第31話 放課後、仕組まれた勉強会?

 放課後になり、野本のもとさんに改めて謝りに行こうと教室に向かったが、彼女は既に帰っていたようで謝ることができなかった。電話をしても、LIMEをしても反応がなく、まるで俺のことを避けているかのようだった。


「やっぱり俺、嫌われちゃったのかな」


 最後にLIMEをしたのは二人で遊んだ日。

 俺が『今日は怖い思いをさせちゃって本当にごめん。俺でよければいつでも力になるから、いつでも連絡して』と送って、それから未読が続いている。


「ほんと最悪……」


 今日はこの後、長谷川はせがわ桑原くわばらとで中間テストに向けた勉強会の予定だ。用事があるからという理由で先にカフェに向かってもらったが、野本さんのことでモヤモヤしてしまって勉強に身が入るかどうか不安になっている。

 しかし約束はもうしてしまったため、急いでカフェに向かったのだった。



「ごめん! 遅くなった!」

「全然大丈夫だよ〜。早く勉強しよ〜」

「……遅い」

「よーっす」

「なんだよ、春樹はるきもいるのか。お前、今日は早く帰って休むって言ってなかったか?」

「あー、なんか面白そうだから来てみた」


 てへっ☆、と舌を出す春樹。

 正直めちゃくちゃ気持ち悪い。


「……で、どうしてこの並びなんだ?」


 春樹たち三人が座っているのは、四人がけのテーブル。そして俺から見て左側の席には奥から春樹と桑原が座っていて、右側の席には奥に長谷川が座っている。長谷川の隣に俺が座る、という並びになっていた。

 普通なら男女で分かれて座ると思うんだが……。


吉川よしかわくんは赤峰あかみねくんに教えてもらわなくていいらしいから〜、私とみおちゃんの勉強を見てもらうにはこの座り方がいいかな〜って思ったの〜。嫌だった〜?」

「なるほどな……。全然嫌ではないけど」

「……あっそ。早く座れば?」

「お、おう……?」


 俺は言われた通り長谷川の隣に腰を下ろす。

 すると目の前に座っている二人、春樹と桑原がニヤニヤしながらこちらを見てきた。


「え、なに?」

「「なんでもないよ〜」」


 絶対なんかあるやつだ……。

 長谷川は妙に緊張している気がするし、春樹と桑原が何かを仕組んでいるに違いない。


「はいはい。じゃあ、勉強するか」

「「「はーい」」」


 一斉にみんなが開いたのは『数学B』の教科書。『数学B』は結構難しい。将来理系に進もうと考えている人がとる教科だが、俺もこの科目にはかなり苦しめられている。


「やっぱり数Bが一番難しいよな。二人とも数学は苦手なの?」

「「苦手〜」」

「俺も苦手!」

「頼むから脳筋は黙っててくれ」

「ひどっ!?」

「でも数学が苦手なら、どうして理系に進もうって考えてんだよ」

「文系の科目の方が分からないから〜」

「……環奈かんなが理系にするって言うから」

「なんとなく!」

「マジで脳筋、お前は帰れ」

「なんで!?」


 長谷川と桑原の二人に質問したのだが、相手にされず暇になっている春樹まで入ってきた。こいつは普段から勉強してないみたいだし、教えることは一つもないだろう。


「えっと……今回の範囲は数列だけど、具体的にどこが分からないとかある?」

「「全部」」

「おう……まじか……」


 全部分からないとなると、教える側としても結構厳しい。俺もまだ完璧に理解できていない場所は少しあるが、一から教えるとして、果たしてテスト当日までに間に合うだろうか。


「公式に当てはめるだけの問題もあるけど……」

「「わからない!」」

「……まずは公式から覚えようか。何回か使えば自然に覚えられると思うし」

「「はーい」」


 すると二人は教科書に載っている公式をスラスラとノートに写し始めた。そんな二人の様子を見て、春樹も感化されたようで公式をスラスラとノートに写し始める。

 俺も勉強をするためにここに来ているため、当然自分の勉強を始める。


 それから数時間黙々と勉強をしては教え、勉強をしては教えを繰り返し、もう夜も遅くなってきたため解散となった。

 春樹と桑原は電車で、俺と長谷川は歩きなため、駅の改札口で二人と別れてそれぞれ帰路に就く。


「んー! 久しぶりにこんな勉強したから疲れたわ」

「なんだよ、長谷川って普段から勉強とかしないのか?」

「当たり前でしょ。どうして毎日のように勉強しなきゃいけないのよ」

「意外と楽しいぞ? 勉強するの」

「うっわ……気持ち悪い」

「ひでぇな! もう教えてあげないぞ!?」

「う……ごめんなさい」


 帰り道、俺と長谷川は途中まで同じ方向なため並んで歩いていた。

 外はもう既に真っ暗で、街灯を頼りに長谷川の歩くスピードに合わせて歩を進める。


「でもまさかお前に勉強を教える日が来るとはな。一年の時じゃ絶対有り得ないな」

「そうね……。ねぇ、赤峰」

「ん? なんだよ?」


 長谷川は急に歩みを止め、こちらをじっと見つめてくる。

 可愛らしい顔が街灯に照らされ、頬がほんのり赤く染っているのがわかった。


「次の土曜日、空いてる?」

「空いてるけど……遊びに行こ、とか言うなよ? さすがに勉強したい」

「言わないわよ! その……また赤峰の家に行きたいなって思って……」

「え、なんで俺の家!?」


 また一緒にゲームしたいってこと!?

 俺もうボコボコにされるの嫌だよ!?


「勉強、教えてほしいの」

「あー、なんだ勉強か」

「勉強以外に何があるのよ……」

「まあそれならいいけど、別に俺の家じゃなくてもよくないか? 今日のカフェとか、図書館も周りにあるし」

「カフェだったら色々な人の声が入って集中できないのよ。逆に図書館は声出せないじゃない」

「確かに……」


 それなら俺の家でやった方がいいか。

 有希ゆきがうるさくしたり邪魔してくるかもしれないけど、テスト前だから集中させてくれって言えばきっと大丈夫だろう。


「わかった。じゃあ土曜日、俺の家で勉強するか」

「……え、いいの?」

「おう。桑原と春樹も呼ぶか?」

「…………だ」

「ん?」

「……やだ」


 や、だ……?


「二人でがいい」


 斯くして、今週の土曜日は俺と長谷川の二人で、中間テストに向けた勉強会をすることになったのだった。

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