第7話 進展

 ジャラジャラと鎖の音が響く。

 ここは普段使われないどこかの倉庫。この場所に人が数人集まっていた。


「やぁやぁ、虎雄ちゃん。気分はどうだい?」


 その中の一人、髪は金色で右耳にはピアス、赤い上着を羽織っている男が、鎖に繋がれている人物へと声をかけた。


「・・・うぐっ・・・はぁ、はぁ、すみませんでし・・た」

「うんうん、謝るのはいい事だ。でもさ、俺は気分はどうだって聞いたの。質問に応えろよ!なぁ!」


 赤い上着の男は虎雄に向け、蹴りを放つ。

 虎雄は痛みに悶え、呻き声をあげる。


「はぁ、まぁいいや。これ以上痛めつけても面白くないし。虎雄ちゃんは正義感が強い勘違いおバカさんに、ボコボコにされちゃっただけだから」



 赤い上着の男は近くにいた男に首で指示を出し、鎖を外すように命令する。


「俺がさ、1番ムカついてんのはそのおバカさん達なんだよね。俺に無断で手を出すとかさ、常識知らずにも程があるよねー。虎雄ちゃんの大学の夜桜永遠よざくらとわ結城紺那ゆうきかんなだっけー?新入生の分際でさ、あームカつく」


 彼は虎雄の前まで歩き、再び蹴りを入れる。

 虎雄の呻き声と、蹴られた鈍い音が倉庫に響く。


「おい、ちょっと大学行って2人拉致らちってこい」

「へい、分かりやした」

「さてさて、どんな目にあわせてやろうかなー」


 赤い上着の男はニヤニヤと笑いながら倉庫から出ていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ーーーこうなる。では、今日の講義は終わりだ。出席表を出してから退出するように」


 俺はノートと筆箱をカバンの中にしまい、出席表を提出して教室を出る。

 永遠から「一緒に頑張りましょう」と言われ、1週間たった。


 あれから特に進展は無い。

 彼女からは「しばらく待ちましょう」と言われているし、この一週間彼女と会っていない。

 連絡先は交換して、メッセージアプリを使い連絡は取ってはいるが、日常会話とか他愛もない話ぐらいしかしていない。


 なんかもっとこう、報復って早いイメージだったからすぐ戦えるものだと思っていた。

 相手側からの接触っぽいものなんて来てないし、なんなら俺は人と特に関わっていない。話しをしたのは、教授ぐらいだ。


「どーしたもんかね」


 俺は近くにあった椅子に座り、携帯を開く。何か連絡が来ているのでは、と期待をしたが特に通知は無く、少し落ち込んでしまう。


「うーし、帰るか」


 携帯の電源を切り、ポケットにしまう。カバンを持ち、その場を後にしようとしたその時、ポケットが震える。

 俺は急いで携帯を取り出し、画面を見る。するとそこには『夜桜永遠』の名前が映し出されていた。

 彼女から電話が来たのだ。


「もしもし?」

『ボクです。元気ですか?』

「ああ、元気だよ。んで、どうして電話?」

『例の件が進展しそうなので連絡をと思いまして』

「おお、遂にか!」

『はい、遂にです。今、大学にいますか?』

「いるよ、本館3階にいる」

『授業をサボってないようで安心しました。では、学食でも食べながら話しましょう』

「あいよ、今から向かう」

『では』


 俺は携帯をポケットにしまい、今度こそこの場所を後にした。

 階段をおり、学食へと向かう。

 すると、入口付近に目立つ女性が立っているのを発見した。


「よう、待たせたか?」

「おはようございます、紺那くん。随分と嬉しそうですね」

「そりゃあ、待ってたからな」

「ふふ、随分と心待ちにしていたようで。とりあえず、入りましょうか。ボクはお腹がすきました」

「おう」


 中に入り、定食を買って席に座る。

 昼の時間帯という事もあって結構賑わっているようだ。

 俺の正面には永遠が座り、机にカレーが、置かれている。


「さて、早速進展についてなのですが、相手側から接触がありました」

「まじ?どうやって?」

「ボクたち今監視されてます」

「えっ!ほんとに?」


 俺は思わず周りを見渡す。多くの学生がガヤガヤと話したり、食事をとったりしている様子が目に映る。

 しかし、監視されているかは分からなかった。


「白い帽子を被ってて白いシャツの男性と、茶髪のパーマがかかっててサングラスをかけた男性、それと黒髪にポニーテールで茶色の上着を来た女性、この3人組ですね。ボクをつけているようです」


 彼女の言う通りの3人組を探してみると、いた。少し遠目の席で食事は取らず、話しているだけのようだった。


「つけられているってよく分かったな」

「いつもの講義に知らない人がいたので嫌でも気が付きますね」


 俺はへーと感心するが、よくよく考えてみれば彼女は、講義を受けている人を全員覚えているという事だ。

 俺だったら絶対に分からなない。というか、今自分が受けている講義を何人が受講しているのかなんて知らない。


「・・・まぁいいや。で、どうするつもりなんだ?」

「このまま様子を見ます。おそらくですが、彼らはボクらが学校を出たら接触してきますよ。上の指示で連れて来いとでも頼まれているのでしょう」

「接触してきたところをボコすってことか」

「違いますよ」

「え?」


 俺はてっきり返り討ちにし、そのまま情報を引き出してからアジトやボスの所へと乗り込むもんだと思ってた。だが、彼女には違う考えがあるようだ。


「このまま連れてかれましょう。そっちの方が楽ですよ」

「それって大丈夫なのか?」


 彼女は簡単に言うが、拉致を受け入れるという事だ。道中で酷い目にあったり、連れてかれた先でボコボコにされる可能性は高い。

 確かに彼女の言う通り楽かもしれないが、リスクの方が十分にあると思う。


「ええ、大丈夫ですよ。ボクを信じてください」


 永遠はニコリと不敵な笑みを浮かべる。ゾクリとするその笑顔に、どうしようもなく心がザワついている。

 彼女を信じれば大丈夫だと、彼女に従えば俺は楽しめると、そう言われている気がするのだ。


「ハハハッ、いいね、信じるぜ」

「ふふっ、いい顔ですね」


 俺たちは互いに笑顔を浮かべている。しかし、それはとてもゆがんで見える。

 他の人からは分からないが、俺たちならば感じ取れてしまう。

 純粋なものでは無いだろう。どこかいびつなのだろう。

 もうすぐで欲が満たされる、そう思うと顔がほころんでくる。


 ああ、全く、楽しみだ。

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