第17話 気になる人 ※野本花蓮視点
私――
その人のことを好きなのかと聞かれれば、恐らくそれはないと答えるだろう。これは恋愛的な感情ではない。言わば興味みたいなものだから。
「
「おはよう、野本さん」
この人が私の気になる人だ。名前は
今は別のクラスだけど、一年生の頃に同じクラスで当時は結構仲良くしていたと思う。しかし別のクラスになってから接点がなくなっちゃって、話す回数は格段に減ってしまっている。
「そういえば……私が赤峰くんと出会ってから、今日でちょうど一年か」
あの日のことは今でも覚えてる。
そしてあの日を境に、私は彼を無意識に目で追ってしまうようになっていたんだ――。
今からちょうど一年前、私は中間テストに向けていつも通り自分の部屋で勉強をしていた。それは確か夕方で、学校から帰ってすぐだったと思う。
「よし! あと一週間で中間テストだし、ラストスパート! 学年一位取りたいし、頑張らなきゃ!」
机の上にカフェオレとチョコレートを用意し、数学の教科書と問題集を開く。
私は一番数学が苦手で、毎日のように必死に頑張らないと高得点を取ることはできない。それに加えて今回が高校生として初めてのテストなため、気を引き締めて上位を取れるように頑張ろうと思っていた。
「数学得意な人いないかな。本当に公式を見てもよく分からないんだよね……」
教科書と問題集を開いてはみたが、やはり全然分からなかった。一度リフレッシュをしようと思い、部屋の窓を開けてみる。
「はぁ、涼しくて気持ちいい」
すると左から、私と同じ高校の体操服を着た男の子が走ってくるのが見えた。
「あの人って……確か同じクラスの赤峰くん、だよね?」
同じクラスの人は顔と名前をちゃんと覚えたし、多分合っていると思う。
赤峰くんはかなり速いスピードで、私の家の前を通り過ぎていった。
「速いな」
初めて見た時は、足が速いんだっていう印象しかなかった。
でもその次の日、またその次の日、またまたその次の日も、雨の日でも風が強い日でも、彼は私の家の前を通って同じ時間にランニングをしていた。そんな彼を見ていつの間にか私は、彼が家の前を通る度に心の中で応援するようになっていた。
毎日ランニングをするのは運動不足にならなくていいことだし、運動をしている男子たちならみんなやっているだろうから当たり前なのかもしれない。だけど……。
「え、祐也部活入らないの!?」
「うん。入りたいと思う部活なかったから」
「えー、お前運動神経いいのにもったいなくね?」
「悪いな……」
どうやら彼は部活に入らなかったらしく、周りの男子たちからは不思議に思われていた。
私もその話を聞いた時、すごく不思議に思った。
毎日のようにランニングをして、恐らく家やジムで筋トレなどのトレーニングをしているだろうに、どうして部活に入らなかったんだろうって。
私は勉強に集中したいからという理由で部活に入らなかったけど、彼は授業中寝たりしているから勉強が理由で部活に入らなかったわけじゃない。
「なんで……」
まだ一度も話したことはなかったし、勇気もなかったから話しかけることはできなかったけど、それから彼への興味がどんどん強くなっていった。
走っているところを見ただけで興味が湧くなんて、自分でもちょっとおかしいとは思ったけど。
どうして運動部に入るわけでもないのに、挫けることなくトレーニングを毎日のように頑張れるんだろう。
私なら絶対に無理だ。中学校の頃も実際そうで、せっかく入ったテニス部も一ヶ月で辞めてしまったし。
どうして彼は…………。
「話しかけてみようかな……」
赤峰くんがランニングしているところを見るようになってからしばらく経ち、私は彼に話しかけてみることに決めた。
今までは勇気が出なくて話しかけられなかったけど、勇気を振り絞って放課後に話しかけてみた。
「あの……赤峰くん、ちょっといい?」
「の、野本さん!? 別にいいけど、どうしたの?」
いざ話しかけてみると、赤峰くんはビックリしてしまったのか私から3mくらい距離を取った。
んん……結構遠いな。そんな離れる必要ある?
「えっと、ずっと聞いてみたいって思ってたんだけど、赤峰くんってどうして帰宅部なの?」
「それは…………早く帰ってゲームしたいからだけど」
絶対嘘だよ。
それならどうして、帰ってから必死な顔してランニングをしているの……?
「本当に?」
「うん。ほんとほんと」
どうしても言いたくないのか、赤峰くんは嘘を突き通した。実際ランニングは少しだけしてゲームをしたいっていうのは本当なのかもしれないけど、普段の体育の授業を見る限り絶対に運動をしている人の動きだから有り得ない。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
「うん」
本当の理由を言いたくないなら、無理に聞き出すわけにはいかない。そう思って諦め、赤峰くんには気づかれないようにランニングしているところを応援することに決めた。
でも、それからだった気がする。
赤峰くんが積極的に私に話しかけてくれるようになって、段々と仲良くなっていったのは。
あれから一年が経ち、私は今日のシャトルランを見て、赤峰くんのことを本当にすごいなって思った。
他の種目がどうなっているかは知らないけれど、赤峰くんのシャトルランは想像を絶するほどにすごかった。
記録はサッカー部の
帰宅部でそんなに行く!? って周りのみんなは驚いていたし、女子たちなんてあの二人の頑張っている姿を見て「かっこいい!!」って感激してたくらい。
「本当にかっこよかったな……」
私は学校から帰り、中間テストに向けての勉強を始めようと思ったが、赤峰くんの走っている姿を思い返しているといいことを思いついてしまった。
いつもなら、もうそろそろ赤峰くんが家の前を通る頃。
前に気づかれないように応援するって決めたけど、突然話しかけたら驚くんじゃないかって思ったのだ。
「よし……!」
中間テストまではまだ二週間もある。
一日くらいは勉強しなくても大丈夫だろう。そう思って、私は家を出たのだった。
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