第28話 ゴールデンウィーク番外編① 澪と環奈の反省会

 祐也ゆうやみおが家で遊んだ次の日、とあるカフェにてどんよりした空気の中で座っている女子二人の姿があった。

 一人はカフェオレを頼んだものの深刻そうに俯いており、もう一人は頼んだアイスティーをちゅるちゅると美味しそうに飲んでいる。


「澪ちゃんって時々すごくおバカさんになるよね〜」

「……」

「遊びに行く前日なんてすごく張り切ってたのに〜、どうして何のアクションもないまま帰っちゃうかな〜」

「……環奈かんな、なんかいつもより辛辣じゃない?」

「だってせっかくお家デートすることになったのに〜、ただゲームしただけで終わりなんて有り得ないもん〜。それデートなんて言わないじゃん〜」

「……ご最もです」


 包容力があることで絶大な人気を得ている環奈だが、さすがに今回ばかりは澪を責めざるを得なかった。

 女子と二人きりで家で遊んだにもかかわらず手を出さなかった祐也も祐也だが、澪は前日環奈に宣言をしていたのだ。

 祐也を振り向かせるため、絶対に今回のお家デートでは頑張ると。それなのに澪は祐也とただゲームをしただけ。さすがに有り得ない。


「で、でもしょうがないじゃない。つい熱くなって時間を忘れちゃったんだもん……」

「はぁ〜あ〜、そんなんじゃ野本のもとさんに赤峰くん奪われちゃうよ〜」

「なっ……!?」

「聞いた話によると、二人もデートしていたらしいしね〜」

「そそそそれほんとなの!?」

「うん〜。見た人がいるんだって〜」


 澪の顔から段々と笑顔が消えていく。

 澪は花蓮かれんに宣戦布告をしたが、花蓮は祐也に好意を向けていてもそれは恋愛感情ではないだろうと思っていた。

 もしそのデートが、花蓮が誘ったものだとしたら……。


「うぅ……環奈ぁ〜!!」

「よしよし〜」


 澪が机に突っ伏し、環奈が澪の頭をポンポンと優しく叩く。


「どうしよう……私、本当にやばいよね……?」

「やばいね〜。赤峰あかみねくんは野本さんのことが好きらしいし、早く赤峰くんのハートを澪ちゃんが奪わらないと〜」

「うぅ……分かってはいるんだけど、どうやったら……」


 澪は既に祐也に告白をし、祐也への態度も段々と変化してきた。

 毎日のように好きだとアピールをすることは恥ずかしくてできないが、ちゃんと普段から自分のことを意識してもらえるように頑張っている方だとは思っている。

 そのため、澪はこれ以上自分が何をすればいいのか分からないでいた。


「澪ちゃんが赤峰くんと別れたのって〜、澪ちゃんが別れようって言ったからだよね〜?」

「……そうだけど」

「だったら〜、また告白してみたらいいんじゃない〜?」

「ななななんでそうなるのよ!?」

「だって早く赤峰くんのハートを奪わないといけないし〜、告白したら案外OKしてくれるかもよ〜?」

「……絶対断られるわよ」

「自分に自信を持ちなよ〜。女子の私から見ても澪ちゃんすごく可愛いと思うよ〜? 赤峰くんだってお家デートをしてくれたんだから〜、完全に脈ナシってわけではないと思うし〜」

「……そうかな。ん〜〜〜! でもやっぱり告白は無理だよぉ……」


 澪と祐也が別れたのはつい最近だし、別れを切り出したのは澪だ。

 それなのにまた告白をする、ということは「なら、どうして別れを切り出したんだ?」という話になってしまう。

 環奈はそんな弱気の澪を見て、やれやれと肩をすくめた。


「しょうがないな〜。私が一肌脱いであげるしかないか〜」

「え、いいの!? でも、何をする気……?」

「内緒〜。ゴールデンウィーク明けに決行ね〜」

「……ちょっと待って。本当に何する気!?」


 澪は嫌な予感しかしなかったが、自分ではどうすることもできないため環奈に任せるしかない。

 そしてもし環奈に任せて成功すれば、澪にとっては得しかない。

 天然な環奈に任せるのは些か問題があるかもしれないが、親友が自分のために一肌脱ぐと言ってくれたため任せることに決めた。


「あ、そういえば中間テスト近くなってきたけど〜、澪ちゃんはもう勉強始めてたりする〜?」

「あたしはまだ全然してないわよ。まだ二週間以上後だし。環奈は始めてるの?」

「私もしてないよ〜。二年生になってから勉強も難しくなってきたし〜、正直今回は順位落ちちゃうかも〜」

「……そんなこと言って、また私より順位高かったら許さないから」

「あの時は澪ちゃんが全然勉強しなかったのがいけないんでしょ〜」

「うぅ……」


 ゴールデンウィークが明けると、すぐに第一回中間テストまで残り二週間となる。

 中間テストなためその後に行われる定期テストと比べると教科数は少ないが、この二人にとって教科数の多さはさほど問題ではなかった。


「数学どうしようね〜」

「ほんとよね。一年生の時はまだなんとかなったけど、二年生になってからさっぱりだわ」

「だよね〜。澪ちゃんなんて毎回の小テスト悲惨だもんね〜」

「な、なんで知ってるのよ!? 誰にも言わないで隠してたのに!!」

「小テストが返された時の澪ちゃんの顔、いつも面白いんだもん〜」

「あたしそんなに顔に出てる!?」

「すごいよ〜。私一回写真撮ったけど〜、あの顔は何回見ても笑えるもん〜」

「ちょっ……! 写真撮らないでよ! 消して!」

「やだ〜。私のお気に入りなの〜」

「知らないわよ!」


 そうして澪は環奈のスマホを強引に奪い取り、急いで写真を探して削除する。

 確かに、環奈の言う通り相当酷い顔をしていた。もうお嫁に行けないくらい恥ずかしい、と澪は両手で自分の顔を隠す。


「酷いよ澪ちゃん〜!」

「……次撮ったらもう許さないからね」

「は〜い……」


 環奈が反省の色を見せたところで二人はいつの間にか飲み終わっている飲み物を注文し直し、ゴールデンウィークの話で再び盛り上がったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る