第6話 彼氏のことはもっと知りたいもんね!
遡ること約一時間前。
「
「ん〜? どうしたの〜?」
澪が話しかけたのは、高校に入ってからの親友である
肩下まで伸びた茶髪を巻いており甘い声色が特徴的で、誰もが認める包容力のすごさは見た目からも滲み出ている。そして天然。彼女は無自覚系のド天然美少女であり、幾度となく澪を困らせていた。
そんなわけで環奈も、男子から絶大な人気を得ている。
「ちょっとこれから行きたい場所があるんだけど、一緒に来てくれない?」
「え〜、どこ行くの〜?」
「……駅前のショッピングモール」
「あ、もしかしてそれって
「ちがーう!!」
環奈が祐也のことを口にしようとした瞬間、ものすごいスピードで澪の手は環奈の口を塞いだ。
祐也と澪の関係は、クラスの皆の中では犬猿の仲だと知れ渡っている。そんな澪が犬猿の仲である祐也の場所にわざわざ行くともなれば、クラスの皆は澪が実際は祐也のことを好きなのだと勘づいてしまう。澪は絶対にそれだけは避けたかった。
「ん〜〜〜! も〜! 澪ちゃんやめてよぉ〜!」
「だって環奈が変なこと言うからでしょ!?」
「え〜、でも本当のことなんで――」
「ちがーう!!」
「ん〜〜〜!」
環奈の口は再び澪によって塞がれ、無事に祐也と澪の本当の関係をクラスの皆には知られずに済んだ(多分)のだった。
澪と環奈はその後、駅前のショッピングモールにやって来た。
「澪ちゃん〜、やっぱり赤峰くんがここに来てるからでしょ〜?」
「な、なんでそうなるのよ……」
「だって付き合ってるんでしょ〜? それなら彼氏のこともっと知りたいもんね〜」
「うぅ……」
環奈には澪がずっと祐也とのことについて相談していたため、当然環奈は澪と祐也の本当の関係を知っていた。なんなら誤解とは言えど、澪が祐也に告白されたということも知っている。
「じゃあ赤峰くんのこと探そっか〜」
「……ありがと」
「全然大丈夫だよ〜」
――そして、現在に至る。
「なんでお前がいるんだよ……」
「……悪い?」
俺と春樹の前に現れたのは
二人ともスタボの新作であるいちごフラペチーノを手に持っており、俺たちの横の席に座った。ちなみに俺の隣には長谷川、春樹の隣には桑原が座った。
「別に悪くはないけど……」
「長谷川さんたちは買い物かなんかで来たの? それとも――」
「スタボ! スタボの新作飲むために来たの! だよね? 環奈」
「うん〜。そうだよ〜」
何かを隠しているのか必死に春樹の言葉を遮る長谷川。それと、適当に相槌を打っていちごフラペチーノをちゅるちゅると美味しそうに飲む桑原。
「へー? あ、そういえば長谷川さんに聞いてみたいことがあったんだけど」
「? なに?」
おい、春樹。すごく嫌な予感がするんだが……?
「祐也と最近どう?」
俺はちょうど飲んでいたいちごフラペチーノを思わず吹き出してしまう。
春樹ぃぃぃいいい!!!
長谷川になんてこと聞いてるんだよぉぉぉおおお!!!
「別に? いつもと変わらないけど?」
長谷川は平然と、本当に何もなかったかのように淡々と言った。
春樹はそんな長谷川を見て「ふ〜ん?」とだけ言って、目を細めて笑みを見せる。
「だから何もないって言っただろ。あとお前、その顔キモイからやめろ」
「キモイ!? 祐也いくらなんでもそれは酷くない!?」
「うるせぇ。お前がキモイのが悪い」
「がーん! ねぇねぇ二人とも、祐也酷いと思わない? 俺のことキモイって言ってくるんだよ?」
「赤峰が最低な奴なことくらい知ってるわよ」
「赤峰くん最低〜」
なんかいつの間にか三対一になってるんだけど……、俺そんな酷いやつに見えるの!?
てか桑原に関してはいちごフラペチーノ飲みながら適当に言ってたよね?
ということは、本当は俺のこと酷いやつだなんて思ってないよね!? そうだよね!?
「お前ら俺のことをそんな風に思ってたなんて……」
災難だ。
春樹には長谷川のことで勘ぐられ、なぜか女子たちには酷いやつ認定された。
野本さんだったら、こんな時でも優しく接してくれるのに。
四人ともいちごフラペチーノを飲み終わり、もうやることもなくなったため解散することになった。
俺と長谷川は家が近いため歩きで、春樹と桑原は家が遠いため電車。
そのため駅前で解散し、俺と長谷川は二人きりになった。
「はぁ……災難だ」
思わずため息が漏れてしまう。
本当に災難だった。でも春樹にはバレなかった……よな?
「なにが災難よ。もしかしてあたしと二人きりで帰るの、嫌なの?」
「別に嫌じゃねーよ。どうせ明後日も映画見に行くんだし」
「じゃあ何が災難なのよ」
「春樹にお前との関係疑われてるだろ? 正直あいつには話したくないんだよ。からかわれるから」
「やっぱり話してなかったんだ。普通に話しちゃえばいいじゃない」
……こいつ、今の俺の話聞いてた?
「なんでだよ。お前だってからかわれるの嫌だろ?」
「それはまあ……嫌かも」
「だろ? てかお前は桑原に話したのか?」
「うん、話した」
「……そっか」
前までの犬猿の仲状態だった俺たちなら、こんな会話は絶対にしなかっただろう。
目が合えば罵倒。それが当然だったのに、今では格段に罵倒される回数が減ってきた。たまにされるけど……。
俺たちの関係を変えた告白練習。あれがなかったら、間違いなく長谷川と普通に話すことは実現しなかっただろう。
そう考えると、別に悪くなかったのかもしれないと思う。
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