第15話 後処理

 戦いを終えたからかどっと疲れが出てくる。傷は無いが、体のだるさはあるみたいだ。

 戦っている最中には全く感じなかった疲れも、終わってしまえば降りかかるというみたいだ。


「ふふ、紺那くんお疲れ様でした」

「おう、疲れた」

「いいものを観させて頂きました。やはり君はボクが見込んだ通りですね」

「そいつは良かった。こっちもぶっ倒れた時に声掛けてくれて助かったよ。アレなきゃ正直ヤバかった」


 永遠の声の力は大きかった。彼女の声が俺の《狂気》を呼び起こしたといってもいいだろう。


「助けになったのなら良かったですよ」


 彼女はニコリと笑う。機嫌が良さそうで何より。


「で、こいつらどうするんだ?放置?」

「いえいえ、ちゃんと処理してきますよ」

「えっ、処理・・・?」


 処理と聞くとなかなかに怖い考えが浮かぶ。一応倒れている人達は全員気絶しているだけで、生きてはいるのだ。

 ていうか殺さないようには気を遣った。殺したら後味悪いし、もう1回戦えないだろ?


「怖いことはしませんよ。お話するだけです」

「はー、なるほど?」


 虎雄の時の光景が思い出される。確か、あの時も『お話』をしていた。

 まぁ、彼女に任せておけば問題無いだろう。俺は少し疲れたし、休んでます!!


 永遠は倒れている舵の顔を両手で持ち、口を開く。


「舵行孝さん、起きてください。お話の時間です」


 彼女がそう言うと彼女の手から黒いモヤが漏れ出る。すると、ビクッと舵の体は少し跳ね、意識を突然取り戻した。


「・・・うっ、うう、うう・・・」


 突然起きたからか、意識がはっきりとしていないようだ。永遠はそんな舵に言葉を続ける。


「さて、舵行孝さん。貴方の『狂気』について教えてください」

「・・・俺は《支配する狂気》を持つ。俺に完全敗北したヤツ、意思の弱いヤツを操れる」


 ぼーとしながらも、舵は話す。

 彼の部下になったが最後、操られ続けるって事か。だからこそ 指示を受けずとも俺たちは囲まれたのだろう。


 しかし、彼の《狂気》、欲は支配する事らしい。戦った感じを考えれば納得ちゃあ納得と言える。


「では、あの甲冑を着た兵隊達はどういう原理なのでしょうか?」

「・・・俺は支配者だ。そして王なんだ。だから私兵がいるだろ?側近だ。俺の狂気に反応して強くなる」

「なるほど、いい力ですね」


 なるほど、よく分からん!永遠は理解したらしいが、俺には彼の理論が伝わらなかった。

 まぁ、結局は人の心の中の事であり変わっている欲望だ。理解なんて出来ると思わない方がいい。舵に俺の生きがいを理解できないように、俺もまた彼の生きてきた道筋を理解できないのだ。


「ではでは、あなたに《狂気》について教えた人物がいますね?それについて教えてください」


 永遠は少し語気を強くして言った。それだけ重要だと言うことだろう。

 俺は静かに様子を見る。


「・・・詩人。詩人と名乗る奴だ。俺が仕事してる時突然現れた」


 ポツポツと舵は語り出した。その詩人と呼ばれる人物について。



 ◇◆◇◆◇◆



 俺は元々底辺の人間だった。

 表の世界なんて歩いた事は無くて、初めからマトモじゃ無かった。他人を騙し、使い、利用して何とか生き残ってきた。

 それで、裏の奴らから目をつけられて、使われるようになった。


 そんな時だよ、奴が来たのは。


 俺はいつものように下っ端として仕事をしていた。

 そいつは突然俺に声をかけてきた。底抜けに明るい声でまくし立てるように喋る。ムカついたのを覚えてる。


 そいつの言葉は何故かよく頭に入った。

 半分くらいはそいつの話で興味なんて無かったし、うざったかったからボコボコにしてやろうと思ったが、俺は足を止めて話を聞いていた。

 その時は聞くべきだと思った。


 そいつの話を聞いているうちにどんどんと心の内側から何かが溢れてきた。俺の根底にあった何かが。

 詩人はその光景を見て楽しそうに笑っていたよ。「これこそが俺の求めるものだ」とか言っていた。


 そこからだよ。そこから俺の言う事に従順になる奴らが増えた。どんな事でも俺の命令なら聞くようになった。同じような下っ端達は俺のものになった。


 最高だったよ。ああ、これこそが、この不思議な力こそが、俺の求めていたものなんだと分かった。

 そこからは楽しかった。成り上がりの始まりだ。


 命令に従順になった奴らを使って1人ずつ上のヤツらを従わせていった。

 数の力ってのは最高だ。あんなに偉そうにしていたヤツらが簡単に地面に這い蹲るのだから。


 俺はあっという間にソイツらの頂点に立った。

 そんな時にまた、詩人は現れた。

 今回もどこから来たのかは分からない。唐突に現れた。だけど、そんな些細な事は気にならなかった。


 詩人は楽しそうに笑いながら話しかけてきた。また、まくし立てるように喋る。

 俺のこの力が何なのかも説明してた。そこで詩人はこの力の名前が《支配する狂気》と言ったんだ。



 ◆◇◆◇◆◇



「・・・それから詩人とは会ってない。ソイツは最後に君の活躍を楽しませてもらうと言ったっきりだ」


 舵の話が終わる。


 詩人という謎の人物についての話だったが《狂気》を知っている事とヤバそうなヤツと言うくらいしか分からなかった。

 あと俺は少しだけ永遠に似ていると思った。《狂気》たる姿をみたいというのが特に。

 何よりも永遠は《狂気》について教えた人物を知りたがっていたので、何か知っているでは?と思う。


 永遠は舵から手を離し、言った。


「ありがとうございました。有益な情報感謝します」


 永遠の手から離れた舵は再び意識を失った。やはり彼女の力で無理やり覚醒させていたのだ。彼女もまた俺と同族。《狂気》を持っている。


「さて、紺那くん。目的は果たしました。帰りましょうか」

「おお、マジ?結局コイツらはそのままでいいのか?」

「いいですよ、そのままで。処理は済ませましたので」


 はー、永遠は多分舵にやった尋問みたいなの以外にも何かをやっていたのだ。全く気が付かなかった。


「・・・ま、それなら帰るか!」

「ええ、帰りましょう」


 少し前までは騒がしかったこの場所に、俺たち2人が歩く靴の音だけが響いている。

 俺たちはこの場所を後にした。

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