キョウビ夜道とは危険なものだ

第17話 仲間

 習慣というのは大事だ。毎日やる事でなくてはならないものになり、苦ではなくなる。

 寝た環境が変わろうとも、いつも通りの時間に俺は起きられた。


 のそのそと動き出し、顔を洗う。冷たい水が気分をシャキッとさせてくれる。


「日課はーここでやるのはまぁマズイな」


 いつも1人でやっている訓練を借りているこの場所でやる訳にはいかない。家に帰ってからやるとしよう。


「とりあえずシャワー借りるか」


 昨日は疲れていてそのまま寝てしまった。色々動いたし、汗くらいは流したい。


 俺は風呂場へと行き、シャワーを借りる。

 あー、タオル。拭くのは我慢だな。ちょっと気持ち悪いが仕方ない。服はそのまま来てきたものを着た。


「さて、どうするか」


 いつも通りの時間に起きて、日課も出来ないこの状況。永遠はもう起きているのだろうか?

 とりあえずメッセージは来ていない。一応起きたという報告だけはしておいて、後は部屋の掃除でもしておく。


 昨日はよく見ていなかったが、改めて見るとこの部屋はなかなかに面白い。

 リビングには大きなホワイトボードがあり、どこか会議が出来そうな感じの内装になっている。

 生活用というよりは仕事部屋といった用途だろうか?そんな感じがする。


 簡単な掃除をしていたら永遠からメッセージが届く。「おはようございます。そっち行っても大丈夫ですか?」と来たので、「大丈夫だ」と返しておいた。

 するとすぐさまドアが開き、ラフな格好の永遠が入ってきた。


「おはようございます、紺那くん。ふぁ〜あ、よく眠れましたか?」

「おう、おはよう。ぐっすりだよ。永遠は眠そうだな」

「ふふ、ボクは少し朝が弱いんですよ」


 にこりと彼女が笑い、再び彼女は欠伸をする。

 眠たげな雰囲気がして、普段の凛々しい彼女からはかけ離れていて新鮮だ。


「紺那くん、朝食を一緒にどうですか?」

「お、いいな。どこか行くのか?」

「いえ、ボクの部屋で食べましょう」

「んじゃあお言葉に甘えるわ」


 彼女に付き添い、再び彼女の部屋へと。


「連れてきたー?」

「ええ、彼が紺那くんです」


 ジャージ姿の女の子がいた。

 永遠より背は低く、どこか幼さが残っている感じだ。顔は似ていないが、妹か?

 いや、てか、この雰囲気、空気。彼女もだ。

 まぁいい。永遠の知り合いっぽいし警戒なんて必要ない。


「あー、どうも。結城紺那だ。よろしく」

「どうも。アタシは真嶋空ましまそら。ほら、兄ちゃんも座ってまずはご飯食べるよ」

「お、おう」


 俺は彼女に言われるがままに椅子に座る。机の上には食パンに目玉焼き後はサラダが置いてあった。

 とてもいい香りがして、いっそう腹が減る。


「では、いただきましょう」

「はーい、いただきます」

「いただきます」


 手を合わせ、食事をする。うん、美味しい。

 朝ごはんを友人の家で一緒に取っているとなんだか不思議な気分だ。


「どう?簡単なものしか出せなかったけど」

「美味しい。悪いな、食事出してもらって」


 どうやらこの食事はこの空ちゃんが作ったらしい。俺の分まで作らせたみたいで申し訳ない。


「いいよ、いいよ。てか、永遠ねぇから言われたのがさっきでさ、あんま大したもの用意出来なかったんだよねー。永遠ねぇもっと早く起きなよー」

「善処します」

「前もそう言ったよね」


 苗字から察するに彼女たちは姉妹では無いのだろう。だが、二人の会話を聞いていると姉妹のように微笑ましく思う。


「さて、食事も終えた事です。改めて紹介を。紺那くん、キミも気がついていると思いますが、彼女も《狂人》です」

「まぁ、だろうな。なんの狂気?」

「アタシは《遊ぶ狂気》だよ。兄ちゃんは?」

「俺は《戦う狂気》」

「へー、凄っ。じゃあ強いの?」

「分かんね、でもそこら辺の奴らには負ける気はしないな」


 彼女と色んな会話をしていく。仲良くなったと言っても過言では無いだろう。

 彼女の性格が明るく分かりやすかったからこそ、俺でも仲良くなれたのだ。


 彼女の事について色々知れた。

 年齢は14歳、中学2年生。好きな物はゲーム。彼女がここにいるのは、永遠と一緒にここに住んでいるかららしい。

 親が海外に居て、彼女だけはゲームがしたいという理由で日本に残ったのだと。知り合いのつて?みたいので永遠と一緒に生活をしているとの事。


「ゲームがしたいから」という理由で両親と一緒に生活する事を選択しないというのは何とも狂人らしい。


「兄ちゃんも結構ヤバイ奴なんだね。武器持ってる相手に素手で突っ込むとか、腕切られたのに笑ってるとか」


 昨日俺たちがやっていた事だ。


「楽しかったからしょうがないだろ。ずっと鍛えてきたんだし、実践してみたいだろ?」

「楽しいのがいいのはよく分かる。アタシも楽しいからずっとゲームしてるし」


 にへらと彼女は年相応の笑顔を見せる。

《狂気》を持っているから、異常ではあるのだろう。しかしその顔を見るとその事を忘れてしまいそうになる。


「ふふっ、仲良くなれたようで何よりですね」

「うん、兄ちゃんが変な奴じゃなくて安心したよ」

「そりゃどうも」

「紺那くんを空と先に会わせて正解でしたね。残りの人達はもうすぐ会えますよ」

「そうか、楽しみだな」


 永遠から聞かされていた、《詩人》と戦うための仲間がいる事を。

 彼女がその仲間の1人なのだ。


「改めて、これからよろしく頼むな、空!」

「うん、こちらこそ。足引っ張らないようにね、兄ちゃん」

「はっ!言ってろ」


 俺たちは握手を交わすのだった。

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