第30話 テスト勉強をしたくてやってる奴はヤバい奴
ゴールデンウィークという学生にとって素晴らしい連休が過ぎ、一年の中で最も憂鬱な月曜日がやってきた。
「どうして休み明けが中間テスト二週間前とちょうど重なってんだよ……」
ゴールデンウィークが明けてただでさえ学校に行きたくないのに、それに加えて中間テストまで二週間前になったことを知らされる。
テストが楽しみだなんて思う奴はいるわけないし、どう考えたって勉強を楽しいなんて思えない。
「テストは嫌だけど、頑張って順位上げないといけないんだよな」
そう、俺は密かに毎日のように勉強をしているのだ。もちろん勉強をしたいからしている、という気持ち悪いやつではない。
「――
すべては野本さんに見合う男になるため。
野本さんを好きになる前は全然勉強なんてしなかったが、好きになってからは毎日コツコツと勉強をするようになった。部活に入っていない俺は、部活に入っている人たちよりも時間がある。そのため、必然的に勉強に回せる時間が多い。
高校生最初のテストは360人中287位だったが、毎日勉強を頑張るようになったおかげで今では最高31位まで取れるようになっている。
「今回の目標は20位以内だな」
勉強を始めたのが少し遅かったせいで、ちゃんと勉強している人たちにはまだ勝てない。でもいずれ勝てるようになって、卒業までには学年1位を取れたら嬉しい。
「……でも、野本さんっていつも学年2位なんだよな。野本さんだって毎日頑張ってるって言ってたのに、1位のやつは一体どれだけ勉強してるんだ?」
上には上がいる。
だが野本さんを超え、その1位の人も超えることができれば、きっと野本さんに見合う男に一歩でも近づけると信じて。
「頑張るしかないよな」
俺は学校へ走って向かったのだった。
学校に着き教室に入ると、久しぶりに友達と話せて楽しそうにしている人や、休み明けで起きるのが辛かったのか机に突っ伏している人が多く見られた。
俺はそんな人たちの中から
「おっす」
「おー、おはよう
「春樹、珍しく疲れてるみたいだな。何かあったのか?」
「部活だよ部活。あの鬼監督はゴールデンウィーク中に一回しか休ませてくれなかったんだ。結局その休みの日も休む暇なく課題だし……まじ死ぬ」
「サッカー部、本当に辛そうだな。でも今日は休みなんだろ?」
「ああ。だから今日はすぐ帰って休むつもりだよ」
はぁ、と深くため息をつく春樹。
きっと本気で大会のことを考えている部活は、ゴールデンウィークでもお構いなしに練習を頑張っているのだろう。そう考えると、自分は帰宅部でよかったと心の底から思える。
「それより祐也」
「ん?」
「お前はゴールデンウィークどうだった?」
何か含みのある言い方で聞いてくるが、何も悟られないように淡々と「別に何もなかった」と答えた。
実際は嘘で色々あったが、面白がってからかってくる春樹だけには教えたくなかったのだ。
「ふーん? 野本さんや
「なっ……!? お前なんでそれを!?」
「知らないわけないだろ。めっちゃ噂になってるしな。サッカー部の奴らなんて、一日そのせいで練習に身が入ってなかったくらいだし」
「そんなに広まってるのかよ!?」
野本さんと遊んだ時は外だったからまだバレる可能性があったにしても、長谷川に関しては俺の家で遊んでいた。
なのにどうして長谷川とのことまでバレてるんだよ!
「で、なにかあったんだろ? 詳しく教えろよー。親友だろー?」
「教えるわけねーだろ! 誰がお前なんかに教えるか!」
「えー、少しくらい教えてくれたっていいじゃん。別に広めたりしないし」
「そこは心配してないけど、お前からかってくるじゃねぇか!」
「からかわないってー」
「知らん。黙れ」
「ひどっ!?」
春樹に何かしら情報が入ったら終わり。その後はからかわれ、からかわれ、とにかくからかわれる。
俺は一度そのうざったらしいからかいを経験し、今後もう絶対に春樹には何も話さないと決めた。だから話すわけがない。
というわけでギャーギャーうるさい春樹を放置し、少し離れた自分の席へと向かった。
「野本さんに謝りに行くのは放課後にするか……」
本当は今日来てすぐに謝りに行こうと思っていたが、今行けば絶対春樹に勘ぐられる。そのため春樹が帰った後の放課後に、改めて謝りに行くことに決めたのだった。
俺が席に着いてからしばらく経ち、先生が教卓に立って朝のショートホームルームが始まった。
概要は二週間後に控える中間テストの説明。別に聞かなくても分かっていることが多いため、聞いている人の方が少ない。
俺もあまり聞く意味がないと思って欠伸をすると、右の方から視線を感じた。春樹だろうかと思って春樹の方を見るが、あいつは机に突っ伏して寝ている。
(春樹じゃないなら誰なんだ……?)
このクラスで俺が関わっている人は少ない。そのため当然、俺に視線を向けてきている人は限られてくる。
次に春樹の二つの前の席に座っている人に視線を送ると、ちょうどこちらを見ていたようで目が合ってしまった。春樹の二つ前の席に座っているのは、長谷川だ。
(どうしてあいつが俺に視線を……?)
それからしばらく睨み合うような形で視線を送り合っていると、突然長谷川が顔を真っ赤にし俯いてしまう。
本当に何がしたかったのか。何が目的で俺に視線を送っていたのか分からない。
後で話しかけるか、と思って視線を前に戻すとちょうど先生の話が終わり、朝のショートホームルームが終わった。
「長谷川」
俺は立ち上がり、先程こちらに視線を向けてきていた長谷川のもとへと向かうが……。
「おい、なんで逃げるんだよ」
逃げられた。
長谷川の逃げた先には
「あ、
「長谷川に用があるんだけど、逃げられちゃって」
すると長谷川は桑原の背中からひょこっと顔を出し、またしてもすぐに隠れてしまう。
こいつ、本当に何がしたいの……?
「そうなんだ〜。ところで赤峰くんって頭いいよね〜」
「別に普通だと思うけど……急に何?」
「いや〜、私今回のテストちょっとやばいから赤峰くんに勉強教えてほしいな〜って思ったの〜」
「「…………え?」」
俺と、桑原の後ろに隠れている長谷川の声が重なった。
「ダメかな〜?」
「あ、うん。別にいいけど……」
「ほんと〜? よかったね〜、
「「…………はい?」」
「私だけじゃなくて〜、澪ちゃんも一緒に見てもらえないかな〜? いいでしょ〜?」
「ちょ、ちょっと
「俺は構わないけど……本当に俺でいいの?」
「え、いいの!?」
「いいのいいの〜。赤峰くんがいいから〜」
「あ、そう……?」
本当なら他の人に教えるよりも自分の勉強を優先したいところだが、人に教えた方が自分にも身につきやすいと聞いたことがある。それに人に頼られるのは嬉しいものだ。
だから俺はあっさりと承諾したが、長谷川は不服そうに顔を真っ赤にしている。
「長谷川も俺でよければ教えるけど、大丈夫?」
「え、えっと……うん。よろしくお願いします……」
てっきり「あんたなんかに教えてもらう必要はないわ!」なんて言葉が飛んでくるかと思ったが、意外と素直に承諾された。
そんな様子をなぜか桑原はニコニコしながら見ているが、とりあえず三人で勉強会をすることに決定したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます