第19話 俺はもう部活には入らないって決めたんだ

 忘れるはずもない二年前。

 俺はサッカー部に所属していた。当時は運動には自信があり、二年生ながらもスタメン出場。

 ポジションはセンターフォワードで、試合に出れば負けることもあったがほぼ毎回のようにハットトリックを決めていた。


祐也ゆうやがいれば俺たちは負けねぇよ!」

「祐也にパスを回せば絶対ゴールを決めてくれる!」

「祐也のお陰で全国出場も夢じゃないぜ!」


 チームの人たちには当然頼りにされていたし、俺自身もすごく嬉しくてみんなの期待に応えようと毎日必死に練習をした。


 俺がゴールを決めれば、みんな喜んでくれる。

 俺が頑張れば頑張るほど、みんなは褒めてくれる。


 だから頑張った。きつい練習の後も自主練をして、人生をサッカーに捧げた。



 ――――それなのに。



「ごめん。お前にはもうパスを出せない」

「祐也、周りを見てプレーしろよ。このチームはお前一人だけじゃない」

「お前のプレーには誰もついていけねぇって」

「お前さえいなければ……!」


 ずっと信じていたチームメイトは、ある日を境に俺にパスをしてくれなくなった。

 いくら呼んでもミッドフィールダーの奴がボールを持ち込んで、奪われて、ゴールを奪われる。この繰り返し。


 前まで祐也祐也祐也祐也言ってたくせに。みんながみんな俺の目の前から消え去っていく。

 そして挙句の果てには、俺が部室に行った時、偶然みんなが俺の悪口を言っているところを聞いてしまった。


「祐也のやつ、気づいてないのかね? みんなの活躍の場面を奪っているってことに」

「絶対気づいてないだろ。だってあいつにパスを回したら、あとは一人でプレーだぜ? 俺らのことなんて眼中に無いってことさ」

「いやうぜぇー! 王様かよってな。調子に乗りやがって」

「よく俺にパスを回した。もうお前は用済みだ、ってか? ほんと上手いやつは羨ましい限りだぜ」

「てか聞いたか? 前の試合、牧野まきのの彼女が応援に来たらしくて、祐也に一目惚れして別れたらしいぜ?」

「え、それマジ!? 牧野かわいそー」

「牧野だけじゃねーよ。斎藤さいとう先輩の彼女もらしいぞ」

「うわ……俺彼女作ったら絶対試合見に来させないわ」

「お前じゃ彼女できねーよ」

「できるわ!!」


 お前ら、一緒のチームなのに俺のことをそんな風に思ってたのかよ。

 俺はただみんなのためにサッカーを頑張っただけなのに。

 どうしてそこまで言われなきゃいけないんだよ。

 王様? そんなわけないだろ。

 彼女が俺に一目惚れした? そんなの知るか。だったらまた振り向いてもらえるように頑張ればいいじゃねーかよ。


「俺の気持ちも知らないくせに…………」


 もういいよ。だったら辞めればいいんだろ。

 俺がサッカーを辞めれば、みんなの活躍の場を奪うことはない。彼女を奪うこともない。


 そうして俺はすぐにサッカー部を辞めた。サッカーは好きだったけど別に未練なんてものはないし、あいつらチームメイトの顔を見ただけで反吐が出るから。


「君の噂は聞いたよ。サッカーでは『コート上の独裁者』って呼ばれている赤峰あかみね祐也くん」


 サッカー部を辞めてからしばらく経ったある日、ひょろりとして目が開いているのか開いていないのか分からない人に声をかけられた。

 てか、俺そんな風に呼ばれてたの? まあ、別にもう関係ないけど。


「サッカー部を辞めたなら陸上部に入らないかい? 君は足も速いんだろう?」

「いいんすか? 俺が入っても」

「構わないさ。陸上は個人競技だから、君が入っても問題ないさ」


 どうやら陸上部の部長が直々に誘いに来てくれたらしく、俺も個人競技なら誰にも悪口を言われないだろうと信じて快く承諾した。

 陸上部に入ってからしばらくして、俺は先輩が驚きを見せるほどにどんどん記録を伸ばしていった。


「いやー赤峰くん、まだ入部してから三ヶ月くらいなのにすごいね。いずれ僕も抜かれそうだよ」

「あはは……さすがに部長には敵わないですよ」


 入部してから知ったことだが、このひょろひょろ部長は関東大会にまで出場するほどにすごい選手らしい。種目は走り幅跳び。

 俺はそんなひょろひょろ部長の影響もあってか、ひょろひょろ部長に教えてもらって走り幅跳びを毎日練習していた。


「でも、先輩の記録超せるように頑張ります」

「その意気だ! 一緒に全国行こう!」

「全国はさすがに無理っすよ……」


 そんなこんなで練習を重ね、俺は部長と一緒に県大会への出場が決定した。


「やったな赤峰! 県大会でも頑張ろう!」

「はい!」


 月日は流れ、県大会当日。

 思いもよらない出来事が起こる。


「そんな…………」


 県大会の結果、ひょろひょろ部長は決勝に進んだものの関東大会への出場は決められなかった。

 それに対して俺は…………。


「赤峰くん、関東大会出場おめでとう。俺の分まで頑張ってくれよ」


 ひょろひょろ部長は笑顔でそう言い残し、俺の目の前からいなくなってしまった。

 ひょろひょろ部長はこの大会が最後で、部活を引退した。

 俺がいなければ、ひょろひょろ部長は関東大会に進めたかもしれない。まだ部活を続けられていたかもしれない。そう考えるだけで胸が痛くなる。


「あの時と……同じだ」


 団体競技でも、個人競技でも、何も変わらない。

 俺がいることでたくさんの人を傷つけてしまう。


「……ならもう、部活には入らない方がいいじゃないか」


 どうせサッカー部の時と同じように、陸上部の連中からも散々なことを言われるに違いない。それならいっそ辞めた方がいいに決まっている。

 俺は関東大会予選で敗退した後、退部届を提出して陸上部を辞めた。

 これからはもう部活には入らず、個人競技でも団体競技でも一切大会に出ないと心に決めて。

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