第20話 ゴールデンウィーク前日
「はぁ……」
せっかく
毎日ランニングを頑張っているのを見てた人がいて、それが野本さんだってのはすごく嬉しい。だけど野本さんでもさすがに……。
「どうしてそこまで頑張れるの、か」
頑張っているというより、運動をすると気持ちがいいから。運動が好きだからっていう理由で、俺は今も運動を続けているのだとずっと思っていた。
でもよく考えてみると、それだけじゃない気がする。
何度も忘れようと思っても忘れられない過去が頭をよぎる。
「もしかして、また誰かに認めてもらいたかったのか……?」
またみんなから頼りにされたい。
またみんなから褒められたい。
絶対にないと思っても考えてしまっていたんだ。またいつか自分があの時のように、誰かに必要とされる日がくるんじゃないかって。
「もう部活には入らない。チームスポーツなんて懲り懲りだ……」
『ごめん。お前にはもうパスを出せない』
『
『お前のプレーには誰もついていけねぇって』
『お前さえいなければ……!』
二度とあんな事を起こさせないためにも。
「おっすー」
「おはよう、
「なんだよお前、寝不足か? 目の下すげぇクマできてるぞ」
「眠れなくて……」
「まさか…………女か?」
「ちげぇわ」
「なんだよ、つまんねーな。明日からゴールデンウィークだぜ? 女の一人や二人くらいと付き合えないでどうするよ」
「お前な……」
お前は女子と遊ぶことしか考えてないのか! と突っ込んでやりたいが、昨日野本さんから聞かれたことをずっと考えていたら一睡もできなかったためそんな元気はない。
はぁ……とため息をついてから自分の席に向かい、鞄を横のフックにかけてから机に突っ伏した。
「……おやすみなさい」
それから数時間、俺はいつまで経っても起きることはなかった――――。
「……や、祐也!」
「…………ん……? なんだよ、春樹」
「いや、なんだよじゃねぇよ!? お前もう放課後だぞ!?」
「……放課後? そんなわけ――」
急いで制服のポケットからスマホを取り出し、電源を入れると15時32分と画面に表示される。
学校に来てから、今まで一切の記憶がない。ということは、まさか……。
「お前、俺とか先生が起こしても全然起きなかったんだぞ。本当に大丈夫かよ?」
「あ、ああ。寝不足なだけだったから」
「そっか。ならよかったよ。相談したいことがあるなら言えよ。相談に乗ってやるから」
「ありがとう、春樹……なぁ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「ん? なんだ?」
「もしかして俺、今日ずっと寝てた?」
「おう」
あ、これ詰んだやん。いびきとかかいてなかったかな。
「最悪……」
「まあ一日くらい授業聞かなくてもなんとかなるって」
「お前みたいなバカは気楽でいいよな」
「バ……!? おい! 俺はバカじゃないぞ!」
「バカだろ。スポーツしかできない脳筋野郎め」
「ほほう? 俺にそんなことを言ってもいいのか? 今日の授業ノート見せてあげないぞ?」
「あ、そう。わかった。別の人に頼むわ」
「……泣きそう」
意味のわからないことをブツブツ言っている春樹はとりあえず放置し、俺は
クラスの中でよく話す相手の一人でもあるし、女子ならノートを綺麗にまとめていると思ったからだ。
「長谷川、今日の授業ノートよかったら見せてくれないか?」
「……嫌だって言ったら?」
…………泣くよ?
とりあえず俺に放置され、ぐすんぐすん言っている春樹の方に目を向ける。すると春樹の目は輝き、「俺の見る? 俺の見たい?」とでも言いたげな顔で見てきた。
ウザ絡みされそうで面倒くさいため、視線を長谷川に戻す。
「お願いします。見せてください」
「……しょうがないわね。見せてあげるわよ」
「本当か!?」
女神……女神や!!
「ええ。その代わり、あたしのお願いを一つ聞いてくれたらね」
「……やっぱり別の人に――」
「ちょっと!」
「……なんでしょう」
長谷川のお願いは嫌な予感しかしない。
だから別の人に頼もうと思ったんだが、逃がすまいと長谷川に腕を捕まれた。
「お願いというか、提案というか……」
「提案?」
「ゴールデンウィーク、暇?」
「暇っちゃ暇だけど……」
「なら、どこかに遊びに行かない?」
「え、二人で……?」
「そう、二人で」
長谷川とはよく話すが、色々あってまだ二人きりだと少し気まずい。
でもずっとこのままの関係は嫌だ。
また前のような罵倒し合う関係に戻るも嫌だけど、今の気まずい関係の方がもっと嫌だ。
「わかった。それでノート見せてくれるなら」
「……っ! ほんと!?」
「お、おう」
「(やった……!)」
小声で何を言っていたのかは分からなかったが、喜んでくれていることだけは可愛らしい笑顔を見て分かった。
長谷川からノートを借りて今日の授業分の写真を撮らせてもらい、俺は家に帰ろうと思って教室を出た。もちろん春樹は放置。
すると前方から、長くて綺麗な銀髪の女の子がこちらに小走りで近づいてくる。あれは野本さんだ。
「あ、
「いいけど……俺に用があるの?」
「うん。赤峰くんに用があるの」
野本さんはニコッと笑う。
我ながら気持ち悪いと思うが、この飛びっきり可愛い笑顔が自分だけに向けられていると思うと死んでしまいそうな程に嬉しい。
「じゃあ、ちょっと私のクラスに来てくれる?」
「わかった」
野本さんのクラスに入ると、もう教室には誰もいなかった。俺のクラスはまだ大半の人が残っていたのに。
「よかった。誰もいない」
「……で、話って?」
「あ、えっとね。明日からゴールデンウィークでしょ? もし赤峰くんさえよかったら、どこか遊びに行かない?」
「もちろんです!!」
即答した。野本さんの誘いだったら、絶対に何があっても受けると決めている。
「よかった。じゃあ、詳細はLIMEで! ばいばい!」
「うん!」
キタキタキターーーーーーーーー!!
ゴールデンウィーク最高だーーーーーーーーー!!
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