第4話 私だって恋してみたい

 何気ない日常。早朝に起きて、学校に行って、家に帰ってきて、寝る。

 そんなつまらない日常に嫌気が差していた。何か面白いこと、楽しいことはないだろうかと考えても何も思いつかないから余計嫌だった。

 そんな時、同じクラスの子が楽しそうに恋バナをしているの聞いて、私――三浦美海みうらみうは気が付いてしまった。


「恋……してみたいな」


 中学生の頃から女子校に通っているため、今まで恋愛なんてしたことはない。

 周りの子はどうやって恋愛をしているのだろうかと疑問に思ったけど、私に友達はいないなら聞く手段なんてない。


 では、どうすれば恋ができるのか。

 そう思ってネットで調べてみると、真っ先に出てきたのがマッチングアプリの広告だった。


「マッチングアプリか……ちょっと怖いな」


 本当の名前も顔も知らない人との恋愛。相手がどんな人かは分からないし、マッチングアプリの利用目的が全く違う人かもしれない人との会話ほど怖いものはない。


 でも……。


 クラスの皆が恋バナをしている時の顔を思い出すと、皆はすごく楽しそうに話していた。私も恋愛をすれば話に入っていきやすいし、それで友達ができるかもしれない。

 そして何より、私だって恋をしてみたい。


「インストール、してみようかな……」


 恐る恐るダウンロードのボタンをタップすると、スマホ内で広告に出ていたマッチングアプリのダウンロードが始まった。


 いい人に出会えるだろうか。私にも皆と同じように恋ができるだろうか。

 そんな不安がありながらもマッチングアプリを始めてしばらく経ったある日、1人の同い年の男の子とマッチングした。

 名前は和樹かずきくん。

 和樹くんとマッチングしてメッセージのやり取りを続けていくと同時に、私は彼の魅力にどんどん惹かれていった。


「和樹くんと話すの楽しいなぁ……」


 異性を好きになったことがない私には、この気持ちが何なのか分からない。

 けど、多分もう和樹くんを好きになっているのかもしれない。


 私が和樹くんを好きになっているかもと思い始めて間もない時、彼から2通のメールが届いた。


『もし良かったら直接会って話をしませんか?』

『美海さんと話すの楽しいので、実際に会ってもっと仲良くなりたいです(笑)』


「!?!?!?」


 ちょうどスマホを触っていた時にメールが届いたため、スマホを落としてしまうくらいに驚いた。それはもう心臓が止まるかと思ったくらいに。

 初めて男の子からデ、デート(?)に誘われたけど、こんな時どうすればいいのか分からない。でもやはり誘いのメールなら早めに返信した方がいいかもと思い、すぐにトーク画面を開いて返信をした。


『実は私も直接会って話したいと思ってたんです!』

『誘ってくれて嬉しいです! いつ空いてますか?』


「…………変じゃ、ないよね」


 斯くして、私はマッチングアプリで知り合った和樹くんと会う約束をし、今週の日曜日に会うことが決まった。


 和樹くんと会うことが決まってからは、ものすごく忙しかった。今までしたことがなかったファッションの勉強や、美容室に行って髪を整えたり、メイクだって勉強した。

 本当に忙しかったけど、すごく楽しかった。自分が別人に変わっていくような感覚。今まで自分の容姿に気を遣ってこなかった私にとっては、とても新鮮だったしこのような感覚を覚えたのは初めてだった。



 そして和樹くんと会う当日。

 私は勉強をしたファッションやメイクをフル活用して、集合場所へと向かった。


「なんか、いつもより視線感じるような……。私の格好、変なのかな……?」


 家の最寄り駅までの道や電車の中で、すごく視線を感じた。その視線は男の人からだけでなく女の人からも感じる。

 結構勉強したつもりだったんだけど、やっぱりたったの5日の勉強じゃ足りなかったのかな……。


「これで和樹くんにも変って思われたらどうしよう……」


 周りの人の反応を見ると、すごく心配になってきた。1度帰って服を選び直そうかと迷ったけど、時すでに遅し。私はもう電車に乗ってしまっている上に、時間はギリギリだ。


「やっぱり、このまま行くしかないよね」


 変に思われたら仕方がない。

 優しい和樹くんならフォローしてくれると信じて、私は集合場所へと歩いていった。



***



 集合時間まであと20分。

 真希奈まきなから無事に逃げて集合場所に早く着いた俺――牧村まきむら和樹は、スマホでこまめに時間を確認しながら美海さんの到着を待っていた。


「はぁ……緊張するなぁ」


 真希奈以外の女子とろくに関わったことがないせいか、女子と直接話すだけでも緊張してしまう。

 真希奈も一応女子だけど、あいつはツンデレだからな。ツンデレの扱いなら慣れているが、普通の女の子となると……きつい。


「それに直接会うのは初めてだし……あ〜! 緊張する!」


 駅前でずっと独り言で「緊張する緊張する」と呟いても、当然ながら緊張がほぐれることはない。


「緊張しすぎて死んじゃうかもしれん」


 集合時間まであと5分。

 そろそろ美海さんが来る頃だと思うと、余計緊張していくのが自分でも分かった。

 そんな俺の緊張を知る由もなく時間は進み、集合時間の13時となる直前。


「す、すいません……和樹くん、ですか?」


 後ろから聞こえたのは、同い年とは思えないほどの可愛らしい声。

 反射的に声が聞こえた方へと身を翻すと、そこにはまるでお人形さんのような可愛い女の子が立っていた。

 服装は派手ではなく、シンプルに清楚スタイル。美海さんは大人っぽさも感じられる紺のシャツに水色のフレアスカートを見事に着こなしている。控えめに言って…………可愛すぎた。


「もしかして……美海さん、ですか?」

「あ、はい!」


 おっふ。


 そんな気持ち悪い効果音(?)のようなものが出てしまうほどに可愛い女の子――もとい美海さんはニッコリと笑った。


 あぁ……こんなにもすっごく可愛い天使とデートできるなんて、夢みたいだ。

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