第4話 なんでも言うことを聞くとは言ったが……まじ?
「何をお願いしようかなー」
「……お前、絶対もう言うこと決まってるだろ。なんでもとは言ったけど、俺ができる範囲でだからな」
「分かってる」
「ほんとかよ」
終始ニヤニヤ笑っている
本当に嫌な予感しかしない。
「……決めたわ。あたしと……つ、付き合いなさいっ!」
え、こいつ今、なんて言った?
あたしと付き合いなさい、って言ったよな? 聞き間違いじゃないよな?
「……え、今なんて?」
「だ、だからっ! あたしと付き合いなさいって言ったのっ!」
「あはは! そうだよな! やっぱそう言ってたよな! …………って、は!?」
「元はと言えばあんたがあたしに『好きだ、付き合ってくれ』って言ったんじゃない。あんたのせいであたし、昨日からずっと混乱してたんだからね」
「だからって……」
「なんでも言うこと聞いてくれるんじゃなかった?」
そうだ。俺に拒否権はない。
たとえ別に好きな人がいるとしても、できる範囲でなんでも言うことを聞くと言ってしまったのだ。
長谷川の考えていることは全く理解できないが、一週間くらい付き合ったら長谷川も飽きてくれるだろう。
「……わかった。付き合うよ」
「よろしい」
「でもお前、俺のこと嫌いなんじゃないのか?」
「え……どうしてそう思うのよ」
「いやだって目が合えばすぐ罵倒してくるじゃん」
「そ、それはっ! (あんたが気付いてくれないから……)」
「ん、なに? ごめん、聞こえなかったんだけど」
「なんでもない!」
長谷川はそう言ってぷいっと目を逸らし、屋上から逃げるように去っていく。
「お、おい! 長谷川、その……これからよろしくな!」
「うん、よろしくね。
こうして、俺と長谷川は嫌い同士にもかかわらず、謎に付き合うことになったのだった。
次の日、久しぶりに寝坊してしまい遅刻ギリギリ手前で学校に着いた。
寝坊をしてしまった理由は、当然長谷川のことを夜遅くまで考えていたからだ。
あいつはなぜ、付き合えだなんて言ったのだろうか。
その答えがいつまで経っても出なかった。
もしかして俺のことが好きなのか? と少し考えたりもしたが、それは絶対にない。
だってあいつは、超がつくほど俺のことが嫌いだから。
「おはよう、赤峰」
「お、おう。おはよう」
教室に入ると、いつもと違って罵倒せずに普通の態度で接してくる長谷川。
昨日あんなことがあったのに、なんでそんな平然としてるんだよ。
「遅刻ギリギリだけど、寝坊でもしたの?」
「あ、ああ」
「あっそ。遅刻しなくてよかったわね」
「……おう」
なんなんだよ、昨日からこいつ変だろ。
いつもは会ったらすぐに罵倒してきたり、俺の顔を見たら絶対露骨に嫌な顔するのに。
「赤峰、ちょっとこの後時間ある?」
「あるけど、何か用か?」
「ちょっと話したいことがあるから、お昼に屋上来てよ」
「? わかった」
昨日の今日で何の用だ?
もしかして、やっぱり俺と付き合うのはなしで、別のお願いを聞いてほしいって言われたりしないよな? 俺としてはそっちの方が嬉しいけど。
授業中もずっと長谷川からの話が何なのか気になって集中できず時間だけが過ぎ、昼休みになった。そのため俺は思い足取りで、長谷川に言われた通り屋上に向かっている。
話したいことがあると言われたが、そう言われた時に何も話さなかったということはクラスのみんなには聞かれたくなかったのだろう。
すごく嫌な予感しかしないし、今すぐ逃げ出したい気分だ。
「話したいことがあるならLIMEで言えばいいのに……」
屋上に着き、はぁ……とため息をつきながら扉を開けた。
すると目の前には、俺のことを呼び出した張本人である長谷川が立っている。
「なんだよ、話したいことって」
「ん、赤峰。遅かったわね」
「それは、ごめん。色々考え事してた」
「まあいいけど。早速だけど、その……今週末は空いてる?」
「…………は?」
「だ・か・ら! 今週末は空いてるのかって聞いてるの!」
「え、話したいことってそれ?」
「そうよ! 悪い!?」
わざわざ誰もいない場所に呼び出され、何かと思えばそんなことかよ!?
普通に屋上じゃなくてみんなの前で言ってもよかったじゃないか!!
「悪くはないけど、呼び出すほどのことじゃなくないか?」
「な! 別にいいでしょ!? で、空いてるの? 空いてないの!?」
「……空いてるけど」
「っ! ふ、ふ〜ん? じゃあ、その、一緒に映画……見に行かない?」
…………は?
俺と、長谷川が、一緒に、映画??
「なんで俺がお前と一緒に映画なんて見に行かなきゃいけないんだよ」
「……嫌?」
さっきまで一緒に声を張り上げていたのに、急にしゅんとして目線を下げる長谷川。
本当に昨日から様子おかしいぞ、こいつ。
「嫌ではないけど……はぁ、わかったよ。行けばいいんだろ行けば」
「! ほんと!?」
「お、おう」
「やった! じゃあ、約束だからね!」
長谷川は急にテンションを上げ、ガッツポーズなんかもし始めた。
そんな無邪気に笑って喜んでいる姿は可愛……じゃなくて、子どもっぽくてすごく愛おしい。
「なぁ、ずっと聞きたかったことがあるんだけど」
「ん? なに?」
俺は昨日からずっと気になっていた。
今まで散々罵倒してきたり、俺のことを嫌いだのなんだの言っていたのに、どうして付き合ってなんてお願いしてきたのか。
「長谷川ってさ、もしかしてなんだけど……俺のこと好きなの?」
日中なぜかを考えていた結果この結論に至ってしまったが、どうしても答えを聞きたかった。
間違っていたらすごく恥ずかしいし、もしそうだと言われたりしたらどう反応すればいいか分からないけど。
それでも俺は、なんで長谷川が付き合ってとお願いしてきたのかを知りたい。
「…………どうしても答えなきゃだめ?」
頬を赤く染め、上目遣いで聞いてくる長谷川。
やめろよ、そんな顔されたら嫌われている俺でも勘違いしちゃうだろうが。
「どうしても嫌って言うなら答えなくてもいい。でも、俺はお前がなんで付き合ってほしいってお願いしてきたのかを知りたい」
「…………わかった。言う」
高校生にしてはかなり発育している豊満な胸に手を当て、決心したように長谷川は口を開いた。
「――あたしは、赤峰のことがずっと好きだったの」
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