第26話 俺の部屋に……女の子が!

 一昨日、長谷川はせがわから連絡があって、今日は俺の家で遊ぶことになった。

 しかし同い年の女子を家に上げるのはもちろん初めてで、男子と同じように盛り上がれないためどう接したらいいのか分からないのが本音である。


「部屋はちゃんと片付けたし、あとは長谷川を待つだけだな」


 集合時間は十三時半。

 それまでまだ時間はあるが、どうしても緊張してしまう。話題を考えておかないといけないし。


「お兄ちゃん、どうしてソワソワしてるの?」

「……っ!? びっくりするじゃないか。なんでいつの間に俺の部屋にいるんだよ、有希ゆき

「だってここは私とお兄ちゃんの部屋でしょ?」

「お前にはお前の部屋があるだろ!?」

「動揺してるね。怪しい……なんかいつもより部屋綺麗になってるし」


 なんかすごく冷たい目つきで見てくるが、どうして俺はそんな目で見られなきゃいけないんだ?


「友達が遊びに来るんだよ。だからあまりうるさくするなよ?」

「ふーん? 男の人?」

「……」

「女の人なんだ。もしかしてお兄ちゃん、私に隠れて誰かと付き合ってたの?」

「つ、付き合ってませんよ……?」

「じゃあなんで、女の人が家に来るの?」


 有希さんが怖い。

 まるで拷問されているかのような怖い目つきで見てくるし、いつもの可愛らしい声がすごく冷たい。

 誰か……助けて……。


「遊びに来るだけだよ」

「ふーん? お兄ちゃんはその女の人のことが好きなの?」

「……嫌いではない」

「ふーん?」


 すると有希は俺の部屋から出て、少し顔をのぞかせて口を開いた。


「えっちなことはしちゃいけないからね」

「なっ……!? するわけないだろ!?」


 俺の言葉には聞く耳を持たず、勢いよくドアを閉めて自分の部屋へと戻っていく。

 有希のやつ、長谷川が来たあと何かしら理由つけて部屋に入ってきそうで怖いな……。



 そして有希が部屋を出ていってからしばらく経ち、そろそろ長谷川が来る時間になった。

 時間が経つにつれてどんどん緊張が増していっており、今は気を紛らわせるためにアクションゲームをしている。それでも緊張は全くおさまらないのだが。


 ――ピーンポーン。


 すると俺の部屋まで響いてくる音で、インターホンが鳴った。

 長谷川だろうと思ってゲームを一度中断し、再度部屋を見渡してから立ち上がる。


「やっべぇ……まじで緊張する。女子が家に来るのってこんな緊張するんだな」


 階段を下りて玄関へ向かおうとした、その瞬間。


「なんで有希まで出てくるんだよ」

「トイレに行こうと思っただけだよ?」

「トイレは二階にもあるが?」

「一階のトイレに行きたい気分なの」

「はぁ……」


 絶対俺がどんな人を連れ込むのか見たいだけだろ。

 まぁいいかと思い、有希を無視して玄関へ向かう。


「いらっしゃい」

「……お邪魔します」


 扉を開けると、モジモジして恥ずかしそうにしている長谷川の姿があった。

 長谷川も男の家に来るのは初めてなのだろうか、と思いつつも家に上げると、俺の後ろに立っている有希が口を開く。


「初めまして。いつもお兄ちゃんがお世話になってます。妹の有希です」

「あ、こちらこそ初めまして。赤峰あかみね……祐也ゆうやくんと同級生の長谷川澪はせがわみおです」


 有希が笑顔で挨拶すると、長谷川も緊張しながらちゃんと笑顔で挨拶を返す。

 二人なら仲良くなれるだろう。そう思ったが、全くそんなことはなかった。

 有希を見ると、笑顔で長谷川を迎えているように見えるものの目が全然笑っていない。

 長谷川は気づいていないようだが、兄の俺なら分かる。絶対歓迎していない顔だ。


「……長谷川、早く行こう」

「え、うん? わかった」


 俺たちは逃げるように部屋へ向かった。

 目が笑っていないのになぜか笑みを浮かべている、怖い怖い狂人に狩られる前に。



「有希ちゃん、礼儀良くていい子ね。あたし来る前までは結構緊張してたんだけど、笑顔で出迎えてくれてすごく安心したわ」


 部屋に入る直前、長谷川が急にそんなことを言ってくる。

 違う、あれはただの笑顔じゃない。なんて言えるわけもなく、俺は「よかったな」とだけ伝えて長谷川を自分の部屋に案内した。


「へぇ……ここが赤峰の部屋なんだ。結構きれいじゃん」

「頑張って片付けたんだよ。昨日なんてそれで一日潰れたくらいだ」

「ふふっ、どんだけ汚かったのよ」

「元々あまり汚くはなかったんだけどな。有希に邪魔されて片せば片すほどなぜか汚くなってくんだ」

「へー? 妹と仲良いんだ」

「まあな。小さい頃からずっと有希の面倒見てきたし」

「やっぱり…………」

「ん?」

「ううん、なんでもない」


 そう言って長谷川は布団に向かって腰を下ろす。

 俺がいつも使っている布団に、女子が座っていると思うとなぜかいたたまれない。


「ちょっと飲み物とか取ってくる」

「あ、うん。ありがと」


 やばいやばいやばいやばい。

 今の俺、絶対気持ち悪い顔してる。

 女子が初めて自分の家に来て、自分のベッドに座っているだけでなんで興奮してるんだよ俺!!


「お兄ちゃん、キモイよ」

「ゆ、有希!?」


 台所でコップに麦茶を注いでいると、リビングから有希がひょこっと顔をのぞかせてきた。


「可愛い子が自分の部屋に来てるからって興奮しすぎ。お兄ちゃんは私のものなのに……!」

「俺はお前のものではないんだが?」

「お兄ちゃんを愛する妹として、私はあの長谷川さんに宣戦布告してくる!」

「ちょ、ちょい! 俺と長谷川はそんな関係じゃ……」


 否定しようと思ったが、そんな関係だった。

 なんなら成り行きとはいえ一度付き合ったし、デートだってしている。


「お兄ちゃん、待っててね。私、絶対長谷川さんに勝ってみせるから!」

「お前何言ってん……ちょ、待て! おい! 有希!!」


 俺の言葉に聞く耳をもたず、颯爽と長谷川のもとへ突っ走っていく有希。

 あの馬鹿野郎! と心の中で呟きながら二つのコップを手に取り、有希を追って自分の部屋へ戻る。しかし、時すでに遅しだった。


「有希! お前なにやってん――」

「長谷川さんはお兄ちゃんのことが好きなんですか?」

「えっと……それは…………まあ、一応告白したし、好き……です」

「なら、もうお兄ちゃんには近づかないでください」


 ゆ、ゆ、有希ぃぃぃいいい!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る