第35話 なんか距離近くない……?
――ピーンポーン。
「いらっしゃい」
「……お邪魔します」
今日は
昨日、
「とりあえず麦茶取ってくるから、先に俺の部屋行っててくれ」
「……うん」
心做しか長谷川も緊張している気がする。
俺の家に来たのは二度目だが、やはり異性の家だと緊張してしまうのかもしれない。
俺は颯爽とキッチンに向かい、二人分の麦茶を用意し始めた。するとリビングでくつろいでいる
「……お兄ちゃん、また長谷川さん呼んだの?」
「ああ、この俺が勉強を教えてあげるんだ」
「さすがお兄ちゃんー! 私も混ざっていい? お兄ちゃんに色んなことを手取り足取り教えてもらいたいな」
「黙って自分の部屋で勉強してなさい」
「えー! お兄ちゃんのケチ! スケベ! 変態!」
「どうして今の流れで俺がスケベ、変態って罵られなきゃいけないんだよ……。テストまであと一週間なんだ。テストが終わったら思う存分遊んでやるから、今日は勘弁してくれ」
「……わかった。しょうがないから今日だけは長谷川さんに譲ってあげる」
「勉強のことだよな……?」
そして有希は大人しく自分の部屋に戻っていった。これで今日の勉強会を邪魔されることはないだろう。
俺はふぅ……と一息ついてから、二つの麦茶と糖分補給用のチョコを少し持って自分の部屋へ向かった。
「悪い、遅くなった」
「……大丈夫。ちょっと数学で分からない問題があるんだけど、教えてくれる?」
「任せろ」
邪魔にならないように麦茶とチョコを置き、俺は長谷川の隣に少し距離を空けて座る。
すると長谷川はなぜか、俺の方に近寄ってきた。
「……おい、近いって」
「……だって近づいた方が教わりやすいから」
長谷川は頬だけでなく耳まで赤くして俯きながら、もっと近づいてくる。遂にはもうゼロ距離の密着状態になってしまった。
「お、おい!」
「……お願い」
「……え?」
「このまま教えて……?」
「……っ!」
逃げようと思っても逃げられない。
長谷川の上目遣い、可愛さが爆発してる。
そういえば長谷川の顔をこんなに近くで見たの、初めてだな。まつ毛めっちゃ長いし、唇はツヤツヤで柔らかそう。
「…………わかった。じゃあ、どれが分からないんだ?」
「これなんだけど」
「二項定理を使った証明か。これは公式に代入して求めるだけだけど、数Aの知識が必要だな。組み合わせのCって覚えてる?」
「……忘れちゃったかも」
「じゃあそれからやろうか」
「うん」
それから三時間くらいはこの体勢で勉強をした。
長谷川がトイレに行ってからは少し離れた場所で勉強するようになったが、あの三時間俺は全く勉強に集中できなかったのは言うまでもない。
密着しているせいか長谷川の体温が伝わってくるし、緊張しすぎて心臓の音うるさかったし、時々聞こえてくる長谷川の声が甘くて、色々な意味で死にそうだった。
「ちょっと俺もトイレ行ってくる」
「うん」
耐えきれなかった俺はトイレに行くと嘘をついて一度退席することに決め、急いで洗面所に向かう。
「やべぇ……やべぇ……やべぇ! 今日の長谷川、まじで可愛すぎてやべぇ!」
もう限界だった。
これ以上長谷川の可愛いところを見せられたら、間違いなく惚れてしまう。
俺は洗面所で真っ赤になった顔をゴシゴシ洗って冷やし、思い切り首を横に振って何も考えないようにしようと心に誓った。
***
本当ならば祐也に密着して問題を教えてもらった後、すぐに祐也から離れる予定だったのだ。しかし離れるタイミングが見当たらず、その後も約三時間密着状態で勉強をする羽目になってしまったのである。
(やばいやばいやばい!! あたし恋人でもないのにずっと密着して、気持ち悪いって思われなかったかな……!?)
澪も限界だった。
好きな人の家に来ているにもかかわらず、今すぐこの場所から逃げ出して早く家に帰りたいとすら思っていた。
(
さらには親友である環奈に心の中で助けを求め、祐也が帰ってくる前になんとかして赤くなった顔を冷ます。
すると突然、昨日の環奈とのビデオ通話で話したことを思い出した。
『まあ、明日何も無ければ澪ちゃんはもう無理だね〜。諦めた方がいいよ〜』
『辛辣! 酷いよ環奈!』
『じゃあ頑張ってね〜』
澪は祐也が
このまま花蓮に祐也を渡したくない。祐也のこもを諦めたくない。
今日は二人きりで、誰にも邪魔をされないためチャンスだ。今日、頑張るしかない!
(絶対あたしに夢中にさせてやるんだから!)
澪はそう固く決意したのだった。
***
「悪い、ちょっと長引いた。何か分からない問題とかあった?」
「あった。だから教えて?」
「お、おう」
部屋に戻ると長谷川はちょうど分からない問題を解いていたようで、教えてほしいと自分の横に来るよう指示してきた。
俺は先程何事も無かったかのように息を整え、再び長谷川の横に座る。
「どれが分からないんだ?」
「これがどうしてこの式になるのか分からないの」
――ぷにっ。
突然、柔らかい感触が俺の腕に伝わってきた。
その正体は長谷川の手でも体でもなく、高校生離れした豊満な胸だった。
「ちょっ……!? 長谷川、当たってるって!」
「え……なにが?」
完全に無意識で純粋な気持ちで教わろうと近づいてきたらしいが、どうやら裏目に出てしまったようだ。
俺の腕にぴったりついた長谷川の豊満な胸。完全に状況を理解した長谷川の顔はみるみる赤くなっていき、やがてりんごのように真っ赤になってしまう。
「きゃーーーー!」
――パチンっ!
長谷川に頬を叩かれ、俺は後方へ吹っ飛んでいった。
そして、それからの記憶はない。
「いてて……」
「っ! 赤峰、大丈夫!?」
あまり時間は経っていないだろうが、どうやら俺は意識を失っていたらしい。
視界はまだボヤけているが、長谷川らしき人影は見て分かった。
「ん……長谷川?」
「よかった……あの、本当にごめんなさい。私のせいで……」
「大丈夫だけど……俺、意識失ってた?」
「……うん、十分くらい」
「そうか……って、ん!?」
視界が元通りになり、身を起こそうとした瞬間。目の前に大きな二つの双丘が現れた。そして後頭部に感じる柔らかい感触。間違いない……。
「長谷川お前、まさか膝枕!?」
「……うん。一回枕に頭を乗せてあげたんだけど、うなされてたみたいだから膝枕がいいかなって思って」
「……そうか、ありがとうな」
「ううん。本当にごめんなさい。あたし、赤峰に好きになってもらうために頑張るって決めたのに全然ダメで…………本当にごめんなさい」
「長谷川……」
「本当に……ごめんなさい……」
長谷川は手をプルプル震わせながら、泣きそうになりながらも何度も謝ってくる。
俺はそんな長谷川の頭にポンと手を置き、大丈夫大丈夫と優しく撫でる。
「大丈夫だよ。本当に大丈夫だからもう気にしないでくれ。長谷川と気まずくなるのはもう嫌だからな」
「…………わかった」
長谷川は頷き、それからまた少し勉強したところで今日の勉強会は終了したのだった。
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