第14話 強靭なる肉体
気分は最高、なんだか何でも出来る気がする、なんてね。何でもは言い過ぎだが、頭は冴えており、良く見える。攻撃のキレだっていいんじゃないか?
とにかくいい状態だという事。
何よりも、常に万全で動けるのがとてもいい。血をダラダラと垂らしていた先程と比べても、全くもって違うと言っていい。
10体に増えた兵隊相手に余裕で立ち回れている。兵隊たちは元々そこまで強くは無かった。しかし、ダメージは通りそうにもないから囲まれれば厄介極まりない。
さて、どうしたものか。
とりあえずさっきと同じように頭に攻撃をし、隙を狙ってみる。
「あー、やっぱりだなー」
頭を落とす事には成功した。しかし、10体ともなると隙ができる前に元に戻ってしまう。
やっぱり数というのは厄介だ。
てか、俺は大人数相手しか戦ってないな。まぁ、そんな事はどうでもいい。
この状況を何とかしなければいけない。ああ、楽しいなぁ!!
ガシャガシャと大層な音を立てて動く兵隊たち。その中に笑顔の俺。
刺され、斬られ、叩きつけられる。多彩な攻撃も頑張っても俺には届かない。
日常では絶対に味わう事の出来ないこの状況。現代に甲冑を着た兵隊とか経験しようと思っても出来るものではない。それが10体いて、死なないときてる。
有り得なさすぎて笑えるし、こんな経験を出来ることに感謝しかない。
俺は拳を握る。そして、一撃。
攻撃を受けた甲冑はべこりと凹み、後ろに吹っ飛ぶ。
「なっ!?」
飛ばされた兵隊を見て、舵は驚いた声を出した。それもそうだろう。先程までは「硬ぇ!」とか言っていたのに甲冑を凹ませたのだ。
これが身体能力向上の効果。重い甲冑姿の兵隊もパンチ1発で飛ばせてしまう。
いやー、いいね。素晴らしい!
身体能力が上がっているし、自動回復もついている。《狂気》とはいいものだ。
これがあるなら、どんな相手とだって最高の状態で戦える!!
「フフフッハハハハッ!!」
俺は大きな声を出し、笑う。俺が飛ばした甲冑が起き上がり、凹んだ部分が元へと戻ったのだ。
奴らもまた回復をする。こちらと条件は同じだ。
「ならさぁ!もっとボコボコにしたらどうなるんだろうなぁ?」
相手の攻撃を避けつつも、一体に集中して突きや蹴りを入れていく。ほかの兵隊がそいつを守ろうと動くが、そいつらの頭を掴み1点集中している甲冑に向かって叩きつける。
纏めて叩けるのは気持ちいねぇ!
ベコベコに甲冑が凹んでいく。段々と修復しようと黒いモヤが出ているが、間に合わせないように攻撃の手を緩めない。
掴み、叩きつけ、砕き、剥がす。目的の達成のために血を流しながら攻撃していく。
「ハハッ!やっぱりゴリ押しは最高だな!」
「なっ!俺の兵隊がやられただと!」
頭なんて使う必要は無かったみたいだ。
俺の目の前には、ボロボロになった鎧と頭と思われるものが転がっている。そこからはブスプスと黒いモヤが出ており、治る気配なんて無かった。
倒し方は分かった。なら、残りも同じようにやればいいだけだ。
俺はニヤリと笑う。
長く楽しめる戦いはとてもいい。しかし、戦いには必ず終着点がある。俺はその終着点に辿り着いてこそ、戦いの美しさがあると思うのだ。
勝利を刻んだ時にしか味わえない喜びがある。てか、負けるのは単純に悔しいでしょ?
俺は負けたくないね。負けたくないと思ったから、こうして立って戦ってるわけだし。
次々と兵隊を動かなくしていく。
一体、また一体と倒す事にこちらにかかる負担も減ってくるから、楽になるね。
「ほら、これで最後だ!」
ガシャりと音を立てて、金属の塊が地面へと落ちる。下には10個の塊が落ちており、いずれもプスプスと黒いモヤが出ていた。
復活する気配は無し。動く様子も無し。こいつらは終わったんだ。
「さて、アンタがまだ残ってるな?どうする?まだ出せるなら出した方がいいぜ?」
俺は舵の方を向く。
兵隊がまだ出せるのならば出して欲しい。隠していた力があるのならば発揮して欲しい。やはり相手の全力を楽しみたいだろ?
そのうえで叩き潰したい!!
「・・・な、何なんだよお前は!」
舵が叫ぶ。目は脅え、体は震えている。
その様子からもう終わりだと分かってしまう。
彼と初めて会った時のような気迫や余裕さなんてものはもうない。彼の顔からは笑顔がもうなくなっている。
「何だもう終わりか」
俺はため息を吐く。終着点を目指してはいるが、まぁ終わり際はやはりガッカリしてしまう。
いや、しかし全力を出せたし沢山の敵と戦えた。十分過ぎると言えば十分過ぎる。俺の戦いたいという欲は満たせたので今回は良しとする。
だから彼に感謝をする。
「じゃあまっ、トドメといきますか。舵行孝、お前と出会えた事感謝するぜ。めっちゃいい経験になったよ」
武器を持った彼の部下に襲われた。見えない攻撃を受けた。死なない兵隊と戦った。腕を斬られた。そして、己の『狂気』を知れた。
今日だけで日常では経験できない事を沢山出来た。
それは全て彼のお陰だ。彼が存在してくれたお陰でこの経験が出来た。彼が狂っていたお陰で俺は最高の気分でいられるのだ。
「あ、ああああああ!!ちくしょう!どうして、俺がぁ!こんな目にあわなきゃいけねぇんだよォぉぉお!ふざけんな!俺は支配者だ!支配者だったんだぞ!お前のせいで!お前のせいで!」
「んじゃ、おやすみ」
彼の叫びを聞きながら俺は、全力で拳を振るう。確かな手応えと共に、舵は気絶する。
彼がすぐに起き上がる様子は無い。完全にのびている。
舵行孝との戦いは色々あったが、見事に勝利を収めた。
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