第14話 どうしてこんなにも辛くなってるんだろう
「おい
「……ちげぇよ」
「ならそんなボーッとすんなって。まじで体育の時にボーッとしてると怪我すんぞ」
「……そうだな、悪い」
自分がこれからどうすればいいのか分からない。
『あたしはこれからもあんたのことが好きなまま。少しでも隙を見せたら、あたしがあんたのハートを奪っちゃうんだから』
こんなことを言われて、意識しないわけがない。
告白をしてくれたのは長谷川が初めてだったし、女子と二人でデートをしたのも長谷川が初めてだった。
前までの俺だったら、天敵だと思っていた長谷川と別れられて絶対に嬉しいって思ってたのに。
今まで何も経験してこなかったから、何も知らなかった。
恋愛をするのって、すごく辛いことなんだって。
こんな気持ち、知りたくもなかった。
――どうして俺は今、こんなにも辛くなってるんだろう。
次の日、いつも通り遅刻ギリギリで学校に着きそうなくらいのペースで歩いていると、目の前に同じ高校の制服を着た女子が立っているのが見えた。
その子は肩上まで伸びた綺麗な金髪が特徴的な女子で、今俺の心をモヤモヤさせている張本人だった。
「
「……おはよう、長谷川」
「どうしたの? 元気ないけど」
「色々あってな」
「ふーん? もしかして、あたしに振られてショックだった?」
「んなわけ…………あるかもな」
「えっ……?」
予想外だったのか、長谷川は頬だけでなく耳まで真っ赤にして両手で顔を隠す。
俺自身否定するつもりだったけど、実際そうなのかもしれないと思うと否定できなかったのが本音である。
「そ、そんなことより! 今日はスポーツテストだけど、あんたは自信あるの?」
「ない。運動は苦手なんだ」
「とか言っちゃって、一年の結果は?」
「もちろんAだが?」
「うわ、ムカつく〜。ほんと赤峰はそうゆうところ直した方がいいと思うけど。人のこと見下すなんて最低! クズ峰!」
「おいお前、今クズ峰って言ったか!? 俺の苗字とクズを合わせるんじゃねぇ!!」
「だってあんたが人のこと見下してるからでしょ! クズ峰! クズ峰!」
「おま……人のことクズ呼ばわりしてただで済むと思うなよ!? クズ川!」
「うわ、あんた本当に最低! 女子を罵倒するなんて……!」
「お前が始めたんだろうが!!」
俺が息を切らしてゼーゼーと息を吐いていると、それを見た長谷川はお腹を抱えて笑い始めた。
「……なんで笑ってるんだよ」
「だって久しぶりでしょ? こういう感じ」
「………っ。そういえばそうだな」
「どう? 元気出た?」
「…………え?」
こいつ、もしかして俺に元気を出してもらうために?
「久しぶりに罵倒し合うの楽しかったでしょ」
ニコッと長谷川は笑う。
なんでお前は……。
「どうして……」
「?」
「どうしてお前は、そこまで俺に気を使ってくれるんだよ……」
俺はお前に最低最悪なことをしていたのに。
どうして怒らないんだよ。どうしてそれでも好きでいてくれるんだよ。
「当たり前じゃない。だってあたしはあんたのことが好きなんだから」
「……っ!」
「それに言ったでしょ? 少しでも隙を見せたら、あたしがあんたのハートを奪っちゃうんだからって。ずっと虎視眈々と狙ってるんだからね」
そう言って長谷川はじゃあまた学校でね、と背を向けて学校に向かって走っていく。
長谷川のやつ、もしかして俺を元気づけるためだけにここで待ってたわけじゃないよな……? なんてそんなわけないか。自意識過剰にも程があるだろ。
でも長谷川のお陰で、少しは心の中のモヤモヤが晴れた気がする。
「ありがとうな、長谷川」
背を向けたまま走って遠ざかっていく長谷川を見ながら、本人には聞こえないような声で呟いた。
そしてまさかモヤモヤさせられている張本人に励ましてもらうことになるとは思わなかったな、と苦笑したのだった。
学校に到着し、教室に入るといつものように
「な、なんだよ?」
「やっといつも通りの祐也に戻ったか。昨日すげぇ深刻そうな顔だったから心配したんだぞ」
「悪かったな。心配かけて」
「全く、本当に世話の焼けるやつだ。今日も昨日のような感じだったら殴り飛ばしてたかもな」
「なんでだよ!? お前そんなキャラだったか!?」
「昨日のお前、見ていてマジでイライラしたんだよ」
「ひど!!」
冗談冗談、と俺の反応を見て大声で笑う春樹。
俺はそんなお前にイライラしたよ。
「そんなことより祐也、今日はどうする?」
「もちろんするに決まってるだろ。運動神経でお前に負けたら俺には何も残らないからな」
「ふっ……決まりだな」
今日はスポーツテスト。
運動神経がいい男子学生ならば、女子にいいところを見せられる絶好の機会だ。
もちろん俺も野本さんに自分のかっこいいところを見てもらいたい。だがそれ以上に春樹に勝ちたい……否、勝たなければならない!!
前回は僅差で春樹の勝利に終わったが、今回は負けるわけにはいかない。イケメンに運動神経でも負けるわけにはいかないからな!!
こうして俺と春樹は、毎年恒例になってもおかしくないスポーツテストでの真剣勝負をすることになったのだった。
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