第6話 目的と頼まれ事

 昼時を過ぎたが、パラパラと人はいる。机があり、椅子があり、飲み物や食べ物が売っているここは休憩するにはいい場所だ。

 俺は買ってきたコーヒーを1口のみ、正面に座る人物に声をかける。


「で、色々教えてくれるんだろ?」

「ええ」


 永遠はニコリと笑う。

 彼女の微笑みには多くの意味があると思ってしまう。だからこそ、少し身構える。


「まず、ボク達が戦った彼らのサークルについてご存知ですか?」

「いや、全く」

「彼らはフットサルサークル。この大学内で黒い噂がたえない問題のあるサークルですね」

「へー」


 全く知らなかった。

 何をやっているのかも、大学内の噂も、興味がなかったからなのか全然耳に入っていない。

 俺がこの大学内において友人と呼べる人間がいないのも事実。悲しいものだぜ。


「黒い噂って事実?」

「ええ、キミも見たでしょう?ピンチになったら集団でボコボコにしようとする感じ。不良のたまり場になっていると言っても過言ではありませんね」


 そういえばそうだった。躊躇なくバットを振り回してきたし、集団で襲ってきたし、そういえば手馴れていな感はある。そんなに強くなかったけど。


永遠とわの目的ってその黒い黒いサークルを潰す事なん?」

「いえ、潰すことではなく、彼らが負けたという事実を作る事です」

「負けた事実?」

「簡単に言えば面子メンツを潰す事です」


 だからこそ彼女は動画を撮影していた。それを使い彼らを脅し、サークルを解散へと導いた・・・あれ?


「なぁ、じゃあなんで動画を拡散をせずにサークルの解散にしたんだ?」


 ここで疑問が生まれる。

 前者にすれば彼女の言う通り面子は潰れるだろう。ボコボコにされたという事実があり、証拠を大学中の生徒が見ることになる。

 しかし、後者であればそれは、ただのサークルの解散と映る。何かあったのかと勘ぐる人は出てくるかもしれないが、なぜ解散したのか分からないならば面子メンツは保たれるのではないだろうか?


「どちらにせよ彼らの面子メンツは潰れるからです」


 俺は彼女の言葉に首を傾げる。


「ここでボクの最終目的から話しましょう。ボクは彼らでは無く彼らの組織を潰すために動いています」

「・・・組織?」


 彼女の言葉にさらに疑問符が浮かんでくる。


「あのフットサルサークルのバックには犯罪組織がついているんですよ。大学生を食い物にするわるーい奴らです」

「マジ?」

「マジです」


 なんか急に話が大きくなってきた。

 犯罪組織と言われてもピンとこない。彼女はそれを潰そうとしている?

 ハハッ、笑いが出てしまう。


「ちなみに、あの時ボクはわざと彼らの誘いを受け、キミを巻き込みました」

「偶然じゃなくて?」

「ええ、あの場所にキミは来て、キミなら話に乗ってくれると分かって・・・・いましたから」


 彼女はまた、ぞくりとする笑顔を見せる。

 なんでも見透かすような彼女の綺麗な瞳。

『ボク未来が見えているんです』と言われても驚かない程の理解力。

 全く、笑えてくる。


「話を戻します。組織を潰すために大学のフットサルサークルにダメージを与える必要があったわけです」

「ああ、だからこそ面子メンツか」

「はい、組織の下部といえども貴重な商品の生産場ですから。そこを1つ潰されれば怒ります。向こうからこちらに接触してくれるかもしれませんね。ふふっ、可哀想ですが虎雄さんには生贄になってもらいましょう」

「悪いヤツだな」

「ふふっ、彼らの因果応報というやつです」


 ああ、怖い怖い。

 ここまでの構想を描き、見事に全員を手のひらの上で踊らせた。

 彼らは彼女をナンパした時点で負けだったのだ。


「で、永遠はわざわざ危険を犯して犯罪組織を潰しにいくのはなんでだ?」


 彼女にとってのメリット、これが1番重要になる。

 ただの正義感で潰しに行くとしたら、危険が多すぎると思う。

 相手は犯罪組織。現存するという事は、警察に捕まっていないのだ。頭が良く、武力もあると見ていいだろう。


 ・・・・・・やべ、テンション上がってきた。

 まぁ、えっと、命を賭けるに見合っているのかどうかだ。


「ふふっ、キミが戦いを想像し気持ちを昂らせたように、ボクもまた命を賭けてまでも見たいものがある」

「なるほど。それは犯罪組織を潰す事で見られるのか?」

「いえ、組織のボスに接触すれば見れるでしょうね。潰すのはついでです」

「はっ、いいね。ついでで潰される犯罪組織とかいいじゃねぇかよ」


 彼女はどこか頭のネジが外れているのだろう。自身の欲に忠実で、平気で人を巻き込み自身の命をも賭ける。

 彼女のヤバさがどんどんと浮き彫りになっていく。


「一応聞きますが、ついてきますよね?」

「当たり前だ。そんな楽しそうな場所普通に生きてりゃ巡り合わないからな」

「それは良かったです。キミをこの大学で見つけて良かったです」


 しかし俺もまた、その頭のネジが外れた存在らしい。


 今まで、普通に生きてきた。自身の心を封じ込め、ひたすらに体を動かす日々。現代じゃ俺の望みはただの危険人物だ。

 だけどそれは今日、確実に変わった。彼女に、無理やり変えられた。こっちの方が生きやすいと戦場へと引っ張られたんだ。


 俺も心底、彼女に出会えて良かったと思う。


 人生なんて唐突に変わる。自身の才能を見つけ出した時や大怪我をした時、働き始めた時など多くある。

 しかし、何よりも人と出会った時こそ人生とは大きく変わりやすいものだ。

 人と出会い、影響され、人生を成していく。段々と道が見え、自分に合った道を歩む。

 俺はそれが今日であり、永遠だった。


「さぁ、一緒にやってやりましょう」

「ああ!」


 俺はこの運命に感謝をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る