出会いが欲しくてマッチングアプリを始めたら、ツンデレ幼馴染が急にデレデレになった件

橘奏多

第1話 マッチングアプリ、インストール完了!

『あなたにピッタリな相手が見つかる! 少しでも気になったら今すぐダウンロード!』


 学校から家に帰り、すぐさまスマートフォンでアニメを見ようとすると、何度見たかも分からない出会い系アプリの広告が流れ始めた。


「出会い系アプリ、か……」


 こんなものを使う人など、この世に存在するのだろうか。果たして、本当に自分にピッタリな相手が見つかるのだろうか。いつも同じ広告が流れているせいか、少し興味を持ってしまっている。

 本来ならば広告なんて消えろ! と思うはずだが、このマッチングアプリの広告だけはそうは思わなかった。


 どうしてか。それは恐らく、俺自身もいい出会いを求めているからに違いない。

 今は大学1年生になって間もない4月の中旬。大学生になれば彼女の1人くらいは簡単にできる……と思っていたが、今のところ全くそんな気配はない。


「はぁ……どうしたら彼女ができるんだか」

『あなたにピッタリな相手が見つかる! 少しでも気になったら今すぐダウンロード!』


 2つ目の広告が流れ始めた。しかも、全く同じ内容。


「いや、どうして同じ広告が2回連続で流れてくんだよ」


 まるで俺には彼女なんていないのだと知っているかのように流れてくる広告。

 こんな動画を見ているくらいなら、どうせ彼女なんていないんだろ、ってか? さすがに腹立つな。


 あながち間違ってはいない上に、相手はスマホだ。スマホに怒ったとしても何かが変わるわけではない。イライラをどう抑えようか迷っていると、ようやく広告が終わってアニメが流れ始めた。



 約20分が経ち、アニメ1話分を見終えてうーんと背伸びをする。帰ってから何もせずに約20分集中してアニメを見ていたせいか、喉がすごく乾いていた。


「まだ麦茶あるかな……」


 急いでキッチンに向かって冷蔵庫を開けると、残りギリギリな麦茶が入っていた。それを一瞬で飲み干し、早く次の話を見ようと自分の部屋に向かおうと思ったのだが……。


 ガチャリ。


 階段を上がろうとしたところで、家のドアが開いた。そしてそのドアを開けたのは母さん……ではなく、俺の幼馴染兼大学の同級生――川藤真希奈かわふじまきなだった。


「あ、ちょっと和樹かずき! どうして1人で先に帰っちゃったのよ!」


 どうして真希奈がうちの合鍵を持っているのか。それは夜遅くまで両親が働いている時、真希奈に夕飯を作ってくれと母さんが頼んだからである。真希奈は最初は渋っていたが、仕方がないと了承し、俺の家の合鍵を常備しているのだ。


 そして、どうして真希奈は怒っているのかだが。


「お前が言ったんだろ。どうしても一緒に帰りたいって言うなら、一緒に帰ってあげてもいいけど? って」

「言ったわよ!? それでどうして和樹は帰っちゃうのよ!」

「そりゃあ、どうしても帰りたいってわけじゃなかったし」


 確かに俺は真希奈を一緒に帰らないかと誘った。しかしそれは幼馴染であり、家が近くだからであってどうしても一緒に帰りたいというわけではないのだ。


「……っ! ふ〜ん? そんなこと言っちゃうんだ? じゃあ、今日の夜ご飯は和樹の嫌いな野菜炒め(ピーマンのみ)にしようかな♡」

「すいませんでした。何でも言う事聞くので許してください」


 まぁ、恐らく本当は一緒に帰りたかったのに、俺が1人で帰ってしまったため怒っているのだろう。

 野菜炒め(ピーマンのみ)って、普通に考えてイジメだよね? 俺がピーマン嫌いだって知ってるくせに。


「じゃあ明日は一緒に帰ろうね?」

「…………ハイ。どうせまたいつものように、ツンデレ真希奈になって一緒に帰らないだろうけど」

「何か言った?」

「ナンデモナイデス」


 笑っているようで笑っていない真希奈の目は、本当にとても怖かった。俺が彼女から解放される日は、一体いつになるのやら……。


「夜ご飯できたら呼ぶから」

「野菜炒め(ピーマンのみ)はやめてくれよ?」

「分かってる♡」


 あぁ……すごく嫌な予感がする。


 料理に関しては何もできないため、真希奈に任せるしかない。すごく嫌な予感がするが、俺は自分の部屋に戻ってアニメの続きをみることにした。


「はぁ……また広告かよ」


 今日だけで3度目のマッチングアプリの広告。どんだけ俺にマッチングアプリ入れさせたいんだよ。


「………………1回、試しに入れてみるか」


 友人には「お前には可愛い幼馴染がいるだろ!」と怒られそうだが、俺は真希奈を可愛いなんて1度たりとも思ったことはない。

 確かに容姿は整っている方だと思う。肩下まで伸びた栗色の髪、髪色に合った綺麗な瞳。ファッションセンスだって申し分ない。大学でも入学早々人気者になっている。


 それでも俺は、出会いが欲しい。





 真希奈と出会ったのは小学校1年生だ。

 その時の真希奈は普通の女の子だったが、中学生になってからなぜかになってしまった。そしてツンデレな性格は、今も尚健在している。


 だから俺は、出会いが欲しいのだ。

 だって俺は、!!

 ツンデレよりも、デレデレの方が好きなんだ!!



「インストール完了、っと」


 見慣れたスマホのホーム画面に新しく追加されたマッチングアプリ。それを恐る恐るタップしてポチポチ操作していくと、当然ながら自分のプロフィール設定の画面になった。


「ニックネームに趣味、自己紹介文……書くことたくさんあるな」


 どんどんプロフィールを設定していき、好きなタイプの場所で指が止まった。もちろんそこに書くのは。


「ツンデレお断り。デレデレな人がタイプです、っと」


 いつから自分が選ぶ側だと錯覚していた? と疑問を投げかけられてもおかしくないが、自分のタイプがこれ以上見つからなかったのだ。仕方がないだろう。


「げっ……自分の顔写真も登録するのか。自信ないけど、まぁいいか」


 これにてプロフィール設定完了。後は自分で探すか、相手からの連絡を待つだけ、か。

 本当に自分の好きなタイプの人とマッチングできるのだろうか。すごくワクワクしてきた!


「和樹〜! ご飯できたよー!」


 スマホを片手にワクワクが抑えられない俺だったが、下から聞こえてくる元気な真希奈の声によって一瞬にして絶望へと変わったのだった。

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