第21話 初日、妹に襲われる

 ゴールデンウィーク一日目、俺はどこかに行く用事もなかったため家でゴロゴロしていた。

 平日にもかかわらず休みなのはいいもので、朝早くに起きなくてもよければ学校に行って勉強をしなくてもいい。部活に入っていない学生にとって、ゴールデンウィークは最高の連休であるのは間違いない。


「最高……」


 リビングにあるソファーの上で寝転がり、至福の時間を堪能する。この時間以上に素晴らしいものはない。

 そんなわけでソファーの上で寝転がっていると、突然背中に衝撃が走った。


「うぉえ!?!?」

「あ、お兄ちゃんいたんだ〜。ゴメンゴメーン」


 妹である有希ゆきがソファーの背もたれを飛び越えて俺の背中に見事着地し、至福な時間は一瞬にして終わってしまった。すごく痛い。


「全然謝っているように聞こえないんだが?」

「謝ってるじゃん。ゴメンゴメーンって」

「棒読みじゃねぇか!!」


 有希は肩下まで伸びた栗色の髪と亜麻色のつぶらな瞳が特徴で、兄である俺が言うのもなんだがすごく可愛い。

 そして中学三年生にしては発育している豊満な胸の魅力もある。しかし、そんなすごく可愛い有希にも欠点が一つ。


「えー、許して? お兄ちゃんが大好きなキスはいくらでもしてあげるから」


 超が三つは付くくらいのブラコンなのである。

 なぜそこまで俺を好きなのかは分からないが、小さい頃から俺が有希を世話することが多かったからなのかもしれない。小学生の時も、中学生の時も、どこに行くにしても俺と一緒。

 というわけで、恐らく有希というブラコン妹が生まれてしまったのである。


「俺が好きなんじゃなくて、有希が好きなんだろ。そもそも有希とキスなんて一度もしてないが」

「何度もしてるでしょ? ほら、朝とか」

「だからしてないって……お、お前まさか!?」

「美味しかったよ」


 妖艶な顔をして舌なめずりをする有希。

 まさかこいつ、俺が寝てる時に!?


「お、おい……嘘だろ?」

「うん、嘘だよ」

「なんだよ……」

「本当はしたかったんだけどねー。お兄ちゃんに怒られたら嫌だからやめておいた」

「よかった……」

「口にはやらなかったけど、ほっぺになら何回もしてるよ♡」

「……」


 俺の知らないうちにどんどん汚されていく気がする……。


「これからはもうするなよ?」

「うん! もうしないよ♡」


 絶対やめる気ないじゃん。

 有希の笑顔がそう物語ってるよ。


「……というか、そろそろどいてくれないか?」


 有希が俺の安らぎを邪魔してきてから約十分。

 俺がソファーの上でうつ伏せになり、その上に有希が座って足をパタパタしながら話をしている。

 有希が重いというわけではないが、さすがにずっとこの状態では背中がきつい。


「えー、やだ」

「なんで!?」

「今の状態ならお兄ちゃん動けないでしょ? なんでもやりたい放題できるし、ここでどいちゃうともったいないから」

「逃げようと思えば逃げれるぞ?」

「じゃあ……」


 ――ぷにっ。


「……お、おい!?」


 柔らかい感触とともに、シトラスののいい香りが鼻腔をくすぐる。

 後ろを振り返ると、すぐそこには有希の小さくて可愛らしい顔があった。


「有希! お前何してるんだ!?」

「スキンシップ〜」

「度が過ぎてるだろ!?」

「兄妹なら当然でしょ〜」


 有希は俺に抱きついており、お腹のあたりで手をクロスしていて逃がすまいと強い力で抱き締めてくる。

 そして俺の背中にべったりくっついているため、柔らかい二つのメロンが思い切り当たっている。

 これは本当に兄妹としてするスキンシップなのか怪しいところだが、さすがにもう我慢の限界だ。

 俺は有希を自慢の腕力で引き剥がし、お姫様抱っこをして有希の部屋にあるベッドに投げ捨てた。


「ちょ、ちょっと……!?」

「お前受験生だろ! 少しは勉強しろ!」

「息抜きは必要だもんー!」


 うわぁーんうわぁーんと泣き始めるが、無視して再びリビングにあるソファーの上で寝転がった。

 うん、これぞやはり至福のひととき。


「ゴールデンウィーク最高…………うぉえ!?!?」

「お兄ちゃんお兄ちゃん! せっかく休みなんだし、どこか遊びに行こうよ!」

「……お前な、一々なんで俺の上に乗る必要があるんだよ」

「逃がさないためだよ♡」

「逃げも隠れもしないんだけどな。それより有希、お前は勉強しろ」

「やだー! 勉強つまんないー! お兄ちゃんとどこか遊びに行きたいー!」

「行きたい高校あるんだろ? 勉強頑張らないと受かる可能性低くなるぞ」


 有希はどうやらずっと前から行きたい高校があるらしい。珍しくどこに行きたいのかまでは教えてくれなかったが、すごく偏差値の高い高校だとは聞いている。

 普段の生活を見ている限りあまり勉強をしていなさそうなため、兄としてはすごく心配なのだ。


「……わかった。勉強する」

「頑張れよ。応援してるから」

「お兄ちゃんに教えてもらう」

「……はい?」

「お兄ちゃんとなら私、勉強頑張れる!」

「はぁ……わかったよ。教えてやるから」

「ほんと!? やったー!」


 ぴょこぴょこと跳ねて、自分の部屋に勉強道具を取りに行く有希。

 一挙手一投足が可愛すぎる妹に思わず頬が緩んでしまうと同時に、俺の妹はやっぱり天使だなと思う。

 それからしばらくして、いいこと思いついた! と言いたげな顔で有希がリビングに戻ってきた。


「お兄ちゃんお兄ちゃん!」

「ん? どうした?」

「勉強頑張ったらご褒美ちょうだい!」

「別にいいけど、何が欲しいんだ?」

「お兄ちゃんのキス」

「……ん?」

「お兄ちゃんのキス!」

「却下!!!!」


 有希は「えー!」と頬をぷくりと膨らませ、「じゃあほっぺにでいいから!」と言ってくる。

 しかしそれも却下。当たり前だ。


「ケチ! お兄ちゃんヘタレだと女の子に嫌われるよ!」

「うるせ! 余計なお世話だ!」


 結局有希が勉強を頑張った時のご褒美は、今度の休みの日にどこか遊びに行くことに決まり丸く収まったのだった。

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