第5話 美しく怖い
「いやー、素晴らしいですね。紺那くん」
その顔は、笑顔。とてもいいものを見たといった表情。
どうやらとても満足したようだ。こちらも満足をしたのだ、きっちりと返せてよかった。
俺は
「で、この後どうすんの?帰る?」
「やる事があります。もう少しだけお手伝いください」
「OK、全然手伝う」
「ふふ、良かったです」
彼女はそのままボスである大男の元へ。
そのまま彼に話しかける。
「さて、
どうやらあの大男は虎雄というらしい。まぁ、そこまで興味はないので、ぼーと会話を聞く。
「・・・ぐぅ・・・う、うるせぇ、テメェら許さねぇからなぁ・・・・・・!!」
「おやおや、威勢がいいようで。しかしそうやって蹲っていると、何か出来るとは思いませんねぇ」
「クソがァ・・・・・・!」
おお、
今にも襲い掛かりそうだよ?でも、強めに打ったから動けなさそうだけど。
だから俺は黙って見守る。
「負け犬さんにお願いがあるので聞いて貰えませんか?」
「てめぇ!!」
「はーい、当たりませんねぇ」
虎雄は大ぶりで拳を何とか振るうが、永遠は軽く避ける。
そしてニヤニヤとしながら虎雄を煽った。
「お願いというのはですね、サークル解体していただけないかなと思いまして」
「・・・はぁ?ハッ、するわけねぇだろうがよォ!」
「紺那くん1人にボコボコにされたのに?」
「関係ないね。テメェら覚悟しとけよ!絶対
フーフー吐息を荒らげながら、虎雄は叫ぶ。
もう、めちゃくちゃ怒っている。
さて、ここから永遠はどうするのか。
「ふむ。では、こちらをご覧下さい」
永遠は白衣から携帯を取りだし、何やら動画を再生した。
『グワッ・・・』
『うううぅ・・・』
『ガッ・・・ハッ・・・アアア・・・』
そこには、先程の映像が。次々と呻き声を上げて倒れていく彼らの映像だ。
「ここに随分と情けないあなたたちの映像があります。1人の男性に為す術なく倒されていく複数の男たち。あ、ほら、この人。武器を使っているのに何にも出来ていないですね」
彼女は映像までも使い、彼らを追加で煽る。お前らは『ダサい』と。シンプルかつ男にはよく効く罵倒だ。
「この映像、大学中にばら撒きます。そうするとどうでしょう?今まで大きな顔をしてきたあなた達のサークルは、男性1人倒せない激弱 集団になりますねー?」
相手が強かったから仕方ないと言い訳は出来るが、そんなのは直接見ていない人には関係がないし、強さなんてものはよく分からないだろう。
しかし、本当にそんな事でこのサークルは解散するのだろうか?
「さて、解散してくれるのであればこの動画は拡散しないであげましょう。名誉なんてどうでもいいと思うのならば、そのまま続ければいい。ボクは次の手を打つだけです」
彼女は美しく微笑む。
その顔は見惚れてしまうほどに綺麗で、恐ろしいくらいの圧がある。
今ここで頷く選択肢を取ろうが、拒否をしようが、彼女には彼らを解散に導くための手立てはあるのだ。
『今ここで解散をした方が楽だぞ』と言っているようにしか聞こえない。
そんな彼女の顔を見た虎雄の顔は少し恐怖に染まった。
彼は、仲間が倒された時でも、自身がパンチををくらい倒れた時でも恐怖なんて少しも見せなかった。
なのに、彼女の顔を見た瞬間に恐怖したのだ。
彼の目にはそれだけ、永遠が恐ろしい存在と映ったのだ。
そして、彼は少し考え口を開いた。
「・・・わ、わかった。こ、このサークルは解散する」
先程まで強気に出て、発言していた男とは思えないほどの震えた小さな声。
「はい、言質取りました。では、今すぐに解散手続きに行ってください。あ、約束破ったらどうなるか分かりますよね?」
「あ、ああ、分かってる。だから動画の拡散はやめてくれ・・・」
「その様子なら問題なさそうですね。ええ、拡散はしませんとも」
彼はそのままこの場所から出て行った。そのまま解散の手続きを行うのだろう。
正直、俺にはよく分からなかった。
彼があっさりと解散を決めた事もそうだが、1番はここまで意気消沈している事。元気なんて一切なく、怯えている感じ。
負けた動画1本でここまで怯えている理由が分からない。
彼女の笑顔にやられた?いや、それだけではないはずだ。
心の奥に何かこう、モヤモヤしたものがある。
「ここでの目的も果たしましたし、紺那くん帰りましょうか」
「ああ、分かった」
俺は素直に彼女について行く。
・・・・・・・・・彼女は、永遠は何かを知っている。
『目的』を果たしたと言った。それはサークルの解散の事だろうか?
『目的』が何にせよ、多分勧誘されていた事は偶然じゃない。
もしかしたら、俺が近くにいたことだって偶然じゃないのかもしれない。
こんなありえないような考えが浮かんでくる。
「紺那くん」
彼女に続き歩いていると、突然彼女から声をかけられた。
俺は思わず立ち止まる。
「ふふ、色々と説明をしてあげますよ。そう悩まないでください」
「なっ!」
心を見透かされているようだった。
思えばこの戦いに参加する時も、彼女は俺の『欲』を見抜いていた。
ああ、やはり彼女には何かあるのだろう。そう思えて仕方がない。
美しく笑った時、いずれも歪さがあった。
あの時、学食で見た顔を思い出す。俺の笑顔に反応し、彼女も笑ったその顔を。
「とりあえず学食にでも向かいましょうか。椅子に座りながら、話しましょう」
「・・・分かった」
俺は彼女に言われるままに学食へとついて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます