第三話 和泉一文字(下)

 寮に帰り、お風呂に入り寝る前に考える。自分はどうしたいのかを改めて考える、退学。学校を辞めたいのは嘘偽りの無い本心だ、だけれどこの学園生活を捨て去りたいと願うかと言われれば、答えはノーになる、せっかくミーシャと仲良くなれた、人生で初めて心の底から本心を言い合える友を得た、もう手の届かない存在になってしまったが…、全力で戦っても勝てない好敵手を得た、それを失うのは嫌だ。けれどもこれ以上自分を偽り続けて剣舞ソードダンスを続けられる精神でもない、ならばどうするべきか…、剣舞を続けなくても鍛冶師になればこの学園に居続ける事は可能だろうが、そんな技術も無い。ここは日本屈指の名門校、そんな甘い覚悟で鍛冶師になれる訳がない、それは和泉さんの手のひらを見ればわかる事だ、女性の柔らかさも残しながら、何度も何度も刀を叩きあげて硬くなった手のひら、あれを見ればそんな簡単な物では無いと分かっている筈だ。

 ならば自分は、東雲武蔵しののめむさしは、何ができるのであろうか?剣舞の剣士を惰性で2年間続ける?それはできない。

 鍛冶師になりミーシャを支える一因になる?それは魅力的な話だが、そんな技術も覚悟もない。

 ならば納得いくまで研鑽けんさんを積み、剣聖祭優勝を目指す?それ程のモチベーションは、もう自分には残っていない。

 ではこれならどうだろうか?和泉うちはという自分にとって大切な人が打った一本の刀が折れるまで、全力で研鑽を積み剣聖祭の優勝を目指すのは…、どうだろうか?

 どうなんだ?東雲武蔵。


「ハッ……ハァ…ハァ…」

 余りに根を詰め過ぎていたらしく、夢にまで見ていたらしい。服が汗でびっしょりだった。

「いい加減、服も半袖にするかなぁ」

 言っている事とは関係なく、携帯の通信機能を使いまだ朝早いが、和泉さんを始業前に学園で会えるかを確認するメールを送る。

 すると数秒もしない内に返事が来る。

「大丈夫です……か…」

 まるで愛の告白をするかのような呼び出しだが、実際はもっと悲しいお願いをするだけだ、彼女が自分にどうあってほしいと思っているのかは、わかっているだけれど、自分の意志は変えられない。けれども和泉さんの支援無しでは剣聖祭予選すら勝てるか怪しくなる。

 だからこそ、彼女に一つだけ一生に一度のお願いを…。


 ―学園内

「ごめん、食堂が混んでて少し遅くなった」

「大丈夫ですよ…それで、話とは何でしょう?」

「それは……」

 酷く緊張する、愛の告白という訳ではないが、みっともない告白をするのは間違いない、そしてこれを断られたら、自分は進むすべを失ってしまう。だから少し彼女に告白をするのが怖い、怖くて怖くて仕方がないが、それでも前に進む為に意を決して告白する。

「笑わないで聞いてね?」

「笑いませんよ」

「この刀一本で剣聖祭優勝を目指す為に、そしてそれを最後に学園長に退学を申請するつもりだ。……その手伝いをして欲しい」

 だから俺の鍛冶師にもう一度だけなってくれないか?そう伝えると彼女は…。

「嫌です」

 想像以上に悩まず簡単に答えを言われる、少し心に来るが自分がもう要らないからと言って契約を解除したのに、もう一度契約してくれなんて、虫の良い話が過ぎる。だから彼女の意見を尊重して俺は一人で…、一人でどうやって刀を修繕していくのだろうか?学園に任せるのだろうか?

「武蔵君、これを見てください」

「えっ?」

 そうして彼女は一枚の書類を見せてくる。そこには…、本日東雲武蔵より、鍛冶師解任の手続きがあった為、それを容認するか拒否するかと、書かれている書類を見せつけてくる。

「えっと、どゆこと?」

「私、まだ武蔵君の鍛冶師を辞めていないんです。なのに、この書類が来た意味……、分・か・っ・て・い・ま・す・ね?」

 目を逸らす、そういえば和泉さんは鍛冶師を辞めるという報告をしに来た時に、自分の書類は持ってきていなかった、つまりはこちらが一方的に契約を解除した事になるのだ。

「分かっていますか?武蔵君?」

 トーンがどんどん低くなる、本当に怖いし、一昨日銃の前に立った時よりも恐怖を感じる、剣も持っていないのに殺されるという恐怖感がある。

「ワカッテイマス」

 ここで自分の取れる行動は一つだけだ、大人しく自分の非を認めて、彼女が持つもう一枚の鍛冶師への申請書類にサインをする事だけ。

 そうしてここに新たに、元剣聖兼、現在はほぼ無能な剣士、東雲武蔵と、そんな剣士には不釣り合いな凄い鍛冶師、和泉うちはとの契約が完了した。


 ―ある日の放課後

「ミーシャ準備はいい?」

「ええ、いつでもいいわ!」

我流東雲がりゅうしののめ居合いあい

 必殺の構えを前に緊張が走り、汗が一滴落ちた時その攻撃は放たれる。

疾風はやて!」

 ―キィィィン―

 疾風の如く急接近で相手の胸元を斬り付け、その勢いをそのままに反転し相手の背中をも取ると言う技だったのだが…。

「十分速いけれど、速いだけね」

 余裕綽々よゆうしゃくしゃくな態度で、フフンと自慢気にミーシャの愛剣クラウ・ソラスによって意図も容易く防がれる。踏み込みが甘かった訳ではない、単純に速さも威力も足りないのであろう、だからこそ真正面から受けた彼女に止められるのだ。

「上手くいかなーい」

 刀を納刀し、地面に寝転がりながら、文句を垂れる自分。情けない姿だがこういう挫折は初めてで正直な所むず痒い想いをしている。それを見たミーシャは呆れたと言わんばかりに、こちら歩き詰め寄る。

「だから言ったじゃない、そんな一、二の三で出来るような物じゃないって」

「だからと言ってもここまで難しいとは思ってもいなかったー」

「文句を言わないでください、武蔵君。精進あるのみですよ!」

 休憩がてらか水分補給と、糖分補給の和菓子を持ってきてくれる。

「美味しいわね」

「あぁー甘味最高―」

「ふふ、お粗末様です」

 そんな感じでだらけていると、和泉さんからミーシャへの率直な疑問という物が、出てくる。

「ミーシャさん、なんで武蔵君の流派は上手くいかないんでしょうか?」

「和泉さんよく聞いて、上手くいってない訳じゃないのよ、上手くいっているけど求めている物が高すぎて、上手くいくものもいかないのよ」

「だそうですよ?武蔵君」

 そうは、言われても目標が剣聖祭優勝をしてこの学園を辞める事なのだ、だったら現状最も強いミーシャに一泡吹かせられるような技で無くてはならない。

「妥協してさえ、すれば少なくてもここ5年で出来たような流派には負けないレベルの物を作り上げてきてるけれど、武蔵が求めているのは、私達が70年かけて作ったものと同等、できる、できないじゃなくて、無理だと思うわよ、正直に言わせてもらうと」

「それは、わかっている、でも妥協はしたくない」

「そうですね、武蔵君は昔から妥協を知りませんからね」

 クスクスと笑う和泉さんに対して、なにか感に触ったのか突っかかるミーシャ。

「うちはと武蔵ってどういう関係なのかしら?」

「私と武蔵君ですか?そうですね、最近だと将来を誓い合った仲でしょうか?」

 ちょっと待て。和泉さん、それは大分語弊を招く発言だと思うが、ミーシャにはその意味が?

「しょ、しょしょ、将来を誓い合ったぁぁぁあああ?」

 その言葉の衝撃に負けたのか、その場で力なく倒れこむミーシャを後目に相変わらず、クスクスと笑う和泉さん、やっぱり和泉さんは怖いな、ちょっとなんてものでは無く本当に敵に回すと破滅しそうだ。

「和泉さん」

「わかっていますよ、後で誤解は解いておきます」

 よかった、本当によかった、そのまま勢いに乗ってミーシャが言いふらそうものなら、和泉さんを含め大変な事になってしまう、具体的に言うと彼女を好いている男子からの視線が大変な物となるだろう。彼女はその献身的優しさとその巨峰とも言える胸を持っているため、かなりの男子人気が高いのである。

「それじゃあ、この場所の、使用終了の手続きしてくるね」

「私がやりますよ?」

「和泉さんは、真っ先にミーシャの誤解を解いて」

 彼女は渋々わかりましたと納得し、自分はその場を後にする。


 ―廊下

「失礼しました」

 そう告げ廊下へと出る、後は自分の荷物を持って帰ればいいだけなのだが、その時というか、ずっと前から会わないようにしていた人に偶然見つかってしまう。

「久しぶりね、東雲武蔵」

「そうですね、お久しぶりです。剣ヶ丘先輩」

「貴方ブレインが大幅な弱体化を受けたのに、余裕そうじゃない?」

「そんな事ないですよ、ブレインがほぼ使い物にならなくなった今、我流剣術を作っている位ですから…」

 それじゃあと告げ、その場を去ろうとするがそれを許しくれる相手でもない事は、わかっている。

 剣ヶ丘つるぎがおか芽生めばえ先輩、この剣ヶ丘学園の学園長剣ヶ丘開花かいかの実の妹であり、剣聖祭で1年次でベスト4、2年次でベスト8に残った学園きっての剣士の一人である。

 色々訳あってだが実はこの人に自分は、特別敵対視をされていたので、前回の剣聖祭以降なんとか今日まで会わずにやってこられたのだが、それももう今日で終わりらしい。

「それじゃあ」

「待ちなさい」

「はい」

 そりゃあ逃がしてはくれないか、そして恐らくこの後に来る言葉は。

「私と戦いなさい!」

 やっぱりこれだ、あの時自分は手など一切抜いていなかったが、彼女、剣ヶ丘先輩からみれば自分が手を抜き、そして手を抜いた相手に負けたなどという、屈辱をこの半年の間、背負い続けている。

「はい、わかりましたとは言えないですね、もう使用時間一杯まで使っちゃっていますし」

「それなら問題ない、私が使用許可を願えば解決だろう?」

 確かにそれならば、なんの問題もないでしょうけれども、単純に彼女と戦いたくないと言うのが本音である。剣ヶ丘先輩は恐らく現在はミーシャに次ぐ強さであろう彼女と今の自分が戦っても勝負にならないなんて事は目に見えている。

「本当に戦わないといけないんですか?」

 余りにも戦いたくないという感情が高すぎて、どうにか逃げようとする自分が居る。

「逃げるつもり?」

「はい、できれば。逃げたいですね」

「それは勝ち逃げしたいの?それとも負けるのが怖いの?」

 そのどちらでも、無いのだがこれはどう伝えるのが正しいのだろうか?いや本当の事を言おう、言うべきだ。それが彼女に対する誠意だろう。

「流石にブレイン無しじゃ、勝負にもならないと思うんですよ…だから…」

「っ、それならあの剣聖祭の時も、私が勝てていた筈でしょ?」

 それを言われたら何も言い返す事が出来ないが…、でも今だからわかるのは、あの時自分は確かに《全てを習得する瞳オールラーニング》は使っていなかったが、《習得し尽くした瞳ラーンド・アイ》は使っていたのだろうと言う事が分かる。

「それなんですけど、俺多分あの時ブレインを無意識下で使っていたと思うんです」

「なに、慰めているつもり?」

 話し合いが一向に進展しない、剣ヶ丘先輩相手では、自分は本当に相手にはならないと本気で思っているのだが、前回の9月にあった剣聖祭で、自分は不調になった彼女を気遣うという同情にも取れる行為をしてギリギリの所で勝った、彼女にはそれが手を抜かれたと感じて許せないのだろう。

 だが手を抜いた訳ではない。本気で戦ったのだ、死力を尽くし本気を出しながら戦えた。自分の中では、ミーシャ以外であの感情になったものは居なかった。楽しい、嫌いな筈の剣舞を楽しいと思わせてくれた数少ない一人だから。


「武蔵ー?まだ帰らないの?」

 その時だった、ミーシャがここに現れたのは…。

「武蔵?どうしたの?そんな所で」

 ミーシャには、なんと説明するべきだろうか?同情をして実質手を抜いて戦った相手で、その事を原因に今戦いを挑まれているなんて、馬鹿正直に言える話でもない。

「ミーシャ・アーサー、話には聞いている、東雲武蔵から剣聖の称号を奪ったらしいな」

「?そうらしいわね、ところで貴方の名前はなんて言うのかしら?」

「私か?私は剣ヶ丘芽生、3年だ」

「あら3年だったの、それで武蔵とは何を?」

 スルスルと会話が続いている、ならばこの瞬間を使って逃げれば…、事無きを得られる筈だと思ったのだが…。

「ダメですよ?逃げちゃ」

「ヒェ」

 その浅はかな考えは、和泉さんによって止められたのだった。そして和泉さんにずっと見つめられ彼女らの会話がどこに終着するのかを、自分は見る事しかできないのだった。


「なるほどそういう事ね、武蔵」

「はい……」

「後で少し話をしましょうか?」

「はぃ……」

 それしか答える事を、今の俺には許されないから、望まれた通りのイエスマンになっている。そしてこの後起こる事を想像しながら、思わず身震いを隠せない。怖いなぁ、話したくないなぁ、そんな事しか頭には無かった。

「武蔵、芽生と戦いなさい」

「はい……、えっ?嫌だよ」

 なぜ戦いたくもない、蹂躙されるだけとわかっている、剣ヶ丘先輩と戦わなくてはいけないのか。

「いい?これはチャンスよ?私より、弱い人で我流を試してみなさい!」

「私より、弱いぃ?」

 こっわ、表情が凡そ女性がしてはいけない表情で、ミーシャの事を剣ヶ丘先輩が睨んでいるが、ミーシャはそれを意にも介さず、話を続ける。

「貴方の我流の動きは、私を想定して動きすぎている。私と戦闘スタイルが全然違う相手でも通じるか確かめて見なさい」

 確かにミーシャの言っている事も一理ある、ミーシャを想定し、自分の我流剣術は、ミーシャを掻い潜る為だけの動きを優先している節がある。それを他の人の動きに合わせて使えるかそれを試せとミーシャは言うのだ。でもそれを剣ヶ丘先輩で?

「武蔵、返事は?」

「えっ?」

「返事は?」

「は、はい……」

 何だろうこの感覚は、男としての尊厳を破壊されている様なそんな悲しい物を感じる。


―模擬戦場―

「アーサーには感謝しないとね、これでようやくあの時の続きをできる」

「俺はあの時の続きは、やりたくないですけどね」

 自分の意志は関係ないと言わんばかりにswordを抜く剣ヶ丘先輩。

芽吹めぶき

 そう太刀の銘を告げると、それに反応するように、剣ヶ丘先輩の太刀は光輝き、今すぐにでも臨戦態勢と言わんばかりにその綺麗な刀身を露わにする。

「そちらも早く刀を抜きなさい」

 そう言われもう、この場からは逃げられないと言う事を理解し刀を抜刀する。

「和泉一文字」

 こちらも銘を告げると、和泉一文字は光を発しそのどこまでも、精巧な刀身を露わにした。

「良い刀ね」

「そりゃどうも、俺には到底不釣り合いな、物好きな鍛冶師が俺の為に打ってくれた一品なのでね、そう言ってくれるとありがたいです」

「そう、それじゃあ仕合しあいましょうか?」

 その言葉と同時にカウントダウンが開始される。


 ―3

 これからする事は、ただの実験だ。

 ―2

 負ける事は、確定しているが、精々足掻いて見せよう。

 ―1

 刀を納刀し居合の態勢に入る。

 ―0

 始まった瞬間から決める!

「我流東雲、居合!」

 最速で刀を抜刀し、自分の間合いに入り、一歩踏み込み相手を切り裂く!

 ―キィィイイン

 やっぱりダメか。刀と太刀が交差し完全に防がれているのが見て取れる。

「舐めているのか?その程度の速さで私を斬ろうなんて」

「舐めてはいないよ!」

 急ぎ弾いて、間合いを離すが、剣ヶ丘先輩にとってどの間合いでも関係はない。自分から離れていれば、もうそこは彼女の間合いなのだ。

「《斬撃支配スラッシュショット》」

 来る!剣ヶ丘先輩の、太刀で斬った全ての残影ざんえいがまるで、そのまま飛んでくるような一撃。

 その場で、空を斬っただけの一撃が何度も波の様に押し寄せてくる。

 ―キィン―ガキィン―

 その抜かりの無い防御と攻撃をあわせ持った、連続攻撃はただただ俺の特殊な繊維ヘファイストスを削っていくには十分な攻撃であった。

「どうした!あの時の東雲武蔵には遠く及ばないぞ!」

 そりゃあその筈だ、間違いなくあの時の自分よりは、弱くなっている自信が俺にはある。だからといってこのまま負けるつもりもない!

「クッソ、こうなった…っら!」

 和泉一文字に火を纏わせ、その飛んでくる斬撃に対するカウンターとして撃つしかない。

「《習得し尽くした瞳》疑似・プロミネンスプロミネンス

 本家の前で劣化した技術を見せることは、大変恐縮だが今は、今すぐやられない為にも、苦し紛れでもいいから撃つしかない。

「《斬撃支配・水》!」

 こちらのコピー攻撃には全て対策を考えていると言わんばかりに、完全に相殺されるが、その相殺の時に起こった水蒸気を隠れみのにもう一度斬りこむ!

「我流東雲、居合!疾風」

 高速の二連撃。この視界不良の中では、流石に防ぐ事はできまいと踏んで相手の居た場所に踏み込む。

「甘い!」

 しかしこちらの意図は完全に読まれていたのか、見えていない筈の一撃を完全に防ぎ、カウンターの《斬撃支配》をもろにくらってしまう。

「東雲武蔵、私は心底ガッカリしているよ。弱体化したとは言え私を倒したお前がここまでのザマでは」

「だから言ったでしょ、あの時俺は手を抜かずに死力を尽くしてあの結果なんだって」

「言い残す事はそれでいいか?」

「ああ、それでいい」

「じゃあ、私の前から消えろ!」

 凄まじい量の斬撃が、自分に向かって飛んでくるこれでは、全てを防ぐ事は無理だ。ならば何時か銃に撃たれた時同様、自分に当たる物だけを、墜とす!

 ―ガガガガガ―

 鈍い鉄と鉄が、何度も当たる音が響く、流石の実力だ。剣ヶ丘先輩と《全てを習得する瞳》の相性はすこぶる悪い、何故ならばあのブレインは技術をコピーするものであって、ブレインはコピー出来ないのだ、彼女が万全であってもなくてもどの道、《全てを習得する瞳》は、使っていなかったであろう事がこの勝負からわかる。

 一撃、また一撃と防げない攻撃が増えてくる。

「ガッ、グッァ」

 痛い、苦しい、意識が遠のきそうだ。でもこのまま防ぎ続けても和泉さんが打った刀が削れるだけだ、だからもう諦めて全てを受けよう。

「これで終わりだ!」

 剣撃の雨が降り止み、最後に剣ヶ丘先輩自らの一撃を受けようとしたその時だった、体が無性に熱い、脳が焼けるようだ。だけれど彼女の攻撃がとても、ゆっくりに見えたのだ。だから俺は…。

 ―キィィィイイイン―

「なっ」

 彼女の攻撃を容易く受け止める。なんだろうか?この感覚は…、昔にも陥った事がある気がする。それが何時だかは思い出せないが、確かこの名前は……。

「受け止めたから…なんだと言うんだ!」

 そうこの名前は…。

「《斬撃支………えっ?」

 相手のブレインも属性も全てを打ち消すこの名前は…。

「我流東雲…居合……疾風!」

 一度彼女の胴を高速の居合が斬り裂き、その瞬間元居た位置へと、彼女の背中を斬りこみながら戻る。この状態ならば自分の求めていた物を達成できるのか。

無神むしん》そうそれこそが、このブレインの正体…。


第三話 完

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