第12話 狂気たる

 蹴り飛ばされたが、すぐに顔を上げる。するとそこにはありえないものがいた・・


「何だよ、そいつら」


 そこには赤黒い甲冑を着た騎士のようなやつが剣を持ち、舵を守るようにたっていた。先程まで居なかったのに確かにそこにいるのだ。

 俺の攻撃が止められたのも、蹴られたのも奴らの仕業だろう。


「どう?俺の兵隊。カッコイイだろ?俺に従順でなんでも聞いてくれるし、何でも出来るんだぜ?」


 ニヤニヤと笑いながら自慢をしてくる舵。

 これが彼女の言っていた想像していない力と言うやつだ。というか、分かるかこんなの。

 だが、防御の種は分かった。アイツらをどうにかするか、無視して舵を攻撃出来れば勝ちがある。

 だけど、見えない銃弾みたいなのはまだ分かっていない。気合いで避けるという選択肢しかないのだが、まぁ何とかするしかない。


 舵は余裕を見せて攻撃をしてこなかったので、呼吸を整える暇があった。

 そして床を蹴り、奴の死角まで走る。死角から拳を突き出す。

 だが、突如として現れた騎士に受けられ、返しの剣を振るわれる。


「くっそ、硬ぇ!」


 受けた攻撃は浅いが、受け続ければこちらの負けになるだろう。


 俺は三体になった騎士の攻撃を避けながら考える。


 こちらの攻撃は届かなかった。速さで攻め、防御をかいくぐろうとしたが無駄だった。突然騎士が現れる為、倒さねば舵には攻撃は通らない。


 しかし、どう攻撃したものか。

 甲冑というものをはじめて殴ったが、流石に硬い。何度も殴れば通りそうなものだが、こちらの拳が壊れるのが先だろう。


 さらに相手は攻撃が通ったところで倒せるものなのか?

 甲冑だけのモンスターみたいな可能性だって十分にあるし、糸に操られていて中身が全くないパターンだってある。

 倒し方が舵を倒す事だったら、結構苦労するだろう。


 まぁ、いいか。グダグダ考えないで、やれる事をやってみよう。こんなに面白い相手なんだ、色々やらなきゃ損だ!


 俺は笑いながら騎士と対面する。ガシャガシャと音を立てて、攻撃してくる騎士に対し俺は、試していく。

 まず関節を狙う。剣を持っている腕の関節目掛け一撃を叩き込んだ。騎士は剣を落とし、ダランと腕を力なく下ろす。

 効果ありだと思ったが、次の瞬間に信じられない事が起こる。


「ははっ、マジかよ」


 赤黒いモヤが発現し、離れた剣と腕を覆った。剣は引き寄せられるように騎士の手に戻り、腕は何事も無かったかのように元の状態に戻った。

 騎士はすぐさま攻撃をしてくる。攻撃のスピードも落ちておらず、腕も豪快に振っている。これは、一切のダメージも入ってないとみていい。


 なら次、首を狙ってみる。頭を揺らしてみれば効果はあるかもしれない。

 すぐさま狙いを首にして、攻撃にて衝撃を与える。ガシャンと大きな音はするのだが、ダメージは通ってないだろう。


 三体の騎士相手に色々試していると、再び肩に鋭い痛みがくる。あの見えない攻撃だ。

 騎士相手に苦労しているのに、狙撃が厄介極まりない。避けようにも分からないのが実にいやらしい。

 ドクドクと血が流れ、時間が俺をどんどんと不利に運んでいく。


「ほらほらー、早くどうにかしないと死んじゃうよー?」


 舵はニヤニヤとこちらを煽る。

 早く何とかしなければいけない、どうにかしなければ負けだという気持ちがよぎり---口角が上がる・・・


 今が楽しくて仕方がない。突破方法の分からない騎士が三体いて、見えない狙撃があり、余裕綽々の敵がいる。オマケに俺は倒れそうときたもんだ!!

 武器持ちの大人数を相手にした時にも楽しかったのに、今はそれを優に超えている。

 理不尽な強敵とか最高以外の言葉がない。ありえない事象とか、そんなものは楽しければどうでもいいのだ。


 心の奥底で炎が燃え上がる。


 まだ倒れてくれるなよと、己の体に言う。まだ楽しめるよなと、己の心に問う。


 ああ、この時間が永遠に続けばいいのに。


「ーーーーー!!」


 突然ゾクリと右側から殺気を感じる。俺はすぐさま右を向き、その場に立ち止まる。

 すると赤黒い玉が肩に突き刺さった。


「あ、見えた」


 右側遠くには、隠れるように銃を持った甲冑がいた。なるほど、アイツが撃ってたのか。

 なぜ突然撃ってくるのが分かったのかは、全然分からないが、カラクリが分かったなら避けられる。


 もう1度玉が飛んできたが、余裕で避ける。


「ハハッ、凄いね。本物の銃弾と変わらないんだけどなぁー。まぁ、でも避けれたところで君に勝ち目なんてないんだけどねー」


 舵は余裕は崩さずヘラヘラと笑う。

 それもそうだろう。こちらの攻撃が一切通らない為、現状勝ちは無い。

 相手の攻撃を避けながら、騎士に攻撃はしているものの、やはり効いている様子は無い。


 ならばどうすればいいのか?舵を狙うしかない。

 はじめは厳しいと思ったが、勝ち筋がそれならば辿るしかないのだ。


「ふっ!」


 俺は騎士の足の関節を蹴った。一体目の騎士が膝を折り、立てなくなる。だが、すぐさまモヤが出現し騎士を治そうと動く。

 この間に、少しの時間が出来る。治すのに数秒だが、この数秒は全然隙だ。

 だから、次の騎士も思いっきりに膝を折る。そして、もう一体も同じように。


 最初の一体が復活してくるが、立った瞬間により強く折る。

 そうする事であら不思議、立っている騎士が一瞬居なくなる。すぐさま復活しようとしてくるが、人間への攻撃など1度で十分。


「凄いな、君は」


 流石の舵も驚いた表情になり、動揺している。

 拳を握り、舵へと振るう。狙撃されるが、この程度ならば問題なく振り抜ける。


 しかし、それでも拳は彼には届かなかった。

 俺と舵の間を何かが舞う。それはよく見覚えのある物だった。


「ハハハハハ、ざーんねーん!!ほら、言ったじゃん君の攻撃じゃ届かないってさ!無くしちゃったねー」


 舞ったのは俺の右腕だった。肩から血が吹きで、下に血溜まりを作る。

 俺の腕は、舵が出現させたもう一体の騎士によって斬られたのだ。


 彼が騎士を出現させられるのを、今の数が限界だと思い込み、初めて崩した舵の余裕の表情に騙された。その結果が腕の損失だ。


 ああ、でも、その程度じゃあ俺は止まらないよ?


「・・・・・・は?」


 舵は俺の左手によって殴り飛ばされた。

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