝てないからね!」
「おや、なんでサクシードには勝ちたくないの? 珍しいー!」
ファイアートが面白がると、レンナは真っ赤になって俯いた。
「ふむ、乙女心は複雑ですなぁ」
片目を瞑ってニヤニヤするファイアートを、フローラがたしなめた。
「そのくらいにしてあげて、ファイアート。レンナさんの身の置き場がなくなってしまうでしょう。それでは紳士とは言えませんわよ」
「はい!」
ファイアートは背筋をピンと伸ばした。
彼のしょうもないところは、フローラが締める。それでシンパティーアは安泰だった。
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