第18話 なんでここにいるの!?
スポーツテスト全種目が無事に終わり、俺――
シャトルランで全体力を使い果たしたため、俺は正直家に帰るので精一杯だったってのに。
「あー疲れた」
いつもなら学校から帰った後はランニングをしに家を出る。しかし今日はシャトルランのせいで足が限界にきていたため、この後には走れそうにない。
「ランニングの時間の分暇だし、散歩にでも行こうかな」
学校から帰った後や休日は、タイムスケジュール的な感じでやることを時間ごとに決めて過ごしている。
そのためいつもランニングをしている時間がなくなってしまうと、どうしても暇になってしまう。
俺は普段毎日のようにランニングしているコースを散歩することに決め、制服から学校のジャージに着替えて家を出たのだった。
「……やっぱり少し走ろうかな」
散歩をしようと家を出てから数分経ち、せっかく外に出たなら運動したいと思ってしまった。ランニングはさすがに無理があるだろうから、軽くジョギングしようと走り出す。
「やっぱ走るのは気持ちいいな」
それからしばらくして、少し前に
この公園はランニングコースとして最適なためいつも入っているが、入る度に長谷川とのことを思い出してしまう。
「そういえばあいつとキス、しそうになったんだよな……」
あまり時間は経ってないが、今になっても忘れることはない。
あの時の長谷川の照れた顔。仕草。言葉。今でも全部覚えてる。
「よくよく考えたら、あいつってめちゃくちゃ可愛いんだよな……」
そんな子に、俺は――――。
「赤峰くん」
長谷川のことを色々と考えながらも、ジョギングで公園を出ようとしたその時。後ろから俺の名前を誰かが呼ぶ声が聞こえてきた。
「え、
「うん。どう? びっくりした?」
「びっくりしたよ……。どうしてここにいるの?」
「さぁ? なんでだろうね」
…………本当になんで?
「家が近くて風に当たりたくなった、とか?」
「うーん、ちょっと違うかな。家が近いのは合ってるよ」
「え、近いの!?」
「うん。すぐそこだから」
「へ、へ〜? そうなんだ」
全然知らなかった。なら俺、知らなかっただけでランニング中に野本さんの家の前通ってるのでは!?
「そうなの。で、なんで私がここにいると思う?」
「分からないよ……。全く見当がつかない」
「ほんとに?」
首をちょこんと傾げる野本さん。
すごく可愛い。国宝級だよ、絶対。
千年に一人の美少女とかいう人がテレビに出てたりするけど、野本さんは千年に一度どころじゃないよ。十万年に一人の美少女だよ。
「ほんとほんと」
「本当に分からないなら仕方ないね。じゃあ、教えてあげる」
野本さんは俺の反応を楽しむかのようにわざと沈黙し、五秒ほど経ってから口を開いた。
「君を待ってたんだよ。赤峰くん」
「…………え?」
冗談……じゃないよな?
もし嘘だったら、野本さんの前とか関係なく泣いちゃうよ?
「それ、マジで……?」
「うん。赤峰くんのことを待ってたの」
「マジで!?!?」
心の中の俺、歓喜。
「でもどうして……?」
「少し話がしたくって。ベンチに座って少し話そうよ」
「もちろん!」
野本さんが自ら俺と話したいと言ってくれるなんて……。今日の帰りに死ぬんじゃないかな。
どうして俺が今日この時間に、この場所を通ることを知っていたのか。俺と話がしたいなんて何を話したいのか。
色々と疑問はあるが、とりあえず野本さんが座った隣に、少し間を空けて腰を下ろした。
「赤峰くん。私ね、ずっと気になってたんだ」
「……え?」
「赤峰くんって帰宅部で、早く帰ってゲームしたいからって理由で部活に入らなかったんだよね? それなのに毎日帰ってからは、家からかなり遠いはずのここまでランニングをしている。そして偶然知ったんけど、赤峰くんゲームあまり好きじゃないんだよね」
「なんでそれを……」
どうして俺が毎日かなりの距離をランニングしていることがバレてるんだ……?
それにゲームをあまり好きじゃないことまで……。
「ランニングは毎日見てたから。ゲームについては前に赤峰くんと
「毎日……見てたから……?」
「うん。赤峰くんね、ランニングしてる時私の家の前通ってるんだよ。気づかなかった?」
「全然……」
「それでね、不思議に思ったんだ。ゲームを理由にして部活に入らなかった。きっとランニング以外にも家で筋トレやトレーニングもしている。運動が好きなのはその必死さからも伝わってくる。なら、どうして部活に入らないんだろうって」
「…………春樹とのスポーツテストで負けたのが悔しかったからだよ。あと運動部には入りたくなかっただけだ」
「ほんとに?」
「……うん」
「そっか」
本当はそれだけじゃない。
でも、これだけは誰にも言えない。
野本さんだから言えないってわけじゃない。長谷川にも、親友の春樹にだって話すことはできない。
思い出すだけでも苦しくなる。忘れようと思っても忘れられない、あのことだけは。
「シャトルラン、かっこよかったよ」
「…………え?」
「今日のシャトルラン。赤峰くん、吉川くんと並んで絶対学年で一番の記録だよね」
「そう、かな?」
「うん。他の女子たちも二人のことかっこいいって叫んでたし」
「ほんとに!?」
春樹は容姿がイケメンだからともかく、俺まで!? 集中しすぎて全然気づかなかったけど、遂にモテ期が!!
「本当だよ。本当にかっこよかったと思う。他の種目はどうだったの?」
「それなりにって感じかな。みんなからは『帰宅部のバケモノ』なんて言われたけど」
「ふふっ……そんなにすごかったんだ。見たかったな、赤峰くんの頑張ってるところ」
野本さんはそう言って、橙赤色に染まった空を見て目を細める。
その横顔はとても美しく、思わず目が吸い寄せられてしまうほどに魅力的だった。
「ねぇ、どうしてそこまで頑張れるの?」
「……え?」
「ずっと気になってたの。なんで嘘をついてまで部活に入らないで、毎日のようにランニングとか頑張ってるんだろうって。もし入ったら絶対すごい記録残せると思うのに」
「……野本さん、ごめん。さすがにその理由は答えられないよ」
「あ、こちらこそごめん。言いたくないなら言わなくていいから」
「……うん」
誰にも言えない。今すぐ記憶から消したい。
俺が部活に入らない理由なんて、誰かに話したら嫌われてしまうに決まっているから。
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