第15話 お前には絶対に負けない!

 春樹はるきとの真剣勝負、スポーツテストが始まった。

 春樹はサッカー部に所属していて、運動神経抜群だ。そんな奴に対して、俺は帰宅部。普通なら帰宅部の奴がサッカー部の奴に勝てるわけないし、勝てる方がおかしいと考えるだろう。

 でも俺は、そんなサッカー部の奴に匹敵するほどには運動神経がいいと自負している。


「まずは握力だな。祐也ゆうや、お前から先にやってくれ」

「別に俺からでもいいけど、本当に俺からでいいのか?」

「どうゆうことだよ」

「ふっ……覚えてないか? 一年の時、お前握力だったら俺にぼろ負けだったじゃないか」

「なっ……!」


 一年の時、今日と同様にスポーツテストは俺と春樹で真剣勝負をしていた。その時、唯一目に見える差がついたのが握力だった。

 ちなみに俺の握力平均は47、春樹は41だった。これだけで点数の差は2点ついていることになる。


「た、確かに……思い出すだけでイライラしてきたな」

「どうする? 俺が最初にやったとして、お前が戦意喪失しても知らないぞ?」

「……別にいいさ。俺は今回、全種目でお前に勝つって決めてるんだよ。そのためにトレーニングを死ぬほど頑張ったからな」


 春樹はそう固く決意してきたようだが、俺にだって負けたくないという気持ちは当然ある。

 長谷川の前で運動は苦手だと言ったが、実はすごく得意だ。中学生の頃は県内トップレベルのサッカー部でスタメンだったし、サッカーをやめた今でもトレーニングは毎日のようにしている。

 まあ、トレーニングを続けている理由は一年のスポーツテストで春樹に負けて悔しかったからだが。


「わかった。本当に知らないからな」


 俺は握力計を右手で握り、どんどん力を込めていく。それを左右二回ずつやり、平均値を求めると……。


「俺の平均は49だった。これで俺の勝ちは確実だな」

「よ、49……だと!? どうして帰宅部のお前がそこまで……!」

「一年前の借りを返すと決めて、お前と同じようにこの一年トレーニングを死ぬほどやったからな」

「もうお前運動部入れよ! なんで帰宅部なんだよ!!」


 確かに春樹の言っていることは正しいかもしれない。だが、もう部活には入りたくないんだ。女子との青春を謳歌するために…………できてないけど。

 それに帰宅部の奴が運動部のエースに運動で勝てたら、めっちゃかっこいいと思うんだよな…………勝てるかわからないけど。


「春樹、次はお前の番だ。一年のトレーニングの成果、見せてもらおうじゃないか」

「くっ……やってやるさ!」


 春樹は俺と同様左右二回ずつ握力計を握り、平均値を計算する。

 すると悔しそうな顔で、俺の前まで歩いてきた。


「47だ……」

「俺の勝ちだな? まあ、お前もよく頑張ったと思うぞ。うんうん」

「うっぜぇ……他ではもう負けないからな!」

「望むところだ」


 そんな俺と春樹の様子を見ていたクラスの男子たちは、


「バケモンや……」

「あいつらゴリラか……? 絶対人間とゴリラのハーフだろ……」

「人間とゴリラのハーフ? そんなわけないだろ。純のゴリラだよ、あいつらは」


 などと、人間かどうかを怪しみ、『今後絶対にあの二人を怒らせてはならない。怒らせたら確実に殺られる』という暗黙の了解が生まれたのだった。



 それからスポーツテストは順調に進んでいき、残すは20mシャトルランのみとなった。

 現在の成績は俺が62点、春樹が61点と中々僅差であり、20mシャトルランでも俺が大差で負けなければ一年前の雪辱を晴らすことができる。


「くそ……祐也、お前中々やるじゃないか」

「春樹もな。まさかここまで接戦になるとは思わなかったぜ」

「ふっ……祐也、体力に自信は?」

「ないよ。サッカー部のお前に勝てるわけないだろ」


 春樹にはこう言ったが、実のところ体力にはめちゃくちゃ自信があった。

 毎日ランニングをして地道に体力をつけたし、今ならマラソンに出てもそれなりの結果を出せる気がする。


「じゃあ明日、お前の負けた時に見せる顔が楽しみだな」

「言っとけ。俺が10点取れればお前の負けは確定だぞ? 負けるのはどう考えてもお前だ」

「なんだと?」

「やんのか?」


 決着は明日つく。俺の今までの集大成を見せつける時がやっときた。楽しみだな。



 次の日、待ちに待った体育の時間になり、シャトルランをすると事前に聞かされていたためみんなは各自ストレッチやアップを始めていた。

 シャトルランは二クラス同時並行で行うため、俺たちとは別のクラスもいるんだが…………なんとその別のクラスとは、野本のもとさんのクラスなのである!


「「「野本さんに良いところを見せる時がきた……!!!」」」

「「「長谷川はせがわさんに良いところを見せてやる……!!!」」」


 この体育館に集まった男子たちのほとんど全員は、野本さんや長谷川に良いところを見せると意気込み、やる気で満ち溢れていた。

 野本さんはまだ分かるにしても、春樹から聞いていた通り長谷川もかなり人気があるらしく、長谷川の方にも熱い視線を送っている男子がたくさんいるのが見て分かる。


「いやー、すごいな。長谷川さんも野本さんも」

「そうだな。てか男子はほとんどあの二人しか眼中に入ってないのでは……?」

「そんなこともないぞ? 見ろ、桑原くわばらさんも結構モテモテだ」

「うわ、ホントだ」


 春樹の言う通り、長谷川の隣に立っている桑原にも熱い視線を送っている人がちらほら見えた。

 やはりあの包容力が人気を集める理由だろうか。加えて、体操服を着ていてもわかるくらいたゆんたゆんだし。

 そんなわけで俺は桑原を見ていると、ちょうど桑原の隣に立っていた長谷川が視線に気づいたのかこちらを見てくる。そしてなぜか睨みつけてきた。

 な、なんで俺睨まれてるの……? こ、怖い! 怖いよ!!


「おやおや? お熱いですな〜」

「ばっ! 違うわ! お前なんてこと言うんだ!」

「だって熱い視線送りあってラブラブしてるのがいけないんじゃん?」

「してないわっ!!」

「またまた〜」

「いや、冗談じゃねぇよ!?」


 何度否定しても春樹はニヤニヤ笑いながら俺を見てくる。これ絶対照れ隠しだと思われてるやつ。

 面倒くさいため春樹のことは一旦置いておき、長谷川の方をもう一度見てみる。するとなぜかは分からないが、未だに睨めつけられていた。本当に怖い。


「シャトルラン始めまーす! 最初に走る人はスタートラインに並んでくださーい!」


 このシャトルランで、待ちに待っていた春樹との決着がつく。

 今年は勝つと、もう何度喝を入れたか分からないが再び喝を入れて俺はシャトルランに望むのだった。

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