『離れでの昼食』

 遅れてレンナが合流して、離れに全員が顔を揃えた。

「お待たせー!」

「よっしゃー! メシ、メシ。いただきまーす」

 ファイアートが早速、サンドイッチに手を伸ばした。

「ふう」

 レンナがソファーに座った瞬間、そよと吹いた風が、髪のほのかなオレンジの香りを、サクシードにふわりと届けた。

「……!」

 顔に出さないように苦心している、サクシードの斜向かいで、ファイアートがにやりと笑った。

「あーっ、やっぱフローラちゃんのサンドイッチは最高だよね。しっとりしてるけど、具がふわっとしてて、絶妙の押し加減。完璧でしょ!」

 紛らすようにファイアートが声を上げる。

「フフッ、ありがとう。もう少ししたら、レタスも自家製になるんですけど。ね、レンナさん」

 フローラがレンナに振る。

「そうだね。自家製野菜たっぷりのサンドイッチ、食べたいよね。落雨の六月まで約二か月かぁ。きっとあっという間よ」 

「ええ」

「サクシード、中身のハムとチーズは、下宿の北西にあるアルビコッカ村の牧場のものなんだぜ。旨いだろ?」

 ファイアートがサクシードに同意を求める。

「こんなコクのあるハムもチーズも初めて食べたな」

「おっ、なかなか繊細な味覚だね。警備士の食事って粗食のイメージがあるけど」

「こればかりは人による。外食派もいれば自炊派もいる。俺も簡単なものしか作れないが、自炊派だしな」

「あれっ、道具って持ち歩いてないよね?」

「現地調達で、あとは人に譲るんだ。特に俺みたいにあちこち転々としてるやつは、道具を選ばない」

「ふーん、なるほどねぇ」

ファイアートはしきりに感心していた。

「そう言えば、下宿の食事当番も交替にするって話があったわよね。サクシードがPOAの訓練で落ち着いたら、一度シフト組んでみる?」 

「いいですね、お任せしてると腕が鈍りそうですし」

 レンナの言葉に賛同するロデュス。

「ロデュス、自信満々じゃんか」

 ファイアートがからかうと、ロデュスは手を横に振った。

「いえいえ、僕は不自由じゃないってだけで、大したものは……。ずいぶん久々です、手料理を食べてもらえるのは」

「楽しみにしてるわね、ロデュス」

「ハハハ、頑張りますね」

「うん」

 我関せずで黙々と食べているラファルガーに、レンナが問う。

「前にも聞いたけど、ラファルガーは料理を作って食べてもらうことに、抵抗はないのね?」

「―—心配か?」

「ううん、話を披露してほしいだけ」

「……特に変わったことはないぞ。父子家庭だったから、妹二人に食べさせるのに、見よう見まねで料理を覚えた。知っての通り山岳地帯の料理だからな。野菜のゴロゴロ入ったシチューとか、木の実入りのパンとか、イノシシやウサギを捌いて串焼きは作れる。もっとも手に入りにくいだろうが」

「そっか。あ、でもイノシシが捌けるんなら、シーフードもこなせるよ。チャレンジしてみて。私でよければ教えるから」

「そうだな」

「なぁなぁ、僕にも聞いてよ」

 ファイアートが自分を指差して言った。

「どうぞ、ファイアート」

 レンナが手を差し向けた。

「僕の料理歴は意外と長いんだよ。これでも家が高級嗜好だったから、本物には出合ってたんだよね。興味持ったら、両親に見つかんない程度に、料理長が手ほどきしてくれてね。腕はお墨付きだよ、任せてくれ」

「高級嗜好……? 料理長……?」

 サクシードが困惑していると、レンナが溜め息をついて言った。

「そこまで言ったんだから、白状しちゃえば? サクシードにだけ隠しておくなんて変でしょ」

「そりゃそうだ。聞いて驚くなよ。僕の姓はメイタリアス、つまり南端国メーテスの王子なんだ」

「はっ……?」

 サクシードは一言発して、珍しくポカンとした。

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