第27話 俺が結構モテてるってマジ?

長谷川はせがわさんはお兄ちゃんのことが好きなんですか?」

「えっと……それは…………まあ、一応告白したし、好き……です」

「なら、もうお兄ちゃんには近づかないでください」


 有希ゆきは長谷川に、冷たい声で言い放った。

 時すでに遅し。

 有希がなんで長谷川にそんなことを言ったのか分からない。俺のことを好きなのは知っているが、いくらなんでも近づかないでは言い過ぎだ。


「有希、お前――」

「どうしてか、理由を聞かせてくれる?」


 長谷川は先程まで緊張しているように見えたが、冷静に真剣な顔で有希を見る。


「お兄ちゃんは……私のものだからです! 誰にも渡しませんっ!」

「「…………ん?」」


 予想外すぎて、俺と長谷川の頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。

 有希はそんなことは気にせずに続けた。


「お兄ちゃんを好きな人は私だけで十分です! 私がお兄ちゃんを愛して、私とお兄ちゃんが結婚するんです!!」

「ちょ、ちょっと待て!? なんで俺と有希が結婚することになるんだよ!?」

「義理の兄妹だから、できるでしょ?」

「実の兄妹だわ! だからできないわ!」

「お兄ちゃん酷い……嘘ばっかり……」

「いや、本当なんだが……」


 すると、俺たち兄妹の会話をずっと聞いていた長谷川は急にお腹を抱えて笑いだした。

 俺と有希は目を合わせて首を傾げるが、有希の笑いは止まらない。


「あはは……有希ちゃん面白いね」

「わ、私は真面目に……!」

「有希ちゃんは知らないだろうけど、赤峰あかみねって結構学校でモテてるよ」

「「…………え?」」


 え、嘘。それまじ? ちょっと後で詳しく聞こう。


「赤峰って割とハイスペックだからね。帰宅部のくせに運動すごくできるし、顔も……イケメンな方だし。クラスでも狙ってる子意外といると思うよ」


 ふっ……とうとう俺にもモテ期が来たようだな。

 今まで告白をされたことはな……長谷川がいるが、それ以外はない。

 これから増えると思うと、学校に行くのが楽しみになるな。好きな人はいるが、やはり告白をされるのは誰であっても嬉しいものだ。


「それ……本当ですか?」

「うん。あたしの知り合いにも一人、赤峰のこと気になってるって言ってる子いるしね」

「がーん! 私、お兄ちゃんのことを好きな唯一の存在だと思ってたのに……」

「おい、ちょっと待て。さすがに唯一は酷くないか」

「だから兄妹で結婚できると思ってたのに……」

「「どうしてそうなった」」


 有希はしょんぼりした様子で俺の部屋から去っていく。

 宣戦布告してくるなんて言った時にはどうしたものかと思ったが、まさかこんなにも早く折れるとは思わなかった。


「……で、長谷川。俺が結構モテてるのって、本当なのか?」

「…………あ、一緒にゲームしようよ。コントローラー二つある?」

「おい、話を逸らすな」

「何の話かあたし分からなーい」

「長谷川さん、教えてくださいお願いします。今後の俺の人生に大きく関わってくる問題なんです」

「分からないってばー。あ、そうだ。じゃああたしとゲームで勝負して、もし赤峰が勝ったら教えてあげるよ」

「本当か!? 約束だぞ!?」

「うん。いいよー」


 長谷川、甘いな。

 ここは俺の家なんだ。当然自分が持っているゲームはやり込んでいるし、アクションゲームなら男友達にだってほとんど負けたことはない。そんな俺に長谷川が勝てるわけないだろう。


「長谷川の好きなやつでいいぞ。俺はなんでも勝てる自信があるからな」

「へー? じゃあこれで」


 長谷川が選んだのは『大乱闘スマッシュファイターズ』。

 大手のゲーム会社が発売した対戦アクションゲームだ。ちなみに俺はどのキャラクターを使ってもそれなりに強い自信がある。


「いいのか? これだと一瞬で決着がついちゃうぞ」

「うん。大丈夫」

「決まりだな」


 俺と長谷川はそれぞれ使うキャラクターを選び、ゲームを開始する。

 さすがに本気でいくと長谷川が可哀想なため、俺は普段あまり使わないキャラクターを選択した。

 すると、予想外の事態が起こる。



『GAME SET.』


 勝負は一瞬で決着した。結果は…………。


「赤峰、かなり自信があったみたいだけど、あまり強くないね」


 俺の惨敗だった。

 3ストック先取の戦いだったが、俺は長谷川の1ストックさえ奪うことができなかった。


「い、今のは練習さ。肩慣らしは必要だからな」

「ふーん? じゃあ、もう一回やる?」

「ああ、今度は本番だ」


 次こそは負けるわけにはいかない。

 そのため、俺は自分が使っていて一番強いキャラクターを選択し、ゲームを開始した。


『GAME SET.』


 結果は、またしても俺の惨敗に終わった。

 1ストックを奪うことはできたが、ただそれだけ。何回やっても勝てそうにないほどの強さでねじ伏せられた。


「……長谷川、どうしてそんなにゲーム上手いんだよ」

「あー、あたし弟いるんだけど、いつも弟に付き合わされてこのゲームしてたらハマっちゃって。いつの間にか弟が泣いちゃうくらいまで強くなっちゃった」

「化け物め……」

「じゃ、約束通り教えないねー」

「悔しいけど、今回ばかりは諦めるしかないな……」


 もう長谷川に勝つことは諦めた。

 しかし、このまま終わらせるわけにはいかない。


「長谷川さん、お願いがあるんですが」

「いいけど?」

「俺も長谷川さんみたいに強くなりたいです。特訓をお願いできますでしょうか」

「ふふっ……いいわよ。あんたを強くさせてあげる」

「ありがとうございます!!」


 それからは長谷川の鬼のような特訓が始まり、今日は『大乱闘スマッシュファイターズ』をやっただけで終わってしまったのだった。

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