第2話 ピーマンは誰もが嫌いな食べ物である(異論は認めない)

 夜ご飯ができたと真希奈まきなの声が聞こえてくる。もしかしたら、本当に野菜炒め(ピーマンのみ)かもしれない。そのため絶望しながらキッチンに向かうが、それは杞憂に終わった。


「野菜炒め(ピーマンのみ)にしなかったんだな」

「ふんっ! 仕方がなく! 仕方がなく普通の野菜炒めにしてあげたんだからね!」


 いや、なんでそこでツンデレになるんだよ。


「はいはい。ありがとうな」

「……ふんっ」


 真希奈がツンデレなのはさておき、食卓には美味しそうな料理が並んでいた。

 豚肉やキャベツ、人参、もやしなどで作られた野菜炒め。ワカメと卵が入ったスープ。ご飯はもちろん大盛りだ。野菜炒めにピーマンが入っていないように見えるのが不安でしかないが……。


「いただきます!」

「……ん」


 2人で向かい合って座り同時に合掌をして、一斉に食べ始める。俺はまず最初に野菜炒めに手を伸ばし、豚肉とキャベツを掴んだ。


「……おい」


 豚肉とキャベツを掴むと同時にあらわになった緑色の物体。


 そう、それは――――俺が嫌いで嫌いで仕方がない


「なぁに?」


 何も知りませんと言いたげな顔でニッコリ笑う真希奈。

 ピーマンがないと思わせておいて、他の食材で隠すなんて卑怯だ! 折角素直に感謝したのに!


「真希奈……これは?」

和樹かずきが大大大好きなピーマンだよ♡」


 恐る恐る緑色の物体を箸で掴み、真希奈に確認を取るがやはり例のブツだった。

 嫌だ……もうこいつに飯を作らせるのは止めよう。これからは俺が自分で作るんだ。


「もちろん食べるよね?」

「……ああ、残すわけないだろ」


 俺は緑色の物体だけを箸で掴み、綺麗に用意してあった小皿に移していく。全体で入っていた量は少ないが、少量でも食べれないため仕方がない。


「何をしてるのかな?」

「これは……気にしないでくれ」

「あっそ」


 パクリっ。


「……んっ!?!?」


 一瞬でも油断したのが間違いだった。

 もしかして見逃してくれるのか!? 優しいじゃないか! と思ってしまったのも間違いだった。


 ……苦い。


 一生の不覚。俺の口の中には、小皿に移したはずの例のブツ――ピーマンが入っている。そのピーマンを押し込んだ人物は真希奈だ。

 そして真希奈は、俺が吐き出そうとするのを必死で止めようと手で口を塞いできた。


「んんっ! んんん!」

「ダメ! 食べて!」

「ん〜〜〜っ!!!!」


 大学生になってすぐの4月15日。

 俺――牧村まきむら和樹は死んだ。

 死因は……ピーマン摂取。



「…………ん? ここは……」


 俺はリビングにあるソファーで横になっていた。

 ピーマンを無理矢理食べさせられてからの記憶が無い。ピーマン、恐るべし……。


「あ、起きた!」


 頭を抱えながら必死に記憶を辿っていると、自分が原因だと分かっていないのか真希奈が元気な様子で近づいてきた。


「あ、起きた! じゃねぇよ。俺がピーマン嫌いなの知ってるだろ」

「だって、失神するとは思わなかったんだもん……ごめんなさい」


 元気な様子から一転し、反省の色を見せる真希奈。別に怒っているわけではないが、今後は少しくらいは自制してほしいものだ。



「本当にひどい目に遭ったな……」


 真希奈をすぐ隣の家に送り(送れと命令された)、自分の部屋に戻ってスマホに手を伸ばした。

 出会いを探すために。


『いいねが届きました!』

『いいねが届きました!』


 スマホのロック画面にはこのような文字が見える。マッチングアプリからの通知だ。

 確か……いいねが届いて、いいねを返すとメッセージができるようになるんだよな。


 プロフィールを設定してから、まだ2時間も経っていない。いくらなんでも早すぎる。

 マッチングアプリ、神アプリすぎないか!?


 現時点でもうこの家には俺しかいない。真希奈にバレる心配もないし、心置きなくマッチングアプリを開くことができる。

 あいつにバレると絶対面倒なことになるからな。


「通知からも分かったけど、2人からいいねを貰えたな。とりあえずプロフィール見に行くか」


 まず1人目。見た目は茶髪ロングの清楚系お姉さんタイプ。年齢は21歳。住んでる場所は割と近め。

 かなり可愛いけど、俺あまり年上は好きじゃないんだよなぁ。どちらかといえば年下の方がいいからパスかな。


 次に2人目。見た目は幼く、肩上まで伸びた綺麗な銀髪と澄んでいる碧眼が特徴的。写真で見てもすごく綺麗な髪だと分かる。年齢は俺と同い年。住んでる場所も割と近めだ。

 そしてすごく可愛い。めっちゃ可愛い。写真だから加工されてる可能性も十分ある。だけどもしこんな人がこの世に存在するなら、天使として崇めてしまう自信がある。


「待って……まじでやばくね? え、普通にやばくね?」


 やばくね? としか言えない程に語彙力が低下してしまった。彼女はそれほどの可愛さを誇っている、と認識してもらいたい。


「名前は……美海みうか」


 こんな可愛い子にいいねを貰えるなんて、夢か? 夢なのか?

 まさか、ピーマンを食べて失神してからまだ起きれてないのか!?

 夢じゃないよね? 夢だったら本当に泣くよ?


「いいね送信っ!」


 夢なら覚めないうちに美海さん(仮)と少しでも話をしたいため、即決でいいねを送信した。

 そして同時に美海さんとのトークルームが開かれる。


「えっと……最初になんて送ればいいんだ? 無難によろしくお願いしますとかでいいかな……」


 少し迷ったが、結局『いいねありがとうございます。よろしくお願いします』と送信した。


 それから待つこと約10分。美海さんからの返信が来た。返信が来るのを待っていた10分間はドキドキしすぎて何もできず、ずっと既読が付くのを見ていたなんてことは口が裂けても言えない。


『こちらこそいいねありがとうございます!

美海みうです。よろしくお願いします!!』


 あ、やばい。可愛い。

 こんな可愛い子が俺にデレデレしてくれたら、今の人生がすごく楽しくなるに違いない。


 まずは仲良くなって、会うまでを目標に頑張ろう。こんな可愛い子と仲良くなるチャンスは、この先絶対にやって来ない。

 千載一遇のチャンスだ。逃すわけにはいかない!


 その後、美海さんと仲良くなるために話が途切れても頑張って話題を振り続け、会話を楽しむことに成功したのだった。

 絶対に……絶対に美海さんと仲良くなってやる!

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