第5話 新しい恋人

 AさんとBさんの交際は順調だった。付き合い始めて3か月くらい経った頃。Bさんは一人暮らしだから、Aさんは夕飯を作りに行った。Bさんは手伝わないで、テレビを見ていた。Aさんは、前の旦那もそんな感じの人だったから気にならなかった。恋人同士で料理・・・ってのは、実はAさんはやったことがなかった。大学時代に元旦那と出会って、その人しか知らなかったからだ。


 Aさんは料理を作っていて、にやけてしまった。

 まるで新婚みたいだ。

 しかし、料理はあまり得意ではない。


 でも、ネットで見つけたレシピ通りに作ったらそこそこおいしくできた。

 Bさんも喜んでいた。

「立ち入ったことを聞くけど、前の旦那さんとはどうして離婚したの?」

 BさんはAさんの人となりをもっと知りたくて尋ねた。

「子供を亡くしてから、私が落ち込みすぎちゃって、それでもう一緒には暮らせないって言われたの・・・」


 実際は違う。Aさんが荒れ狂って、壁に物を投げたり、怒鳴りあいの喧嘩をしたから、旦那が家にいるのが嫌になってしまったんだ。落ち込むというより、Aさんは暴れていた。旦那は最初別れるつもりはなかったけど、完全に愛がなくなってしまったんだ。


「どうやって知り合ったんだっけ?」

「大学のサークルの先輩と後輩」

「へえ。いいなぁ。そういうの。二人で共有できる思い出があって」

「でも、別れちゃったから。Bさんは彼女は?」

「今回、転勤になったと別れちゃったんだよね」

「え、そうなの?」

 こんな素敵な人をふるなんて。もったいないとAさんは思った。

 でも、その人のおかげでAさんは今、そこにいられる。

「どうして?」

「彼女が田舎は嫌だって。大企業に正社員で勤めてたから、仕事をやめられなくて」

「で、彼女は仕事を取ったんだ」

「うん」

 Bさんは寂しそうに頷いた。

「唯ちゃんは、結婚したら、仕事は続けたいタイプ?」

「そうねぇ・・・子供ができるまでは」

「子供好き?」

「うん」

「何人ほしい?」

 Aさんは笑った。もしかして、自分と結婚を考えてくれているんだろうか・・・。この流れで結婚の話がでるかもしれない。

「2人かな」

 二人は手を取り合って見つめあった。

 お互いの眼差しが優しく溶け合う。


 その時。

 突然だった。


 リ~リリリリ~ン、リ~リリリリ~ン、リ~リリリリ~ン、リ~リリリリ~ン


 いきなり、Aさんの電話が鳴り始めた。

 いいところだったのに、Aさんは苛立った。


「出れば?」

 Bさんは促した。夜遅いし、もしかして、前の旦那じゃないか・・・Bさんは勘繰った。まだ連絡が来ることがあるのかもしれない・・・。


 電話の表示は非通知だった。Aさんは恐々電話に出た。


「はい・・・もしもし」

「ママ~!!ママ~!ママ~!ママ~!」

 子どもが絶叫している。

「ママ、どこ!?

 いつ帰って来るの!?」


 あ、、、、Aさんは愕然とした。

 アサトの声だった。


「誰?」と、Bさん。

「いたずら電話」


 Aさんは電話を切った。

 二人はまた見つめあって、視線を絡ませる。

 指をいやらしくからませながら、もったえぶったようにBさんはAさんに言う。

「君はもう東京には戻らないの?」


 すると、また非通知の電話がかかってきた。

「いたずら電話」

 そう言って、Aさんは取らなかった。

「こわい・・・」


 それから、何度も非通知の電話がかかって来た。

 Aさんはずっと無視していたが、Bさんは気になっていた。


「いたずら電話なら、俺、出るよ」

「ダメ・・・頭のおかしい人だから」

 それからもずっと、非通知の電話がかかって来る。

 1分おきに、ずっと。


 Bさんはすかさず電話を取り上げた。

「待って。ダメ・・・取らないで」

 Bさんは男から電話だと思って、意地でも取ってやろうと思っていた。

 Aさんは、バレてしまうと絶望的になった。

 Bさんは、電話をハンズフリーにして、通話のボタンを押した。

 Aさんは・・・どうしようと凍り付いた。


「はい」と、Bさん。

 ちいさな子供の声がした。

「こんばんは!僕、アサト。ママが僕を殺したの!」

「え?ちがう・・・」Aさんは青ざめた。

「ママは僕を殺したんだよ!」

 Bさんは何も言わなかった。

「何?この電話」

「ママは僕のことが嫌いなの!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る