第11話 想像外

 俺の拳が相手の鳩尾に刺さり、最後の一人が地に倒れる。これでこの場に立っているのは、俺一人となったわけだ。


 勝利を嬉しく思うのと同時に、戦いが終わってしまった寂しさを少し感じる。

 血湧き肉躍る戦いが終わったのだと思うと忘れていた疲れと、感じてなかった斬られた痛みが遅れてやってくる。

 動き続けたせいかかなり血が出ているようだ。服もボロボロで捨てなければいけない。


「お疲れ様です。大変素晴らしかったですよ」


 服の事を考えていると、後ろから声をかけられる。そういえば彼女がいた。

 いやー、さっきまで全くといっていいほどに忘れていた。

 彼女の姿は無事そのもの。攻撃を受けた跡も疲れた様子もまるでない。

 ・・・まぁ、彼女の事だ。どうやったかは分からないが、どうにかしたのだろう。


「あ、ああ、すげー楽しかった」

「ふふ、それは良かったです」

「・・・あとはどうすればいいんだ?舵をぶっ飛ばす?」


 ここにいる人間は舵以外、全員倒れている。危険は脱した、ならば次は舵をどうにかするだけとなる。


「ええ、そうです。しかし・・・」


 彼女がそう言いかけた時、パチパチと拍手の音がこのフロアに響く。

 音がする方を見るとそこにはニヤニヤと笑っている舵の姿が。


「素晴らしいね。あの人数相手に余裕の勝利とか、漫画の主人公かなんかかと思っちゃったよ。やっぱ、君たちの相手は雑兵じゃどうにもならなかったねー」


 ニヤニヤと笑いと余裕を崩さない舵。俺たちを褒め称える姿に気味の悪さを感じてしまう。

 彼の仲間は全員倒した。なのに彼が余裕でいられる理由はなんだ?

 口ぶりからして、俺たちの戦いを見ていたのは確か。もしかしたら、追加の人間を既に手配しているとか?

 ハハッ、それならいいな、燃える。


「一応さ、最後に聞いておくんだけど。それだけの力があるならうちで重宝するし、好きなように暴れさせてあげるよ?だから、俺の下につかない?」


 彼は再び俺らを誘ってきた。しかし、その答えは決まっている。


「はっ、お断りだ」

「お断りします」


 当然ノー。下になどつくわけが無い。


「はぁ〜、残念だよ。なら、無理やりにでも支配するしかないよね」


 彼はそう言いながら、髪の毛をかきあげた。ギラりと目が光り、雰囲気が明らかに変わる。

 俺はそれを見て思わず身構えた。

 先程まで戦っていた武器待ちの男達よりも、決死の覚悟で戦ってきた彼らよりも、俺はの前の丸腰の相手に警戒をしていた。

 ヤバいと心が言っていると同時に、これは何だ?と疑問を抱く。


「フフフフフッ、いいですね。素晴らしい」


 しかし、彼女はそれを見ても笑っていた。いや、より一層の楽しそうに、これが見たかったのだと言わんばかりの今日一の笑顔をしていた。

 そして、こちらの肩を叩き言った。


「紺那くん、1つ伝えておきましょう。彼は本気です。そして、多分君が想像していない力を使う」

「・・・想像してない力?」

「ええ、だから存分に楽しんでください」

「・・・ハハッ」


 俺は彼女の言葉に、一瞬面を食らってしまう。

「想像しない力を使うから楽しめ」と彼女は言ったのだ。「警戒しろ」ではなく「楽しめ」だ。そんなの笑うしかない。

 彼女は俺の事を理解しているのだろう。だから、いい言葉をくれるんだ。


 1つ大きな深呼吸をする。身体の中にある空気が全部抜け、新しい空気が体内を巡る。簡単な行為だが、馬鹿にできないほどに気合いが入る。


「ああ、楽しむよ」

「ええ、そうしてください。ボクも楽しみますので」


 身体にはいくつかの傷があるし、疲れもある。だが、再び戦えるのだと思うとなんだって出来る気がする。

 そして、相手は未知ときた。何をやってくるのか分からないし、勝てるのかも分からない。

 全くワクワクが止まらないじゃないか。


「いいね、この状況でその笑顔。支配しがいがあるじゃないか。真っ向から潰してあげよう」

「はっ、やれるものならやってみろ」

「威勢も最高。流石は戦闘系・・・だ。そっちの君は戦いには参加しない?」

「ええ、彼に任せますよ。ボクの運命は彼に託しているので」

「へー、いいね。じゃあ彼をどうにかすればいいんだねー」

「ええ、そうです。ああそう、口を出すことは許してくれます?ボクはあなたの言うところの戦闘系・・・では無いので」

「いいよ。俺はね、心は広いんだ。それくらい全然許してあげる」

「ありがとうございます。ですので、紺那くんよろしくお願いします」


 いつの間にか俺の負けが、彼女の負けと繋がっていた。だが、俺がやる事は全くもって変わらない。今まで積んできた力を使うだけ。シンプルで分かりやすいだろ?


「さぁ、覚悟はいいかな?じゃあ、やろうか」

「ああ・・・・・・ぐっ」


 俺が頷いた瞬間に、肩に鋭い痛みが走る。


 ・・・・・・何が起こった?俺は油断なんてしていなかった。それに奴は動いていない。今も尚、余裕な様子で立っている。

 俺は素早く動き、彼に向かった。


「ぐっ、マジか!」


 しかし、再び痛みが襲う。

 目に見えない銃弾を撃ち込まれた感覚。何をしているのか全く分からない。

 なるほど、これが想像していない力。ハハッ、理不尽だ。


 痛みを我慢しながら、彼に突っ込む。


 力の原理は分からないが、痛みはそれほど大きくないから全然耐えられる。今、負けは無いが、攻撃しなければこちらの勝ちはない。


 奴に近づき、拳を振る。

 奴は未だに突っ立ているだけだ。しかし、俺の拳は何かに止められる。


「何だよ、これ」

「残念だねー、君の攻撃じゃ届かない」


 舵は手を広げ、余裕を示す。そして俺は、目の前の奴ではない何かに蹴り飛ばされた。




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