第三話 和泉一文字(上)

 ―パァンパァンー

 何かが破裂したような音が聞こえ、この店に居た人間全てがその音が何なのか探るようにそちらの方向を見る。

特殊な金属プロメテウスをだせぇ!」

 こんな古風な強盗が現代にも、居るのかと驚きつつもミーシャと和泉さんを連れて、物陰ものかげに隠れる。

「ちょっと何なの?」

「ミーシャさん静かに…」

「強盗で、いいのかな?」

 強盗にバレないように小声で話す自分達。しかしその努力もむなしく、4人の強盗達に客は人質として一か所にまとまるよう指示を出されるが、ここで一つ賭けをした。

「和泉さんは、隠れて何とか助けを呼んできて」

「私がですか?」

 彼女にこんな危険な事をさせるのは正直、好ましくはないが。そもそも彼女自身が何故か、プロメテウスの刀を持っているためそれを奪われるよりはマシだろう。もしバレそうになればこちらにも援護する手立ては無くもない。

「ミーシャには悪いけど、俺と一緒に捕まってもらっていい?」

「まぁ、しょうがないわね」

 渋々と言った表情で彼女は納得してくれるが、本心ではこんな奴らswordがあればすぐにでも叩き潰せるのにと思っているであろう、その事を考えると彼女はとても理性的な回答をしてくれる。

「おい!お前達そこで何をしている!」

「和泉さん」

 小声で彼女が物陰に隠れるように催促さいそくし、自分達は和泉さんが相手の目の前に入らないように、手を上げながら自ら強盗の方へと向かう。

「早くそこに跪け!」

 sword販売店はその防犯性能から、店主が危険を感じたら入口の鍵をロックできる筈なのだが、奥に居る強盗の一人が、外へ出て店を臨時休業に変えている姿を見るに、恐らくそれすらも、理解して襲撃が行われている犯行なのだろう。さて、どうしたものか。


 ―数十分後

「いいから早く、プロメテウスの原石を出せってんだよ!」

「今日ある分は全て使ってしまいました…、のでプロメテウスの原石はございません」

 お望みの物が中々見つからない事に怒りを覚え、店主を恫喝どうかつする強盗と、それでも望みのものは、本当に無いと言う事を伝える店主。

 そんな風な口を聞いて大丈夫なのだろうか?と疑問に思っているとやはり大丈夫では、なかったらしく、今一度天井に向かって3発の弾丸が発射される。

―パァンパァンパァン

 聞きなれない音と同時に、あれを自分達の頭に目掛け撃たれると、死ぬと言う恐怖感からか、目を瞑り、下を見て自分達に矛先が向かわない事を祈る事しかできない人々。

 仕方の無い話だ、誰だって死ぬのは怖い筈だ、しかもこの馬鹿平和な国、日本でこのような事が起きている。恐らくここに捕まっている人達の内心は「なんで自分が偶々いる時に限って…」、こんな感じの事を思っているに違いない。しかしそう思っていない人間がここに二人だけ存在した。

「ミーシャは、怖くないの?」

「怖いに決まっているわ、でも命に係わる殺し合いは何度もやっているもの」

 その発言に、自分は驚く。彼女は自分と同じく剣舞ソードダンスが人と人との殺し合いと認識したうえで、愛していると言っているのと同義だ。彼女は剣舞の事になると盲目的になるとばかり思っていた、剣舞の良い所だけを見て、悪い所、忌むべき所を見ようとしない。そんな風に思っていたが、彼女はこの剣舞というスポーツの、酷く醜い発祥すらも理解した上で、ミーシャは剣舞というスポーツを愛しているのだ。

 だから少し未来が見てみたくなった、だからこそ、その為には彼女を失う訳にはいかないと思うのだ。彼女が一番になった後の剣舞がどうなるのか、いやどうしていくのかを見たいと言うのが本音だが。だからこそ考える。

 どうすれば彼女を傷つけず、この窮地きゅうちを脱することができるかを考える。


 しかしそんな彼女でも許せない事の一つや二つはあったらしい、恐らくそれは許せないではなく、失いたくないと言う気持ちから出た行動だろうが。

「おい、持ち物をだせ!」

「金目の物なんて持ってません!」

「あるじゃねーか、財布がよぉ」

 目当てのモノが見つからなかったからか、乱雑に自分達から集めたバッグを漁る強盗達。これでは本当にコソ泥だ…。

 しかし下々の民の私物が荒らされる姿を見て、ミーシャは許せなかったのか、或いは、自分の荷物を触れられるのがそれ程嫌だったのかは、わからない。しかし彼女は無謀にも銃を持つ強盗に果敢に挑む。

「勝手に、人の荷物を…触るな!」

 強盗の一人を思い切り蹴とばす彼女、しかしプロメテウスで強化されていない彼女の蹴りでは然程の威力が出ていなかったのか、すぐに強盗は起き上がり彼女の首を掴む。

「何しやがる小娘!」

 その言葉と同時に荷物の方へと投げられ。

 ―パリン―

という音が木霊こだました瞬間彼女の顔は青ざめる。急いで自分が飛ばされた所から退き、荷物を確認する、俺が上げた袋の中身を確認すると同時に彼女は涙を流す。

「なんで、この女泣いているんだ?」

「知らねーよ、痛かったんじゃねーか?」

「でもまぁ、俺達の方がもっと痛かったんだ、これでも食らいやがれ!」

 ミーシャの横腹に蹴りが入り、力なくミーシャは飛んでいく、それでも彼女は袋の中身を集める様に抱きかかえる。

「何してるんだよ?お前?」

 ギャハハハと笑いながら、泣いている彼女のこめかみに銃を突きつけられる瞬間だった。

「武蔵君!」

 自分の名前が呼ばれるのと同時に刀が目の前から降ってくる。

「銘は和泉一文字いずみいちもんじです!」

 その銘を聞いた瞬間に全てを察する、和泉さんが持っていた刀だ。恐らく彼女が俺の為に打ってくれた刀だ。ミーシャの涙を、危機を見てもなお動けずにいた、自分の背中を押すように、和泉さんが自らの危険をかえりみずにこちらへ戻ってきてくれた、助けは呼び終えたのだろうか?それとも危険を察知して戻ってきたのだろうか?答えはわからないが、ならば自分のやるべき事は一つだ。

「和泉一文字」

 この刀の銘を告げる、するとこのプロメテウスで出来た刀は、自分を主人として認めるように淡く発光し、光が止む。

 ―チン―

 光が止んだと同時に抜刀し、斬り払い、納刀する。それだけの行為だ、それだけの行為をして、人質の拘束を解き、すぐさまミーシャを救出する。

 強盗達は今何が起きているかは、理解できていないだからこそ今の内に…。

「早く外に出て!」

 そう声を掛けると人質に取られていた人間全員が、外へと走る。

「ミーシャも立って?」

「で、でも」

「また買えるし、買ってあげるから…ね?」

「わ、わかったわ」

 そう彼女が立ち上がり外へと出た瞬間。

『警報装置が作動しました、警報装置が作動しました』

 

警報装置の作動と同時に俺だけを残してその場に閉じ込められる。

 参ったな、と後悔していると同時に、一発の銃声が響き。急いで物陰に隠れる。

「よくもやりやがったなぁ?このガキが!」

「そっちこそ、よくもミーシャを泣かせたな?」

 彼女を泣かせたことを、俺はかなり怒っているらしい、怒りが湧き刀を握る力が、今一度と強くなる、許さないのはこちらのセリフだと言ってやりたいが…、生憎と今の俺は身体能力が高いだけの一般人と差して変わりはしない、そして恐らく彼らはそこら辺に置いてあった、展示物のswordを自分の物にする違法コードか何かを使って、自分の所有物としているのであろう。

「死ね!」

 ―パァン―

という何かが破裂する音と共に、目の前から鋭く尖った岩が飛んでくる、左目の視力は衰えている、しかしそれでも右目がある。それに動体視力は銃弾も属性攻撃も見きれない程劣化した訳ではない。

「甘い!」

 ―キィィン―

 甲高い鉄の音が、高速で螺旋状らせんじょうに回転しながらこちらへ来る銃弾と、硬い岩を真っ二つに斬り落とし、その切り落とした破片が後ろの戸へと突き刺さる。

「貫通して、逃げられるなんて甘い事はないか…」

 この刀手に馴染み、凄い斬りやすいと思うのも束の間、第二第三射と連続で発砲された銃弾を斬り落とし続ける。クッソこれでは防戦一方で先にこちらの体力と集中力切れで、頭をぶち抜かれて、本当に死んでしまう。

「一度撃つのを止めっ、やがれ!」

 そう言いながら物陰に一度身を隠す、自分で言うのもなんだが。こんな自分の所に正確に向かってきた弾丸だけを斬り落とすなんて事、長い間続く訳がない。だからこそ身を隠しながら、一歩一歩着実に相手に近づき、最速で相手に斬りこむしか道はない。

「よしっ」

 覚悟の準備を決め、今一度強盗の前に立つ。今度はもう少し銃との距離を近づけて…。

「予想通り出てきやがったな、馬鹿め!」

 流石に動きが単調すぎたのか、それとも幾ら強盗をする人間だからといって、相手の思考を舐めてかかった自分の落ち度か、完全に自分が出た瞬間を狙われた。


 ―ギィィィンー

 鈍い鉄の音が響き渡る、swordとswordがぶつかり合った音がする。強盗の一撃は容易く受け止める事ができるが、問題はその後だ。銃を持った二人に対し完全に横を向いている、自分は完全に不利な状況におちいった。

「ッチ、避けられない!」

 ならば、気は進まないがしょうがない、その目出し帽もどうせ特殊な繊維ヘファイストスでできているんだろう?だったら少し痛いだけで死にはしないはずだ。

「先に謝っとくよ」

「なっ?」

 強盗の首根っこを左手で掴み上げ、自らを守る盾にするようにして、前へと進む。これならば強盗達二人の攻撃も防げる。

「これなら、進める!」

 人を盾に進む姿は、まるでこちらが悪人そのものだがブレインも無い今、相手の技術をコピーしそのまま同出力で当てる事もできないのだ、しょうがないと言い聞かせ、自分は進み続ける。

「ぐわぁぁぁあああ」

 左手に持つ男の、悲痛に叫ぶ断末魔を聞き、構わず銃を撃つ二人に完全に接近した時、初めてこちらのターンになる。

「今度はこっちの番だ!」

 最接近した時左手に持っていた人間は壁に投げ捨て。

 一人目の敵には、上段から頭を斬るよう刀で斬り落とし。

 二人目の敵は、その振るい落とした威力をそのままに、腹を斬るようにぎ払う。

「「ガッ」」

 息を吐く暇もない、プロメテウスを持ったことによる、身体強化も合わさった同時攻撃これならば、少しの間気を失ってくれるだろう。一応念の為に盾になってくれた人の頭にも刃の反りで一撃をお見舞いして置く。

「グぇ」

 その声が聞こえた時点で恐らく、意識は既に失っていただろう。とはいえコイツらも中々に酷い事をする、幾らヘファイストスの服や素材だって無敵では無いのだ、装甲が削り切られたらそれは、ただの服と変わらない。


 だがもう終わった事だ、警報装置を解除して後はコイツらを警備員にでもつき出せば、事情聴取位は取られるだろうが、それさえ終われば解放してくれるだろう。全く災難な一日だった。

「えーっと、警報装置の解除法はっとぉ?」

 もう既に意識ある人間は居ないと思っていた、というか全員倒したと思っていただけど、一つ疑念が残る、最初見た時、強盗は何人居た?4人居たはずだ。

「よぉ、坊主よくもやってくれたな」

「なっ!?」

 ―ギジジジ―

 なんとか防ぐ事ができた、けれどもコイツの一撃は重たい。

「吹っ飛べ!」

「グワッ」

 重たい一撃に吹っ飛ばされ壁に激突する。先程まで戦っていた人間達は明らかにswordに使い慣れていない、素人だったが。だがコイツは違う、明らかに使い慣れている、しかもswordも自らのモノであろうあんな斧の様なsword素人が使いこなせる訳がないし、そもそもプロメテウスの身体強化のしの字も知らない素人とは違いコイツは、身体強化というものを理解していだ。

「アンタ何者だ!」

「名乗る程の者じゃない、特にこれから死ぬお前にはなぁ!」

 凄まじい速度の乗った一撃が、一瞬で自分の喉元まで向かってくる、本当に殺す気だ。こちらのヘファイストスが無い、首元を狙ってきた。ならばこちらも…。

 刀を納刀し居合いあいの態勢に入る。これならば、正面からの一撃ならばこちらの方が速い!

「ふっ、甘いな。そんな手しかないとは」

 甘いのはどっちだ、学生だと思って舐めてかかるな。この和泉さんが作った和泉一文字はかなりの代物だ、それこそブレインも使えなくなった無能である俺にはもったいないくらいの…。

「《霧が持つ一撃ミスト》」

 その瞬間であった、周囲に霧が立ち込める、警報装置の一種であろうか?それならば、今の内に警報装置を解除して。

「甘いと言っている!」

 何も見えない視界から、急に斧が見えてギリギリの所で回避する。

 どうやってここを?という驚愕よりも先に理解は出来たこれは警報装置の機能なんかではなく、ブレインである事は。

 厄介な事この上ない、ただでさえこちらのブレインは使えないと言うのに…。

「どうした?アイツらに張っていた威勢はその程度か?」

うるさいな、お前」

 しかしながらならばこちらの取る態勢は一つ、居合の態勢は変わらず。意識を目から耳へと研ぎ澄ます。

「どうした、諦めたのか?」

 その受け答えには答えない、今の自分は極限にまで集中しきらないと、首を跳ねられて死んでしまう、ならば確実に後手になる現状であるならば、それでもカウンターを狙う事しか今の俺には勝ち筋がない。

 ―キィン― ―ガキィィィン― 

 何度も刃と刃がぶつかり合う音が響き渡る、完全に後手に回っているがそれでも回避できれば、回避をして。できなければ最速の居合で防ぐ、目の前が見えない俺に出来る事はそれだけであったから。


 ―キィィンー

 何度も何度も防いでいる内に、一つだけ試してみたい事ができた、コイツの攻撃はその狙いの性質上、首を取りに来る事しかしない。その考えを持っていれば防ぐ事は容易ではあったから、試すならば今しかないと思ったのだ。

 目を開き、属性を纏う。するとやりたいことを体が理解したのか、いや違う俺がこれを何の努力も無しに使える筈がない、ならばこれは自分自身のブレインの残りかす、今まで見て来たものを、せめてこれから覚える事が出来ないのであれば、覚えている限りの物を使えと言う自分自身に許された物かもしれない、だからといって《全てを習得する目オールラーニング》の下位互換どころかただの、当たり前の事だが…。無能な俺が今唯一使える、ただの記憶というブレインだ。

「《習得し尽くした瞳ラーンド・アイ》!」

 これは《全てを習得する瞳》とは違う、これは記憶だ、覚えている限りの記憶がそうであったと使用可能となるブレイン、謂わばただの、《全てを習得する瞳》の劣化、一度習得した技術を覚えている限りは使えるという、当たり前の事をするブレイン。だがそれでいい、無能な自分にはそれだけでいい。

「取ったぁぁあああ」

 見えない霧の中から出てくる大男を避け、彼の技を思い出す。

疑似・影縫いかげぬい!」

 相手の動きを止める信辰のぶたつの技、それを思い出し相手の動きを止める。

「体が動かんっ?」

 それから抜け出すのは、少々手こずるぞ?だがそれももう関係ない一発で仕留める。

疑似・プロミネンスプロミネンス

 ミーシャの技を真正面から当てた直後であった、後ろの扉の方からも、恐らく彼女の一撃である、本物のプロミネンスが飛んできて、強盗含む自分達全員が巻き込まれるのは…。

 多分これが今日最後の記憶だ、凄い熱かった。死ぬかと思った。強盗に追い詰められた霧攻撃よりも死ぬ気がした、ミーシャにこの二言を言う事を、俺は絶対に忘れない。

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