第13話 キョウジンなる精神
舵行孝は戦慄していた。
目の前に居るのは何だと?
奴が俺の出した兵隊と戦う事を楽しんでいるのは分かった。だから俺も付き合ってやったんだ。
こっちにはまだまだ余裕はあるし、兵隊だってまだ出せる。兵隊は俺がいる限り、死なないし、壊れない。
圧倒的に有利だ、圧倒的に有利なのだが、なぜ俺は攻撃を受けた?なぜ俺は尻もちを着いている?
腕は確かに切断した。
血だって流れていたし、自身の見える範囲に落ちている。なのにそんなものはお構い無しに
痛みを感じないのか?いや、それは無い。先程まで銃撃を受けて痛がっていた。
「アハハハハハハッ!!痛えぇ!!腕斬られた!ハハッ!!」
なのに今はどうだ?笑っている。目を見開き、口角を上げ、楽しそうな声を出す。
「アハハッ、倒しきれなかったか。仕方ない、ならもう1発いこう」
ソレは1歩前に出る。ゆっくりとこっちに歩いてくる。
俺は今、恐怖を感じている。
俺は色んなことを経験してきた。殺されかけた事もあるし、人を殺した事もある。
この世を支配する為に、あくどい事を何だってやってきた。
しかし、恐怖なんて感じなかった。支配できる喜びが勝り、何だって出来た。
だが、目の前のは違う。
俺はソレを同族だと感じた。
俺のように特殊な欲求を持ち、それを満たさねば生きていると感じられない生物。
どこからか現れて、俺の欲求について語った詩人の言葉を使うなら『狂気』を持つもの『狂人』だ。
『狂人』ならば互いを同族と本能が認識する。
俺は色んな『狂人』に出会った。それこそ、ソレと同じ戦闘系の欲求を持つものにも何人か出会った。
そいつらは総じて強く、全員死ぬまで戦ういい兵隊だった。戦いさえあればいいと思っており、それさえ与えればどんな危険な仕事でも喜んで受けていた。
それが俺が見てきた『戦闘狂』というやつだ。
戦う事を楽しみ、命の危険で生を感じる。
そんな連中だからこそ、動かしやすく支配がしやすい。
だが、目の前のソレは違うと本能が分かる。『狂人』としての本能がそう伝えてくる。
立ち上がらねばと思うが、恐怖で上手くいかない。
ソレの異常性を理解出来てしまうからこそ、動けない。
「な、なんなんだよ・・・お前はァ!」
ソレは笑顔で答える。
「ハハッ、知らねぇ」
ソレは拳を握り、振り下ろしてくる。俺は思わず身構えた。
だが、しかし俺に攻撃は訪れない。ソレがその場に倒れたから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
意識が深く沈む。
あと一歩のところで、俺は倒れてしまったみたいだ。
圧倒的な血液不足。舵と戦う前に切り傷を負い、舵と戦っている時に狙撃を受け、最後には腕を斬られた。
そりゃあ、血がダラダラと出るものだ。
あー、クソっ、ハハッ体が動かない。
力を入れようとしても全く伝わらずに、微動だにしない。
俺は負けたのだ。というか、死んだのでは?
このままの状態ならば助からないだろう。
ありえない戦いの世界に身を投じてみてこの結果だ。仕方ないと言えば、仕方がない。
永遠には悪いことをしたと思う。
相手は人数がいた。武器を持っていた。変な力を使ってきた。
全く嫌になるじゃないか。
戦いはとても楽しかった。考え、体を動かし、死力を尽くす。最高だった。
しかし、俺の心にはもっとやれるはずだと、もっと楽しめたという反省が残る。
ああ、そうさ、死んだらそこで終わりなのだから。
この状態になってまでも、俺の心は戦いを求めている。
負けてなお、まだ楽しませろと心が叫ぶ。
俺はまだ
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死んでやるものか。体を動かせ。まだやれる。
深い意識の中で、どす黒い何かが這い上がってくる。いや、何かではないこれは俺の欲望だ。
ずっと心の奥にあったものが溢れ、暴れている。
動けよ、からだァ!
意志の力だけで体を動かそうとする。しかし、それでは届かない。
この欲望をどうにかしなければいけない気がする。
『紺那くん、聞こえますか?』
唐突に永遠の声が響く。彼女が動かない俺に話しかけているようだ。
『紺那くん。君はまだ終わっていないでしょう?』
ああ、当たり前だ。まだ戦いたい。
『こんな所で寝てていいのですか?』
いいわけあるかよ。起きなきゃならねぇ。
『大丈夫です。君ならやれます』
彼女の声は、俺の心によく響く。彼女がやれると言ったのだ。だから、大丈夫。
「さぁボクに《戦う狂気》を見せてください」
意識が覚醒する。目が開き、体に力が戻る。
「クソが!そのままくたばっとけよ!だけどお前はもう満身創痍だろ?あーあーあー、ここで殺してやるよ!!」
舵が吠える。なんだか随分とビビっている様子だ。余裕はどうしたのかね?
舵は兵隊を三体呼び出し、そのままこちらに攻撃を仕掛けてくる。何もさせずに仕留めたいらしい。
俺はゆっくりと立ち上がる。
ああ、よく見えるし、体の調子がすこぶるいい。ま、腕は無いまま何だけどね。
ゆらりと攻撃を避け、そのまま落ちている腕の方へと向かう。
「は?何をしてる!」
俺は狼狽えている舵を横目に見ながら、そのまま腕を拾い上げ傷口に近づける。
すると、黒い何かが伸び斬られた腕と傷口を繋いだ。
少しの間待っていると腕の感覚が戻ってきて、動かせるようになった。
「んー、よし、問題無い」
斬られた腕はすっかりと元通り。何も問題なく機能している。
「ふふっ、なるほど。それが君の《狂気》ですね」
「ああ、そうだよ。だってこの程度で終わったらもったいないじゃん?」
「いいですね、最高です」
「だろ?」
これが俺の心の奥底にあった欲望、《狂気》の力だ。舵が自在に兵隊を出せるように、俺もまたありえない力を持ったのだ。
戦いの楽しさをの体験と、死の淵の体験が俺の『戦いたい』という欲と合わさり、戦いの持続化を作り出した。
能力は『回復』に『身体能力の向上』もついてくる。
俺の体についた傷は全て回復し、元気になったという訳だ。
「は、はははははっ!なるほどな。お前も《狂気》が使えるようになったという事か!」
「まぁ、そうだな。ほら、続きやろうぜ。まだまだ兵隊は出せるんだろ?」
「ハッ!お望み通りにしてやるよ!ほら、これが俺の全力だよ!」
舵の周りに現れた兵隊は10体。いいね、さっきのが全部じゃなかった。
俺は楽しくて笑みをこぼす。
そして第2ラウンドが始まった。
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