第8話 とにかく乗っていく

 俺たちは食事を終え、大学の外へと出た。

 監視している彼らに接触はせずに、そのままつけさせるらしい。

 永遠は「車で連れていかれるのでしょう」と言っていて、目が輝いているように思える。


 ゆっくりと歩き、人気ひとけのない横道へと入る。すると、後ろから声をかけられる。


「ねぇ、君たちちょっといいかなー?」


 3人組のうちのポニーテールの女性と白い帽子の男がそこにはいた。サングラスのやつの姿は見当たらない。


「おや、なんでしょうか?」

「いやいや、大した事じゃないんだけどさ、俺たち少しだけ困っててさー、力を貸してくれないかなーって思って声をかけたんだよね」


 にっこりと人の良さそうな笑顔を浮かべ、男は話しかけてくる。

 しかし男には怪しさしかない。つけられているという話を聞かずとも、話を聞くべきではないと思ってしまう。


「なんと、それは。ボク達で良ければ力になりますが?」


 永遠は疑いもせずに話に乗る。

 まぁ、それもそうだろう。彼らの良いように事を運ぶのが彼女の目的なのだから。

 俺は余計な事を言わないように、黙って見てる事にする。


「ほんと、助かるわ!あの、ここじゃ何だからファミレスにでも移動しない?私たちが奢るから」

「おお、いいのですか?それは楽しみですね。移動はどのように?」

「ああ、そこに友達の車があるからそれで行こっか」


 彼らの表情は思った以上に事が上手く運び、ニヤニヤしてきた。

 ここまでチョロいと気も緩んでくるだろう。逆に不安にならないもんかね?

 そんな事を考えながら、彼らについて行く。

 すると、近くの路上に黒い大きい車が停めてあり、そこに案内された。


「よし、これに乗ってくれるかな?」


 男がそう言い、車のドアを開ける。中は広く大人数が乗れるようになっており、後ろの席に彼らの仲間と思われる男が2人居た。


「はい、分かりました。紺那くん、先お願いしても?」

「あいよ」


 永遠に言われ、俺が先に車に乗る。彼女がわざわざ指定をしてきたという事は何かあるのだろう。その何かの時は、きっと彼女が指示出してくれる。

 なので俺は、疑わずに従うのだ。


 チラッと運転席を見ると、そこにはサングラスの男の姿があった。

 あんたそこに居たのか。

 俺が座ると隣に永遠、その隣にポニーテールの女性が座った。助手席には白い帽子の男が、乗り込む。


「んじゃー出発しよっか」


 白い帽子の男の合図に従い、車が動き出す。緩やかに動き出し、そのまま道を走っていく。


 ファミレスで話をするというていだったが、その走行ルートは明らかにファミレスを目指してはいなかった。大学から少し行った場所にファミレスはあるのだが、そことは逆方向に進んでいる。

 道が分からない訳では無いだろう。この車にはカーナビが着いているし、迷いなく車は進んでいる。

 彼らは俺たちを別の場所へと連れていくつもりだ。


 まぁ、分かっていたところで指摘なんて永遠も俺もするつもりは無かった。彼らに任せ、そのまま進んでいく。


 移動中は適当な話をして時間を潰した。彼らからの提案で、自己紹介でもしようということになりやった。

 白い帽子の男が佐藤、サングラスが森、ポニーテールが飯塚、後ろに座っている男たちが白井に友田。この名前が本名かは知らない。偽名なのかもしれないから、頑張って覚える気はあんまり無かった。


 そこからしばらくして、車が止まる。場所はどこかの駐車場だ。


「よし、着いたよ。降りよっか」


 そう言って、佐藤が車から降りる。それに続き、飯塚がドアを開けてから永遠を見て言った。


「ほら、私に着いてきて」


 彼女は永遠の手を取り、そのまま誘導する。一見優しそうに見えるが、ここに来て逃げられないようにしているのだろう。

 俺も降りようとすると近くのドアが開く。森がそこには立っていて、ドアを開けてくれたらしい。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 俺はお礼を言い、そのまま車から降りる。そしてその後に後ろに座っていた男2人が左右のドアからそれぞれ降りた。


 これで俺たちは前と後ろを塞がれた訳だ。

 俺の前には森、永遠の前には飯塚。後ろにはそれぞれ白井と友田がいる。万が一にも逃がさないようにとしているのだろう。


「よし、じゃあ行こうか」


 あくまで自然に、彼らと俺たちは明らかにファミレスでは無い場所を進む。

 駐車場から階段で下り、扉を開け中に入る。黒を基調とした少し薄暗い空間が中には広がっており、少し不気味な雰囲気が漂う。

 中を少し歩くと、2人のスーツを着た大柄な男が、扉の前に立っていた。

 明らかにヤバそうな場所に来ている事に何だか笑いそうになってしまうが、我慢する。あくまでアホの振りをして、何も考えず彼らについて行く。


「よ、お疲れさん。通してくれ」


 大柄の男達は無言で頷き、ドアを開ける。

 中は高級そうなソファが置いてあり、多くの男女がお酒のようなものを飲みながら騒いでいた。

 そこにいる人間は総じて派手であり、この空間に健全な雰囲気は漂っていない。


 俺たちはそのまま佐藤に続き、その中を歩いて行く。行き着いた先には玉座のような物があり、1人の男が座っていた。


 その男は短い金髪に、耳にはピアス、赤い上着を着ていた。どこにでもいるような感じの装いだが、俺はその男に意識を持ってかれる。

 ドクンと心臓がはね、身体の奥底から何かが這い上がる感覚におちいる。

 何処か既視感のあるこの感覚に、俺は心を乱した。


 そんな俺には気が付かずか、佐藤が跪き、王に謁見するかのように頭を下げた。そして、それに続くように車に乗っていたメンバーは彼と同じような行動をとる。


「ボス、結城紺那と夜桜永遠を連れてきました」

「おおー、よくやったね。後でご褒美あげるよ。んー、しかし、これはこれは・・・ははっ、なるほどねー」


 彼はニヤニヤと俺と永遠を見て笑う。そして椅子から立ち上がり、俺たちの前へと歩いてきた。


「やぁ、ようこそ、俺の国へ。はじめまして、俺は舵行孝かじゆきたか。ここの王をしている」


 彼の自己紹介に対して、永遠が対応をする。


「はじめまして、舵行孝さん。ボクの名前は夜桜永遠。こっちは結城紺那くん。ふふっ、会えてとても嬉しいですね」

「ああ、俺もだよ。まさか、報復しなきゃいけない相手が同族たち・・・・だったなんてね」


 俺はその言葉に反応してしまう。彼は同族と言った。


 同族とは、一族や種族が一緒という意味を持つ言葉だ。ならば、人間だったらそれに当てはまるという事だろうか?

 いや、わざわざこのタイミングで言う言葉では無い。ならば彼はどのような意味で言ったのだろうか?


 俺はその答えが本能で分かってしまう。


「・・・ああ、そうか、お前も俺と同じなのか」


 俺はぼそりと呟いた。

 そして気がつけば口角が上がっていた。





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