第5話 カフェで楽しく話して、それで終わりのはずだった
俺と
今日の目的は、カフェでまったり過ごしながら談笑すること。そのため比較的静かでオシャレなカフェを探し出し、リストアップした中から美海さんに選んでもらった場所が今日の目的地だ。
「今日行くカフェ、行ったことありますか?」
隣を歩く天使、もとい美海さんから可愛らしい声で聞かれる。絶対にカフェという場所に1度も行ったことがないなんて言えない。
しかし、今日行くカフェはネットで調べたところ、男子にも人気なカフェのようだ。何度もカフェに誘ってくれた真希奈には悪いことをしているみたいで、すごく申し訳ない。
今度お詫びに俺の方から誘うか……。ツンデレ真希奈になるのは確実だろうけど。
「……いや、今日行く場所は初めてです。美海さんは行ったことあるんですか?」
「私も初めてです。実はそもそもカフェに行ったことがないので、すごく楽しみです」
美海さんもあまりカフェに行ったことはないのか。女子は皆オシャレなカフェが大好きだと思ってたけど、そうでもないんだな。
「あっ……」
とても重要なことを思い出した。
現実でも一目見てすごく可愛いと思ってからあまり直視できていなかったせいだ、と言い訳するが今はそれどころではない。
俺は……美海さんに対して、とても最低なことをしていたことに気づいた。
「???」
思わず声に出してしまったせいか、何かあったのかと美海さんは下から顔を覗き込んでくる。
「美海さん、ごめんなさい!」
俺は今日美海さんと会って、まず何をしただろうか。あまりの可愛さに直視できず、視線を逸らして会話を始めてしまった。そのせいで今も直視出来なくて……服装を褒めることを忘れてしまった。
出掛ける前に服装を褒めなかっただけで真希奈に何度も怒られたのを思い出す。
『女の子がせっかく
「……え? なんですか突然」
急に謝られて、目の前で何が起きているのか分からずきょとんとしている美海さん。
もしかして、あまり気にしていないのだろうか。……いや、そんなはずはないか。
「本当にごめんなさい! そういえば俺……美海さんの服装褒めてなかったなって思って。その……言い訳に聞こえるかもしれないけど、会った瞬間つい見とれちゃって言うの忘れて……すごく似合ってると思います!」
怒られることを覚悟して再び謝ってからそう言うと、美海さんはクスッと笑って口元を緩めた。
「あまり気にしてないので大丈夫ですよ。それよりカフェにあと少しで着きますね。早く行きましょっ!」
急かすように俺の背中を小さな手で押してくる。あまりにも急だったため気のせいかもしれないが、心做しか美海さんの顔が赤くなっていた気がした。
目的地であるカフェに着くと、そこは木造建築でとても映えるであろう場所で、俺たち以外のお客さんにはオシャレな女の人たちが多かった。だが決してうるさくはなく、静かに本を読んでいる人がいたり、小さな声で喋っている人たちがほとんどだ。
俺は大人っぽさをアピールするためにもコーヒーを注文。美海さんは黒蜜カフェオレを注文した。
「和樹さん、コーヒー飲めるんですか? 私苦いからあまり飲めないのですごいです!」
「まぁ、はい。俺も苦いとは思いますけど、飲んでみたら意外といけますよ」
実際は飲めない。以前に飲んでみたことが一度あるが、苦すぎて飲むのを止めた。今日は最後まで飲めるか分からないが、美海さんの前で残すというのだけは避けたいところだ。
「そうなんですね。私も今度飲んでみようかな」
「是非是非! あ、何なら俺の頼んだコーヒー、一口飲んでみますか?」
「え……でもそれって――」
何も考えないで思わず出てしまった言葉。この数秒後、とんでもないことを言ってしまったと気づく。
今までカフェに来る時は絶対に真希奈と一緒だった。真希奈は幼馴染なため、こういった一口飲ませ合うことに抵抗はない。そのため、違うものを頼む時はいつも一口飲ませ合っていたのだが、今日は美海さんと来ている。
一口飲ませる。その行為が意味するのは――間接キス。
「間接――」
「すいません! 今のは忘れてください!!」
美海さんのような美少女と関節キスでもキスしたいか? と聞かれればもちろん「YES!」と即答するが、さすがに会って間もない頃にはダメだ。キスは恋人になってからじゃないと……。
「……あ、はい。そうですよね」
なぜか落ち込んでいるような気がしたが、気のせいだろう。
「そ、そういえば昨日の『レンタル彼女と陰キャの俺』見ました?」
「見ました見ました!
少し空気が重くなったことを感じ、アニメの話を振ると一瞬で美海さんの顔が明るくなった。
それから約4時間があっという間に過ぎ、俺たちは帰ることに決めた。4時間ずっと話していたと思うとすごく長く感じるが、美海さんと過ごした4時間はとても短く感じられるほどに楽しかった。
「やっぱり和樹さんと話すの楽しかったです。今日実際に会って、話すことができてよかったです」
「俺も楽しかったです! ……あの、もしよかったらまた今度会いませんか?」
勇気を振り絞り、何度も言おうと思っていたことを伝えた。美海さんは満面の笑みで頷き、嬉しそうに歩を進め始めた。
今日実際に美海さんと会ってみてから今まで、ずっと思っていたことがある。
美海さんと付き合えたらどれだけ幸せか。
顔は当然のようにタイプだし、ファッションも俺好み。そして何より、一緒にいて楽しい。
こんな彼女ができたら毎日楽しいだろうな、とずっと考えていた。もし美海さんと付き合えたら、真希奈だって俺の世話を焼かなくてもよくなるからこれ以上迷惑をかけずに済む。
だから俺は…………。
「…………え」
背後から突如聞こえてくる女の声。その声にはとても聞き覚えがあり、まさに今日ここに来る前に聞いた声だった。
「……真希、奈」
背後から聞こえてきた声の持ち主、それは俺の幼馴染である真希奈だった。
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