第10話 今、生きている
目の前には武器を持った人間が多数。ナイフに銃に、刀ときたもんだ。
ああ、全く最高だよ。
俺は拳を握り、敵へと突っ込む。
相手は武器を持っていて、こっちは丸腰。いきなり敵の中に突っ込むのは危ないと思うだろ?しかし、この状況なら突っ込むのが一番楽しいのだ。
顔のニヤニヤが止まらない。
攻撃してくる相手に対して、それを避けながら人体の急所を狙い攻撃していく。
甘い攻撃をした瞬間に俺はやられる。だからこそ、確実に倒さねばならない。そう、1人ずつ確実に。
目、顔面、顎、鳩尾、金的、膝、脛、など、人体には急所と呼ばれる場所がいくつか存在している。そこは体格差があろうと、1発の攻撃だろうと、大きなダメージとなる。まぁ、他の場所でも強打されれば痛いのだが。
一人、また一人と人数が減ってきた。だが、それでもまだまだ相手は多い。人数差というのはやはり厄介だ。四方八方と警戒をしなければならない。
ほら、今も後ろから斬りかかられた。
一瞬の油断も出来ないこの状況。いやー、マジで最高。
このピリピリした感じ、殺気というのだろう。肌がそれを感じとり、こちらの動きをいつもよりも良くしている。
ああ、この場所こそ俺の居場所なのだ。
普段何事もないように過ごしてきたあの日常は狭く、苦しく、何と味気ない事か。息を吸い、吐いているだけでは生きているとは言えないと、教えてくれる。
「ハハッ、最高だァ!!」
俺はただの大学生、そこら辺にいるような人間だ。順当に高校を卒業し、何となくで自分に合っていると思った大学に入った。
普通に授業を受け、バイトをして、趣味に時間を少々費やす。ただそれだけだった。
だが、今の今までどうやら俺は生きてはいなかったらしい。
全身に血が巡る感じ、息がしやすいこの空気、身体が力に溢れ、頭が冴えるんだ。
今、この瞬間にこそ自身の生命を感じ取れている。
「クソがァ!この男を仕留めろ!アイツはヤベェ!」
「おい、刺し違えてもいい!殺れ!」
斬りかかられ、ナイフを投げられ、銃を撃たれる。
決死の覚悟というやつだろう。血を吐こうが、倒れかけだろうが、味方もろともだろうが、こちらを討ち取りに来た。
そんな攻撃を俺は、流石に全部完璧には避けらせず、脇腹を少し斬られる。
「くくっ、ハハハハハッ」
俺は斬られたにもかかわらず、大きな声で笑う。
服は破れ、肉に一筋の傷ができ、そこから血が滲む。しかし、痛みなんて感じない。アドレナリンが出ているからだろうか?
まぁ、そんな事はどうでもいい。1番重要なのは攻撃を当てられた事だ。
敵は苦痛を我慢しながら、刺そうとしてきた。その気概が嬉しくて堪らない。
俺を強敵だと認めているのだろう。そこまでしなければ越えられないと思ったのだろう。
全体の意識が変わり、“本気”ではなく“死ぬ気”でこちらに向かって来るのだ。
全く、最高で堪らない。
俺は本当にいい選択をしたと思う。永遠に着いてきて、舵の誘いを断って、それが全てこの状況を作り出したと考えると、過去の自分を褒めたい。
敵の攻撃は先程よりも鋭く、先程よりも倒れなくなっている。銃弾は飛び交い、剣筋は宙を舞う。血は流れ、人は倒れていく。
人数は段々と減っていくが、相手の気迫は増していく。なんなら、倒れたヤツらまでが起き上がって向かってきてくれる。
量というのは素晴らしい。こっちに息をつく暇なんて与えてくれない。油断なんてしなくとも、思いがけない一手で状況は覆される。
ほら、今だって。俺は両足を掴まれた。だけど、その程度じゃ俺は止められない。
身体全体を回転させ、拘束から逃れ足を掴んだやつの顔を蹴る。
しかしその間に、背中を少し斬られ血が飛び出でる。
「うっ、ぐっ、ふっ、ハハッ」
痛みがあるが、楽しくなってくる。
敵の人数はあと少し。あと少しで戦いは終わってしまう。だからこそ、最後の最後まで楽しむのだ。
痛みなんかでひよっていたら勿体ない。俺は拳を握り、振るうんだ。
楽しく、楽しみ、身体は踊る。息は切れず、攻撃は途切れず、声は笑う。
「さぁ、楽しもうぜぇ!!」
俺の心は沈んでいく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふふっ、やっぱり紺那くんは最高ですね」
脇腹に血を滲ませながらも、大きな笑い声をあげ暴れている紺那の姿を楽しそうに見ている1人の女性。
そう、夜桜永遠だ。
彼女は1人優雅に椅子に座りながら、彼の活躍を見ている。
彼女の周りには人は誰もおらず、不思議な事に誰も彼女の事を気にしていないのだ。
「いいですね、いいですね、あぁ、本当に彼に出会えて良かった」
彼女は彼を見て、一層笑みを深める。彼女もまた、戦っている彼と同じようにこの状況を楽しんでいる。
「ボクはこれが見たかった。さて、この戦いも、もうすぐ終わりですね」
敵は片手で数える程しかいなくなっており、彼はまだ笑いながら戦っている。彼は傷をいくつか負ってはいるが、明らかに元気だ。
この戦いの終わりはすぐそこまで迫ってきている。
彼女は椅子から腰を上げ、彼の元に向かう。それと同時に、敵の最後の一人がその場に倒れ伏した。
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