第29話 ゴールデンウィーク番外編② 有希の一日

 有希ゆきの一日は、兄である祐也ゆうやを起こすことから始まる。

 ゴールデンウィークという連休に入ると、多くの人は当然怠け、起きる時間が遅くなってしまうだろう。

 それは祐也も例外ではなく、有希が朝早くに起こすことで兄を怠け者にさせないようにしていたのだ。


「お兄ちゃんおっはよー!」

「……」

「お兄ちゃん、お・は・よー!」

「……うるさい。おやすみ」

「二度寝しないの! 起きて! 起きて!」

「わかったよ……」


 兄を起こした後は朝食を作って勉強……をすることはなく、自分の部屋またはリビングでだらける。有希は現在受験を控える中学三年生で、行きたい高校があるため勉強を頑張らなければいけない。

 しかし、勉強は嫌いなのだ。できれば文字すらも見たくない。参考書を開く以前の問題で、机に向かうことすら億劫なのである。


「有希……お前本当に勉強しなくて大丈夫なのか? もうゴールデンウィーク最終日だぞ」

「大丈夫大丈夫ー。受験までまだ時間はあるし」

「時間なんてあっという間だからな。直前に焦ることになっても知らないぞ」

「大丈夫だってー。そ・れ・よ・り〜、ゴールデンウィーク最終日だから遊ぼ?」

「俺はいいけど、何して遊ぶんだ?」

「男女ですることって言ったら、一つしかないでしょ?」

「やっぱり断る」


 そう言って朝食を食べ終えた祐也は、颯爽と自分の部屋へ戻っていってしまう。

 だが有希はこのままでは諦めることができなかった。色々あって、ゴールデンウィーク中に大好きな兄と遊ぶことは一回もなかったのだ。最終日くらいは絶対に遊んでやる、と心に決めて再び祐也の部屋へ向かう。


「さっきのは嘘。だから遊ぼうよー」

「はぁ……」

「お兄ちゃんだって連休の最終日くらい可愛い妹と遊びたいでしょ?」

「それ自分で言うか? ……間違ってはないけど」

「でしょ!? だから遊ぼ! 遊ぼ!」

「わかったって。遊んでやるから少しは落ち着け」

「ほんと? やったー!」


 祐也は確かに最近有希と遊んでいなかった。家ではたくさん話していても、有希の行きたい場所に行くことができていなかった。

 そのため、今日はこれからどこかへ連れて行ってあげるのも兄としてありかもしれないと思ったのだ。


「有希はどこか行きたい場所あるのか?」

「ない!」

「ないのかよ……」

「家で遊ぼ!」

「はいはい」


 その後は家でテレビゲームをしたり、トランプなどで遊んだ。

 有希は基本、祐也に勝負事で勝てることは少ない。トランプであれば三回に一度くらいは勝てるが、それ以外であれば勝てるものはないだろう。

 だから時には祐也と勝負するのが嫌になってしまうことがあるが、今の有希は祐也と遊べているだけで満足できていた。


「お兄ちゃんにはやっぱり敵わないなー」

「有希が弱いだけだろ」

「私だってちゃんと強いもん! お兄ちゃんが強すぎるだけ!」


 有希がそう言ってトランプを投げ出すと、祐也は手を口にあてて笑い始めた。


「なんで笑うの!?」

「……いや、有希といるとすごく楽しいし落ち着くなって思って」

「兄妹だからね! お兄ちゃんもやっと私と結婚する気になった?」

「だからどうしてそうなるんだよ。実の兄妹だから無理って言ってるだろ」

「えー、つまんない!」

「つまんないと言われましても……」


 祐也は反応に困るが、時間も遅くなってきたため「風呂に入る」と有希に一言伝えて席を立った。

 現在時刻は午後十一時半。そろそろ寝る準備を始めて、明日から始まる学校に備えなければならない。


「お兄ちゃん、ちょっと待って!」

「ん? なに?」

「私が背中流してあげる!」

「…………は?」

「日頃の感謝を込めてお兄ちゃんの背中を流してあげたいの! いいでしょ?」

「よくないが!?」

「なんで!?」

「もう夜も遅いんだ。有希は早く寝なさい」

「……はーい。じゃあ、また今度ね」

「また今度!? いいとは一言も言ってないんだが!?」


 しかし祐也の言葉には聞く耳をもたず、有希は自分の部屋へ駆け足で向かう。

 そんな有希を見て祐也は深くため息をつくが、有希のほんのりと赤くなった顔に気づくことはなかった。

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