第34話 長谷川のことを好きなのだろうか
放課後になり、俺――
中間テストまで残り一週間ちょっと。
「赤峰くん〜」
「……ん?」
颯爽と帰ろうと教室を出た瞬間、後ろから突然声をかけられた。
声をかけられた方に振り向くと、そこには
「今日また勉強見てもらいたいんだけど〜、いいかな〜?」
「……えっと」
「いいでしょ〜?」
断ろうと思った。
だが、桑原の上目遣いによるお願いにより俺の脳天は撃ち抜かれ、気がついたら承諾していた。
「桑原、勉強は教えてあげるけど……どうして二人きりなんだ?」
「マンツーマンで教えてほしいの〜。その方が分かりやすいし〜」
てっきり桑原だけじゃなく、
春樹は中間テスト前だと今日が最後の部活になるため、張り切ってすぐにグラウンドに向かっていったためこの場にはいない。
「もしかして〜、
「どどどどうしてそうなる!?」
「だってそう思ってるんじゃないの〜?」
「……別に思ってないよ。ただ桑原がいるなら長谷川もいるのかなって思っただけで……」
「ふ〜ん? じゃあ、そ〜ゆ〜ことにしてあげる〜」
そう言って桑原は視線を落とし、数学のワークをスラスラと解き始める。
俺が長谷川も一緒の方がよかったって思ってる? そんなわけ…………あれ?
否定しようとしても、否定することができなかった。
有り得ない有り得ないと首を横に振り、俺も勉強に集中するべく数学の問題集を開く。
さて、20位以内に入るためにも勉強を頑張ろう!
俺たちが勉強を始めてからしばらく経ち、最終下校時刻である18時半前になった。
「赤峰くんだって自分の勉強あるのに、私に色々教えてくれて本当にありがとう~」
「全然大丈夫だよ。まだテストまで一週間以上あるし。そういえば、桑原と長谷川って順位どれくらいなの?」
人の順位にはあまり興味はなかったが、桑原や長谷川に勉強を教えているにもかかわらず二人の順位を知らない。長谷川とは明日家で勉強会をする予定だし、参考までに聞いておこうと思ったのだ。
「大した順位じゃないよ~。私も澪ちゃんも大体150位くらいかな~」
「意外だな。桑原って結構勉強できないイメージあるから」
「うわ~、ちょっとそれ酷くな~い? これでも私、澪ちゃんよりも順位高いのに~」
「ごめんごめん。今回のテスト、お互い頑張ろうな」
「うん〜。頑張ろ〜」
そうして俺たちは帰ることにした。
学校から駅と俺の家では別方向だが、外は真っ暗なため俺は桑原を駅まで送ることに決める。
「ごめんね〜。家こっちじゃないのに送ってもらっちゃって〜」
「いいって。こんな暗いのに女の子を一人で歩かせるわけにはいかないし」
「へぇ〜? もしかして、私のこと狙ってたり〜?」
「ちげぇよ!?」
「ははは〜、だよね〜」
これ本気で言ってるのだとしたら、マジでド天然じゃん。
まあ、桑原は天然で包容力がすごいから男子たちからすごいモテてるみたいだけど……。
「だって赤峰くんには好きな人いるもんね〜」
「なんで知ってるんだよ!?」
「澪ちゃんから聞いたの〜」
長谷川め……!
てかゴールデンウィークの時の噂とかも結構広まってるみたいだし、いずれ学校中に広まってしまうのでは?
…………野本さんの耳に入ったらまずい。
「そうか……できれば誰にも教えないで頂けると嬉しいんですが……」
「いいよ〜。さすがに赤峰くんが可哀想だからね〜」
「あ、ありがとうございます!!」
さすが
「その代わり〜、一つ質問に答えてくれたらいいよ〜」
「……え、質問?」
「うん〜。簡単な質問〜」
「わかった! 答える!」
すると桑原はふふっ、と笑みを浮かべた。
「じゃあ、赤峰くんは澪ちゃんのことが好き〜? それとも嫌い〜?」
「…………え? そりゃ好きか嫌いかだったら、好きだと思うけど」
「ちが〜う! 恋愛的な意味で好きかってこと〜!」
「……はい!?」
「教えてくれないと〜、赤峰くんの好きな人が誰なのか言いふらすよ〜?」
前言撤回! 桑原は女神様なんかじゃない! 悪魔だ!
「いや、桑原って俺の好きな人が誰か知ってるんだろ? それならその質問、おかしいじゃないか」
「そうかな〜? どこもおかしくないと思うよ〜」
「えぇ……」
長谷川のことが恋愛的に好きなのか、か。
一応少しの間だけ成り行きで付き合ってはいたけど、好きって気持ちは野本さんにだけしかないと思う。
『別れよう、
じゃあなんで、俺は長谷川に別れようって言われた時辛くなったんだ?
少し前までは嫌いだったはずなのに。成り行きで長谷川と付き合うことになって、一緒に映画館に行って、今まで知らなかったことをたくさん知った。
――俺は、長谷川のことが好きなのだろうか。
前にもそんな疑問が浮かんだことがあったっけ。
長谷川とちゃんと話すようになってから。長谷川のことをちゃんと見るようになってから。
――可愛い。
って思うことが増えた気がする。
もしかして俺は本当に…………。
「……わからないよ」
「そっか〜」
俺が必死に絞り出した答えを聞いて、桑原は満足そうに頷いた。
「じゃあ、赤峰くんの好きな人みんなにばらしとくね〜」
「ちょっとやめてください桑原様ぁ!!」
やっぱり、桑原は聖母でも女神様でもない。絶対に敵に回してはいけない悪魔なのだと、俺は今日身をもって知ったのだった。
***
祐也と
『もう勉強したくない……』
『澪ちゃん頑張れ〜。明日赤峰くんの家で二人きりで勉強会するんでしょ〜』
『そうだけど……なんで環奈は余裕そうなわけ?』
『ん〜、今日の放課後赤峰くんに勉強見てもらったからかな〜』
『なっ……!? 今日は用事があるから先に帰っててって言ってたけど、まさか……!!』
『うん〜。そうだよ〜』
『どうして私を先に帰らせたのよ……。アタシも一緒に勉強したかった!』
『え〜ムリだよ〜』
『酷い……まさか環奈、あんた知らぬ間に赤峰のことを……!?』
『それはないから安心して〜』
『よかった……』
環奈は澪のホッとした様子を見て、クスクスと笑う。
『澪ちゃん、明日頑張りなよ〜?』
『そりゃ頑張るけど……』
『勉強じゃなくて赤峰くんのことだよ〜?』
『どっちも! どっちも頑張るの!』
『前回はゲームして終わっただけなのに大丈夫かな〜?』
『うっ……頑張るもん』
『まあ、明日何も無ければ澪ちゃんはもう無理だね〜。諦めた方がいいよ〜』
『辛辣! 酷いよ環奈!』
『じゃあ頑張ってね〜。バイバ〜イ』
『ちょ、ちょっと環奈!?』
そうして環奈の一方的な切断により、ビデオ通話は終了となった。
明日の家での勉強会。どうなるかはまだ、誰にも分からない。
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